敗残兵、剣闘士になる 007 うなぎ祭り
日が落ちてくるとまたオッサンとカヒームの看病を交替した
「マツオ、名前は?」
自分の胸に手を当てて名乗り、手の平を返して名前を聞く
いつまでもオッサンじゃ申し訳ない
「グラウクス」
「メディケ?」
「ウーンクトゥル」
どうやらここに医師は居ないらしい
「ウーンクトゥルとは?」
通じるだろうか?
グラウクスが此方に近付いてきて腕を触り肩背中と触っていく
背中と腰の間くらいのところを分厚い親指でギューーーーッと押してくる
「イーーィ、イー!」
気持ち良かった、どうやらウーンクトゥルは按摩さんらしい
「グッラーティア」
力が強いのか自分が細くなりすぎたのかちょっと痛い
「***!ヨーレシ****」
恥ずかしいのかなんなのかグラウクスはモゴモゴ喋りながらすぐにカヒームの方へ行ってしまった
グラウクスと看病を交替してヨーレシのいる厨房へ向かうと既にサラダは出来上がり、小さい豆の煮込みも完成していた
メインはというとテーブルの上の樽に入った大ウナギと大麦ごはんだ
朝の追加ごはんで味をしめたヨーレシたっての希望で鰻捌き大会が火蓋を切った
鰻を一匹捌いて二つに切り串を打つ
まずはヨーレシが焼きに入ってくれるが全部を捌き、串を打つと今度は自分も一緒に焼きに入る
焼いた物を順次重ねて蒸し上げは一斉に行う、お湯の沸いた壺の縁に木を渡しバランスを見ながら全部で24枚を重ね上げる
蓋の代わりは誰のか分からないが木で枠組みをした上に大きな貫頭衣を被せたものだ
蒸し時間は大体20~30分でカウントは腹時計だ
蒸されてくると体感としてでしか無いがちょっと蒲鉾の匂いに近付く、それが合図だ
「よし!焼こう」
ヨーレシは白焼き担当で自分は蒲焼き担当だ
軽く炙ってパリパリを戻し蒲焼きのタレにドボンと浸けて更に焼いて香ばしさを出す
隣で焼きつつ此方を見ているヨーレシの顔のなんたる緩みっぷりか
土鍋の大麦、サラダ、豆の塩煮込みなんかの皿を運んぶ毎にポツポツと人が増え、大皿の白焼きと蒲焼の山盛りを運んだ時には皿をスプーンで鳴らして待つ野獣達の集団がそこにはあった
「ヨーレシ*****?」
主がヨーレシに何か聞いている
ヨーレシは此方を指差して何か言っているが顔は厳しい
木の皿にヨーレシが二種の鰻を盛り付けると自分を買ってくれたオジサンに渡した
木のスプーンで蒲焼きの鰻を割って食べたらそのまますごい勢いで大麦飯を書き込み始めた
「「「オ!オオオオ!オオオオオオ」」」
野獣の群れが我先にと大皿の鰻を取り、かぶり付いては大麦を掻き込みサラダでリセットしまた鰻というループに入っていく
歓声で起きたのかカヒームがグラウクスの肩を借りて入ってきた
誰かが二人分取って渡すとカヒームは端っこの方で重傷人とは思えない飯の掻き込みを見せる
グラウクスは食べ方が汚い、顔中に麦粒が散らばってしまっている
まあそれだけ旨いというのが鰻の良いところだな~
ヨーレシが二人分持ってきて片方(鰻の小さい方)を差し出しくれたのでお礼を言って頂いた
「蒲焼き旨え~最っ高だわ」
タレの濃厚さの中にネギとガルムの臭さが残っているが土臭さとぶつかり旨味となって口の中にも鼻にも押し寄せてくる
恍惚とした婆さんの表情で口だけが動いている、魂が抜けていないか心配だが鰻が皿の上にある内は大丈夫だろうと思う
全員が食べ終わる頃にヨーレシが皆に何かを告げた全員の反応が同じだった
「「「「アングィッラ!」」」」