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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 088 念仏


 チロ(新人)戦が終わり今度はマリディアーンでもノヴィティウス(未熟者)が出る番だ


 最近になってようやく位階分けされているのを知った、もちろん講師はマクシミヌス先生だ


 きっかけは称号だった

 スーブヴェンテンティスという称号を貰ったが他には何があるのかと聞くと端麗者のヴルトゥスをカヒームは持っているのだとか、納得だ

 最上級者と呼ばれる人達は大トリで出てくるなどがあったが上級者に上り詰めるだけでも大変なのだという



 凡庸なる群れ メディオクリス

 新人 チロ

 未熟者 ノヴィティウス

 上級者 プロヴェクトゥス

 最上級者 スペラティヴムス

 端麗者 ヴルトゥス


 ※間違えてたらすみません



 で自分はどこ?と思っていたら称号を貰った時点でプロヴェクトゥス(上級者)扱いなのだそうで、グラディアトルにはなるべく戻らない方が良さそうだ



「カスタノスが出てきてますよ」


「おっ、そうだな!勝てるといいな」


「そうですね」



 カスタノスは決して弱くない、ただ強いか?と言われると決定打を打つ強さに欠けるのでなんとも言えない、器用貧乏感が出てくるのだ



 カスタノスの仕合が始まった

 相手はムルミッロ、グラディウスと大盾、頭にモヒカンな毛のようなモノが着いた兜だ

 最初は右腕に網を巻き付けたまま使わずグラディウスを銛で捌きつつ無難に立ち回り、刃のある武具を使う本番を迎えた



「始め!」



 審判の声が一際響く、いい声だ



 カスタノスは右腕の網を拡げたが巻きながら束ねて叩く準備を始めたがそんなことを悠長に待つようなムルミッロは居ない


 大盾を使って距離を詰め盾の縁の至るところからグラディウスを突き出してくる

 銛やフットワークで距離を取りながら避けるが少しずつ切り傷を増やしていく



「あのムルミッロ、動きの基本は出来てるし速いな」


「鍛えられてますね」


「うん、その鍛えあげられた動きにタイミングを合わせようとしているように見えるな」


「そうですね」



 マシュアルもよく見えている、マシュアルも十分に強いと思うけどな


 次の攻撃でムルミッロが前に出ようとした瞬間にカスタノスの網が前を遮る

 まだ自分の動きになっていないため届くか届かないかくらいの距離でグラディウスが出てきた

 カスタノスは冷静に二股の銛の間にグラディウスを差し込んで絡めて弾き飛ばした



「よし!あっ」



 カスタノスは決して油断したわけじゃない

 ムルミッロは勢いのまま、大盾まで放り出しカスタノスを素手のまま押し倒し何かを仕掛けた、武器を使うより組み手の方が明らかに上手いのが見て取れる

 背中しか見えておらずいまいち分からなかったが嫌な予感だけはしていた


 そこからはほんの一瞬だった


 体勢を崩したまま銛で突こうとした左手が突然に落ちて痙攣し、そのまま動かなくなった



「首を折られた?」


「え?」



 冷や汗と腰のあたりから広がる悪寒が止まらない



「マツオ!カスタノスは大丈夫なのか?」


「…」


「おい、マツオ!」



 マシュアルが必死に服を掴んで揺さぶってくるがその声は震えており自分の見解が間違えていることを願っているようだ


 首を横に振って見せるとマシュアルはぺたんと尻餅をついて声も出せず放心し、涙は蛇口を捻ったように流し続けていた


 白頭巾がカスタノスの頭を叩いているが、それも確認程度に過ぎず手足を持って引き摺りながら闘技場から連れ出していくのが見えた



「マツオ!」



 カヒームだ、恐らく見えていたのであろう

 既に泣いており、結果は分かっているようだ


 首を横に振って応える



「そうか、後継ぎにしようと思ってたんだがな」



 腰に手を当て天井を仰ぎ見ている、涙を溢さないように



「残念だな」



 そう言い残して行ったその背中はなんとも言えない喪失感と例えば煮え滾る溶岩のような熱気を感じた



 数分後運ばれてきたカスタノスの体はピクリとも動かず毛穴までしっかりと見え、半開きの目は何を視てもおらずただただ肉の塊としてそこにあった


 マクシミヌスの指導の元、マシュアルとともに装備を剥がし体を洗い麻布に包んで名前を書いた



「うちは土葬はしない、今日の終わりに火葬する、安置所に行くぞ」


「はい」



 奴隷さん達に運んでもらい半地下のような冷えた暗い部屋に安置した


 既に2人が並んでおり、3人目がカスタノスだ



「人間の終わりなんてのは呆気ないよな」



 マクシミヌスがボソッと呟き始めた



「何人も見送ってきたがマツオが来てからは死にかけても死ななかったから何処かで俺にも油断があったんだと教えられたよ」


「自分は初めて見送る側になってこんなに辛いものかと実感させられたよ

 兄弟が死んだ時の埋まらない穴が空いたような感じかな

 接近戦は確かにしていなかったな」


「そうだな、マツオはできるか?」


「大丈夫だ」


「そうだった、重装備のウェテラヌス蹴り殺したんだもんな」


「懐かしい話だが殺してはないぞ」


「歩けなくしたんだ似たようなもんだろう?」


「大分違う気がするが

 そうだ、話は変わるがカヒームの今日の相手はムルミッロか?」


「そうだ…あっ」


「カスタノスを殺った相手と同じファミリアか」


「そうだ」


「あれは殺る気だな」


「カヒームは相手に傷つけすらしないで勝つからな〜今日は怖いな」


「カヒームが負ける想像はやっぱり出来ないからな〜後で慰めようか」


「それもそうだな、あとで酒でも買いに行ってくるかな」


「そうだな〜

 カスタノスに最後の挨拶と祈りを捧げて行くよ」


「そうしてくれ」


「ああ」



 カスタノスの頭の方に正座をして呼吸を整え手を合わせた



「摩訶般若波羅蜜多心経

 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時...

 …波羅僧羯諦 菩提薩婆訶 般若心経〜」



 手を合わせて冥福を祈った



「マツオの国の祈りはなんだかクシャンとかサータヴァーハナとかあっちの方の祈りに近いんだな」


「クシャンとかサータヴァーハナとかが何処か分からないけど原型は同じな筈だ、その国のもっと東の海の向こうまで伝わって来た教えだな」


「なるほどな〜確かに遠い国なんだな」


「そうそうそれに戦争中だから帰るに帰れないんだ、よほどローマの方が平和さ」


「ほ〜、あ、そろそろセバロスが出てくるな

 カスタノスは残念だったがまだ生きてる内にやらなきゃいけないことが沢山ある

 今日もメディケ宜しく頼むぜ」


「はい」「はい!」



 マシュアルもどうにか泣き止んだらしい


 なるべくならもうここには来たくないものだ


 背を向けるのは申し訳ないが生きている内にやるべきことは沢山あるというのはその通りだ



「カスタノス、また帰りに迎えに来る」



 軽い別れを言い、自分の持ち場に戻った



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― 新着の感想 ―
[一言] >カスタノスが必死に服を掴んで揺さぶってくるが…… マクシミヌスか他の人の間違いだろうかね?
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