敗残兵、剣闘士になる 090 二人の凶
控え室にいたアルティマタスは平然とした顔をしていた
「よくそんな顔をしていられるな?」
「コンモドゥスより強い奴がいる気がしないからな」
「確かにカヒームより不気味な奴も居なさそうだしな」
「だろ?だから大丈夫だ」
「そうかもな」
「どういう意味だ?」
アルティマタスとアホな会話をしていたカヒームが戻ってきた
「誰が不気味だって?」
「もう少ししたらアルティマタスと2人で10人叩き斬りに行かなきゃならないけど不気味な強さのカヒームとか猪突猛進なコンモドゥスより強い奴が居ないから大丈夫だろうって話してたのさ」
「なるほどな、それ俺も出て良いのか?」
「ローマとその属州出身以外なら出られるらしいぞ」
「そうか残念だな〜
でももう一人出られるんじゃないか?さっき通りすがったのもそうだと思うぞ」
「じゃあ3人の可能性もあるのか、とりあえず壁を背にしてなるべく3方囲まれないように立ち回るしかないだろ」
「マツオに教えてもらった型がやっと役立ちそうだな」
「弓矢が居ないといいけど」
「マツオ、提案があるんだがいいか?」
「カヒーム何かあるのか?」
「カスタノスの使ってたガレリアとオクレア使ってくれないか?あいつにも勝ちを味合わせてやりたいんだ」
「分かった、有り難く使わせて貰うよ
俺防具アルティマタスにあげたから持ってないんだ」
「宜しく頼む」
「おう」
カスタノスの使っていたセットをそのまま拝借し装着、カヒームのお古らしいが手入れもされており綺麗だった
槍はもしものために持ってきてくれたそうだ、刀を腰に差しローマ式だが少し重い槍を持ち少し素振りをする
なんとなく飛び道具欲しいなと思う今日この頃、倉庫あるかな?
「倉庫に行ってくる、短剣探してくるわ」
「なるほど!俺も行く」
マクシミヌスを伴ってクズばかりの倉庫を漁ると5本ほど錆が浮いた短剣が見つかった
「レティアリウスの網切りナイフだな」
マクシミヌスは物知りだ
ナイフ5本は3本をアルティマタスに渡し2本は自分の腰に差した
小振りな錆びた斧も発見し右手に持ち、朽ちた金属片達を集めて巾着に入れて腰に提げた
「マツオは凶悪だな!俺もやる」
アルティマタスも何に使うか分かった様で錆びて朽ちた金属片の尖った物を中心に集め巾着に入れた
剣闘士達は殆どが裸足だ、撒菱の代わりになれば万々歳だろう
「そろそろ行くぞ」
「「おう」」
闘技場入口には誰もいなかった
「やっぱり2人だったな」
マクシミヌスがため息をつきながらこちらを見て言った
「最初からそのつもりだったんだ、構わんさ」
「そうだな、掻き回して暴れてくるだけだ」
左手に持った槍と右にいるアルティマタスの槍を合わせて相づちを打ち鳴らした、今回は最初から武器携帯で行くサバイバルだ
「どっちが多く狩れるかだな」
「勝負するか?」
「やめておく多分5人ずつだ」
「面白くねえの」
アルティマタスは不貞腐れたフリをしているが実に楽しそうだ
「じゃあ俺が勝ったら鳥を撃ってきてくれ、アルティマタスが勝ったら俺が鳥料理を振る舞ってやるよ」
「結果は同じじゃねえか!」
「良いんだ、帰ってきたら一緒にまた旨い飯を食おう」
「おうよ」
「時間だ、上がれ!」
衛兵に急かされ階段を登る
マクシミヌスは祈るような顔をしているが今にも泣きそうだ
「マクシミヌスもまた旨い飯を囲むぞ、何が食いたいか考えておけよ!」
「ぉ、ぅ」
「返事は!?」
「分かってるわ!」
「じゃあ行ってくる」
湧き上がる生への渇望が自然な笑顔に変わっていた
アルティマタスは大観衆の応援を一身に浴びて興奮が突き抜けている感じだ
「民よ、これがローマの民の王を讃える歓声か」
ラリってるな
「もっと讃えよ!我はもっと強く成るぞおおお!うおおおおおおおお!」
横目に見るとちょっとやばい奴になってるな
でもお陰で何か冷静になれた、俺も一言叫んでおくか
「うおおおおおおおおお!」
何か気持ちいい
ここの闘技場は縦長だ100メートルより少し長いか、横は80メートルそこそこしかない
観客席は3メートルほどの壁の上に9段くらいだろうか数千人の観客がいる
下段は白いトーガ来た男共、それ以上も殆どが男だが上段の方には女性もチラホラ見える、弓を持った兵は見えない
20メートルほど進んだところで審判に止められた、ここが開始位置だ
反対側から剣闘士達が上がってきた、揃いも揃ってバラバラの防具と武器だが弓を持つ者は居ない
レティアリウス(網闘士)が2人、他は似たり寄ったりで大盾が8人だ、ちょっと面倒くさそうだ
「凶悪なコレが効きそうだな」
アルティマタスは腰をトントンと叩きながら悪い笑顔で呟いた
「そうだな、あとは後ろに入ってきそうなあの兜なしを先に狙っておきたいな」
「ナイフでやるか」
「俺は斧を投げる」
「準備がいいな」
やることは決まった、あとは殺るだけだ
「始め!」




