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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 078 腕試し


 翌日、マクシミヌスに呼ばれハルゲニスに旅の報告をした


 ハルゲニスからはパルス・プリムスでの勝利は良くやったとお褒めの言葉を頂き、厄介なアルティマタスを連れてきおってとグチグチ責められ、ラバは居ると助かるとまた褒められた


 山火事で先に進めず船に乗せて貰えないかと2日粘ったが武具の荷物が多く許可が降りず泣く泣く諦めて帰ったことは深々と頭を下げて謝っていた

 帰ってきてから数日後にコンモドゥス帝から山火事について情報提供への感謝の書簡と金貨が届けられたそう、自分が貰えるのかな?と思ったがルドゥスの運営資金に回すそうで少しガッカリ


 最後にマシュアルの借財の半分の金貨20枚を返済、ハルゲニスは手元に集まった金貨を見てほくそ笑んでいた




 朝の訓練に行くとハーランド、ビョルカン、ニゲルの3人もマリディアーンには出るなとコンモドゥス帝から直々にお叱りを受けたそうで皆パルス・セクンダスのクラスでの出場になるらしい


 ドクトレのドライオスには喜ばれルクマーンとイフラース、カヒームも一緒の訓練をすることになった


 死にかけセバロスは普通に動けるようになっておりニゲルに先を越されたことに怒りと悔しさを覚えたそうだ、セバロスも十分強いのだが次はまだマリディアーンでの出場となる予定だ



 それで、問題のアルティマタスだが本当に問題だった


 セバロスが新人の手合わせをしてやると前に出てきたのでアルティマタスと手合わせをしてもらうことになった


 アルティマタスの選んだのは円形の盾と槍の組み合わせ、まさしくホプロマクスなのだが盾は手で持たずに腕まで通し両手で槍を持つ格好だ



 マクシミヌスの声で始った


「構えて!始め!」



 アルティマタスは中段で長めに槍を持つ、練習用は細くかなり軽いが重たい槍でも十分に同じ構えが出来そうだ


 セバロスは何か感じ取ったのか最初から表情が鈍い、見ている皆も同じように感じているのかちょっと顔色が曇っている様子だ


 全く構えが崩れず隙がない、10日間の運び足と摺り足の練習で粘り腰で出来上がりつつあるというか最初からある程度出来上がっていたのだろう


 砂浜の上でも全く苦にしない、踏み込む訳でなく重心移動に合わせた突き、払い、巻き打ちと槍の使い方は一流だ


 セバロスが踏み込もうとすれば盾を槍先で押さえて重心を崩す、セバロスの突きは打ち払われ最後は巻き上げて槍を「パカーン!」と取り上げられてしまった



「止め!それまで!」



 セバロスより戦闘の経験が多く、槍の使い方の教育もされている、そこに武術の基礎である足の運びを少し追加した相手に対して申し訳ないがセバロスでは敵わない

 日本の武術が最も優れているわけではないと思うが一撃必殺に掛ける動きとその気持ちという点では世界にも引けを取らない物だと自負している


 しかし全ての武術を見た訳ではないので混ざり合って一つの形になればそれで良し、一つを突き詰めてもいいだろう


 死線というのはいつどんな状況で訪れ、相手の人数もその時まで分からず得物も不明というのが鉄則である

 その不確定な3つに完全に適応出来た者だけがその先の道を拓けるのだ


 戦国で言えば上泉伊勢守信綱、宮本武蔵、伊藤一刀斎、雑賀孫市なんかもそうかも知れない


 このローマで言えばコンモドゥスがそれに当たる可能性が高いがアルティマタスも十分に素質があると思う

 残念ながら自分はそこに至れないだろう、何せ逃げたい気持ちの方が強いからだ、生きる逃げではなくただの逃げだからだ、それで子供の頃に一度諦めたのだから



「マツオ、やらないか?」


「は?」


「マツオが槍を教えているんだろう?」


「まあね」


「槍を合わせて見たくないか?」


「死ぬのは嫌だぞ」


「こっちもだ」



 アレラーテで使った棒も貰って来ているし自分用に作った練習用の棒もある

 なぜだかこっちで作った棒の方がアルティマタスに合う気がする



「俺専用の槍なんだがアルティマタスの方が合う気がするんだ、持ってみてくれ」



 左に持っていた少し重く太い棒を投げ渡す



「グッと来る、いい重さだ

 これだったら穂先など無くても人が殺せてしまうじゃないのか」


「十分にやれるだろうな」



 セバロスに代わりアルティマタスの向かい側に立つ



「そっちのもいい物だな、でもこれは何だか手に馴染む、貰っていいのか?」


「やるよ、本番用の穂先のついてる同じ形の槍も」


「ありがとう、じゃあやろうか」



 マクシミヌスが凄い嫌そうな顔で引け腰のまま審判に立つ



「怪我するなよ、寸止めするんだぞ?」


「はい」「約束する」


「じゃあ構えて!始め!」



 最初は一番やりやすいの中段で構える



「キィエエエエエエ!」



 先ずは声出しだ、これで緊張を整える


 アルティマタスは動かない、先にやるか


 先ずは前になっている左足の重心を抜いて重力に引かれて前へ落ちる力を突きに変える、アルティマタスは反応出来たようで槍先で軽く方向を逸らして対応された


 左足を地面に置き股関節を左へ畳むように動かし逸らされた槍先を戻しながらそのまま押し返しもう一度突く


 アルティマタスは一歩後ろに引くことで避けたが突きのまま引かずに自分が突いた分の距離を少し足の幅を摺り足で広げて詰めることで同じ速度の突きを繋げて打ち出せした


 今度は動き出しのブレやすい重心操作ではなく明確に方向を作った真っ直ぐな突きだ、押し逸らすには難しい、辛うじて上体を反らして左斜め後ろ避けたがそれは悪手だ

 重心リセットに足の指先に掛かった力を抜き股関節の右への動きで槍先の方向を変更させ首元に置いて終了だ



「止め!それまで」



 またやってしまった〜、一手も出させんかった

 何の手合わせにもなってないわ



「これは何だ?今のはどうやったんだ?突然に角度が変わる突きが止まらず伸びる?魔法の様だ」



 アルティマタスが感心して何か一人で試し始め再現するようにのめり込んでいった


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