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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 092 ドクトレ候補


 弓の兵士は治療所へ連れていきマシュアルと共に治療を開始


 首は症状的に中心性頸髄損傷(首の骨に衝撃がかかって脊髄の中心部分が傷んだ状態)と推測された、今回は頸椎カラー替わりのマフラー固定法(気休め)で対応することにした


 右腕は肘頭骨折(肘の皿の部分)と脱臼骨折で近位の橈骨輪状靭帯も一部断裂しており肘がプラプラの状態だった


 麻酔薬を飲ませて治療を開始


 マシュアルは尺骨(肘から小指側に伸びる前腕の骨)の整復に髄内釘固定法を選択した

 骨の髄(骨のパイプ内側のメッシュ構造部分)に金属を差し込んで固定する方法で今回使うのは金だ

 特注品で金貨を潰して作ってあるL字型のワイヤーを二本上腕三頭筋の腱を避けて肘の皿から入れて骨を固定(金は柔らかいので錐で先に穴を開けてある)、90度に肘を曲げて支柱を入れ込んで包帯で固定し終了

 3週間固定しその後動かし始めてもらうのだが目覚めはもう少し後なのでのんびり待つことにした

 他には肩脱臼もあったが肘手術前に整復済、一部腱断裂が有りそうだがどうしようもないので放置だ



「なあマツオよぉ」


「まだ居たのか?」


「金は誰から貰うんだ?」


「マクシミヌスが後で分配してくれるぞ」


「ならいいや、お疲れ様〜」



 アルティマタスはそれだけ聞いて控室に戻っていった


 これからパルス・プリムスの戦いが始まるがさっき撒いた錆鉄回収と主催者交代で少し時間がかかっているがまだまだ夜は長い



「マツオさん強いんですね」



 ソテリオウスから声を掛けられた



「いやいや作戦勝ちですよ」


「あの刀でしたっけコンモドゥス帝が肌見離さず付けてましたよ」


「光栄ですね」



 他愛無い会話をしながら兵士の目覚めを待つ

 因みに相手取った10人のグラディアトルは全員死んだらしい、生きるためとは言え申し訳ないのでマシュアルとともに手を合わせて般若心経だけ詠んである



 パルス・プリムスは全部で3組、カヒームは大トリだ


 1組目が大盛り上がりで終えた頃に兵士は目を覚ました



「おはよう、まだ夜だけど痛みはどうだ?」


「ん?ああ、さっきよりはいいけど痛いな」


「肘の角が折れてたのでマシュアルが金の金具で骨を止めた、肩も外れていたがそっちも整復済だ

 ただ首を痛めたのは無理できない、動かし過ぎれば脊髄が断たれて2度と手足が動かなくなる可能性がある

 ちゃんと固定するものがあればいいが見つからないもんでね、トーガ見たいなのをクルクル巻いて動かさないようにしているといい」


「分かった

 しかしこれからどうして生きていくか、ローマの軍には戻れないだろうな」


「グラディアトルになるか?」


「いやあ無理だろ手の痺れが強いしな」



 手をグーパーしながら確認しているがなんともない左手も揺れているように見える



「グラウクスに習ってウーンクトゥルになるかソテリオウスかマシュアルに習ってメディケになるか?」


「冗談だろ?手の震えるメディケは怖いぞ」


「確かに!」


「ただウーンクトゥルはいいかもしれないな

 兵士を辞めたら雇ってくれるかな?」


「マクシミヌス次第だけどな」


「それでも働けるならそれでいい」



 ローマの自由民でも奴隷を買って養える程のお金を持つ人はそう多くない

 解放奴隷の子供は自由民だが親が裕福になれないために産まれてしまった子供を神殿や病院前に置く(保護され奴隷として生涯を過ごす者が大半だったらしい)程に困窮している者も多く居たのだ


 マシュアルによればカヒームの登場まで出番がもう無いらしい、ババンギも見れなかったが掠り傷程度で勝利していたそうだ


 マシュアルを残して弓の兵士を連れて控室に戻るとアルティマタスが廊下に倒れていた、マクシミヌスに聞くと緊張が抜けて寝てしまったんだそうだ



「ウチで働きたい?ウーンクトゥルになれるかって?」


「もう弓も引けないし剣や槍を持つにしてもこの痺れた手じゃもう…」


「いやぁまぁそうだろうけどもグラウクスが何と言うか

 カヒームも恐らく今日が最後だし、マツオは居なくなるしグラディアトルの方が欲しいんだが」


「そうか」


「痺れが回復すればグラディアトルでも良いのか?」


「う!うーん、どうだろうか」


「剣、槍、盾、弓が人に教えられるか?」


「一応ローマ正規軍では一通りの武器は扱ってましたが最近はショボくれた元老院の護衛だけだったんで」


「教えられるならドクトレをやるか?うちのドクトレが2人居たんだがドライオスがマギステルに昇格、マツオは居なくなるんで誰も居ないんだ」


「グラディアトル相手は無いですけど仕事を貰えるならやります!」


「良し!あとは腕が治ったら試験だ

 それまで無給だがいいか?」


「住むところと食べる物があれば」


「そこは何とかなるだろうさ」



 弓兵さんの名前はオディッセアス

 茶色のクルクル天パで短く揃え髭は無し、垂れ目で横長に潰れたような顎のしっかりしている顔だ

 35歳独身、両親は既に他界、兄が家を継いで結婚したため家を出て兵士となり戦場を転々としているうちに現在の元老院議員の護衛に収まったらしい、簡単に言えば天下りだ


 騎馬、槍、盾とグラディウス、弓、調理と救命処置まで器用貧乏になんでも出来るだとか



「マツオが居なくなるから丁度いいな」



 マクシミヌスの心無い一言に傷付くナイーブさをお持ちでいらっしゃる私です



「マツオさんとは何方で?」


「自分です、名乗らずにすみません」


「確かに強いグラディアトルなのにメディケにドクトレと器用ですね」


「ありがとうございます」



 新たなドクトレの採用を取り付けて満足なマクシミヌスと不安げなオディッセアス、歓迎しているような何でもいいような他の面々の温度差が激しい


 そろそろカヒームが出る番が来そうだ


 治療所に戻りマシュアルとともに横溝から覗き込んでカヒームの出番に備えることにした


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