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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 093 女は目で殺す


 パルス・プリムスの仕合ともなると小キズこそあれど大きな傷も出来ないらしい

 力と技術で拮抗しており剣や槍が当たっても皮一枚で止められるのだとか、もちろん人気者が多く助命も大体通るらしく生き残る確率は高いんだそうだ



 そんなことをソテリオウスのお弟子さんに聞いているとカヒームが登場した


 会場は黄色い声援が鳴り止まず耳鳴りがしそうだ


 栃色の長髪をポニーテールに白い紐で結び、顔がしっかり見えるように前髪も上げている


 応援の声に顔を向けて手を振ったりウインクしたり投げキッスをするとただでさえ黄色い声援が耳に槍でも刺さったかのような痛みを伴う刺激に変わっていく


 赤いガレリアとオクレア、髪の色に合わせた腰巻きと土色の網、銛の代わりに木の短めな槍を持っている



「ありゃ〜カッコいいわ」


「そうですね〜」



 カヒームの登場で観客席は最高潮、反対側から青い防具で赤い盾のムルミッロが出てきたが誰もそっちを見ていないんじゃないかと思うほどの黄色い大声援だ


 審判の声など全く聞こえない、白い木の棒が振り上げられてウォーミングアップが始まった、お互いに落ち着いており軽い打ち合いと足の動きの確認程度で済ませ本番になる


 カヒームの銛は二又で少し長い、柄尻に小さい丸い鉄球が付いているのが特徴的だ

 相手は少し大きいグラディウスだった、ゴリラみたいな毛深い大きい体には丁度いい大きさに見える



 再び審判の棒が振り上げられて直ぐにムルミッロが怒涛の攻撃を仕掛けてきた

 かなりの速度の突きや大盾での応酬だったが銛やフットワークで冷静に躱していくカヒームに大きな声援と痛い程の悲鳴のような応援が寄せられている


 怒涛の攻撃を涼しい顔で捌くカヒームの網が絹の布のように靡き始めた



「そろそろ仕掛けるかな?」


「ですね」



 マシュアルも食い入るように見ている

 切り下げからの切り上げを半身で避けたカヒームの右手の網はカヒームから見て大盾の右下の角に一部を引っ掛け盾のすぐ後ろの左足のつま先前でフワリと網の入り口を開いた


 一歩中途半端な距離を下がったカヒームを追いかけるように足を出したムルミッロは自分の左足が引っ掛けた網で盾を下に引っ張られ大きく胸と腹を曝け出し右腕はバランスを取るために開いてしまった


 弱点丸出し状態と言っても過言ではない


 カヒーム銛を突き出した


 この状況であれば普通なら寸止めかちょっと刺して終わりにするところを二又の根元まで鳩尾に差し込んでから抜いた



 心臓ド真ん中だったのだろう仰向けに倒れたムルミッロの胸が動く度に2つの穴から血が間欠的に噴水のように噴き出し徐々に勢いを弱め動かなくなった



 マシュアルは隣で震えていた


 マシュアルの肩を組んで寄せ、体の震えを納めるように背中を擦った


 カヒームなりのケジメだったんだろう



 黄色い声援の中、主催者のトーガのお兄さんから木剣を受け取ったカヒームは木剣を掲げたまま技場を練り歩いて剣闘士生活に幕を下ろした




 手術道具を纏めて控室に戻ると、血を拭い落とし終わったカヒームが待っていた



「カヒーム、お疲れ様」


「マツオ見ていてくれたか?」


「ああ、圧倒的だったよ」


「カスタノスの仇も取ったし、これで俺も隠居の身だ」


「これからどうするんだ?」


「そのことなんだがマクシミヌスよ」



 声を掛けられたマクシミヌスは目を輝かせて振り向いた



「もしかして?」


「俺もドクトレとして雇ってくれるか?」


「大歓迎さ!なんならドライオスの代わりにマギステルでもいいくらいだ」


「それは遠慮しておくよ、任期はマツオが帰ってくるまでにしてくれ」


「ずっと居てくれて構わんぞ」


「そういうわけにも行かん、地元に帰る約束はしてきているんだ

 マツオが帰ってくるまでに後任のレティアリウスを育て上げるのさ」


「楽しみだな」



 マクシミヌスの表情は安堵と嬉しさでニヤニヤが止まらない、明日の仕事忘れとるんじゃなかろうか?



「皆、帰る準備しておけよ

 報酬を受け取ってくる」



 マクシミヌスがスキップで出ていった

 アルティマタスはまだ寝ている、こいつ大丈夫か?


 刀は既に灰で磨き脂と血抜きを軽く済ませた状態で鍛冶師のディニトリアスのところに届けてもらってあるし槍も同様、カスタノスの防具も綺麗に拭き取り終えておりあとは荷に積むだけの状態だ


 一通りの道具チェックを終えてマクシミヌスを待つと一段とニヨニヨした顔で戻ってきた


 アルティマタスと一緒に出たゲルマン討伐戦の給金は2人で金貨50枚と目が飛び出るような金額だった

 本来なら生き残ったグラディアトル側に支払われる予定だったそうだがコチラが勝ってしまい総取りとなったのだ

 アルティマタス単独で出たチロ戦は青銅貨で10枚にしかならなかった


 兵士のオディッセアスは正式に解雇が決定し退職金(手切れ金込み)として金貨10枚と観客を盛り上げたサービスでプラス5枚が支払われた


 ババンギとセバロスには金貨で2枚、あんまり盛り上がらなかったからだそうだ


 カヒームは最後やり過ぎとのことで金貨で20枚、本来なら30枚だったとかすげえ


 カスタノスの死の値段は金貨20枚、命の値段とは安い物だ



 本日開催予定だった奴隷市は明日に延期、マクシミヌスはカヒームと一緒に買いに来るらしくその際にカスタノスを預かる予定に変更されたと衛兵さんから通達がありそれぞれの荷物を持って寄宿舎へ帰還することになった


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