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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 076 穏やかな日常の思わぬ出費


 翌日、泣き腫らした顔でマクシミヌスとアルティマタスを伴って役所でラニスタのハルゲニス名義で奴隷登録を済ませ木の枷を外した

 その木の枷だが鍵式ではなくまさかの釘打式だったことに驚きだ、かなり危険な人物という扱いだったんだろうとマクシミヌスも言っていた


 帰り際に荷車を買いに市場へ回るが一つ気になることがあった



「マクシミヌス、興行の収入はどうだったんだ?」


「ん?ああ、分配しないとだな」


「ちなみに仕合一回でどれくらい貰えるものなのだ?」



 そういえばそれ、聞いたことなかったな



「そうだな〜、マリディアーンという昼間の出番だと多くても金貨が出るかどうか

 マツオが昨日勝ったパルス・プリムスの仕合だと多くて金貨10枚くらいになるかな

 マツオの場合メディケの方でも報酬が出たし騎馬のレースも2位だったからかなりの額を稼いだぞ」



 ひえええええええ、大儲けだわ、まだ左目お岩さん状態で背中引き攣るけど

 驚きとニヤケ顔が隠せません、アルティマタス睨まないで下さい怖いです



「荷車はマツオの金で買うけど良いよな?」


「え?なぜ?」


「槍とか運ぶ大変じゃないか」


「ルクマーンの盾の方が大変だろう?せめて折半してくれ」


「使い古しならそれほどの額じゃないさ、ほらな?」



 闘技場から少し離れた農機具の置かれたバザーのところで角がなくなった木製の二輪車(小さめな大八車)があった

 すかさずマクシミヌスが値段を聞く



「いくらだ?」


「ちょっと歳のいったラバと合わせて130デナリウス(銀貨)だ」



 1アウレリウス金貨=25デナリウス銀貨

 だから、金貨5枚と少々か〜高っ!

 腐ったような荷車で長旅に耐えられるのか心配だ、なるべく触らずに物を確認するとちょっと車輪の接続部分が泥塗りになっていて怪しい

 壊れているかもしれないなとチラッと店主の顔を見ると汗だくだ



「少し動きを確認してもいいか?」


「壊さないでくださいね」


「引いてみるだけだ、というより動きを見たいから店主が引っ張ってくれないか?」


「チッ」



 店主がゆっくりと引っ張ると裏の車軸が曲がっているのか木の車輪の動きがぎこち無いし木のタイヤがブレるのが見える



「これでは長旅は無理だな、状態の良いのを扱っている店を知らないか?」


「けっ、もう少し東に作ってる職人が居るから聞いてみるといい」


「ありがとう」



 そこでアルティマタスが口を開いた



「歳のいったラバはどこに?」


「裏にいる」



 ラバは確かに年を食っているのか毛の生え変わり時期なのに疎らな毛並をしている、アルティマタスが一回りクルッと見ていた

 傍から見ても体付きはいいし、あまり人を嫌がる様子もない



「何年くらい生きてる?」


「40年と少々」



 ラバは雄ロバと雌ウマの合の子、逆の場合はケッティと言う

 生殖出来ないと言われており仔をなさない代わりに寿命は平均で50歳前後と長い

 疫病に強く睡眠は僅かで粗食に耐える、ロバ譲りで頑固な性格が難点ではあるが無茶使い方をせずしっかり世話をして可愛がると優しく頭の良い動物なので長く働いてくれるのだ

 日本でも戦前までは使われていた記録が多々見られます



「まだまだ現役じゃないか」


「そいつは頑固でなかなか言うことを聞かないんですわ」


「そうか、マツオこのラバ買わないか?」


「ラバだけでも売ってくれるのか?」


「歳も言ってしまったしな、売れるよ?もううちじゃ使い物にならないんだ、50デナリウスでどうだ?」



 アルティマタスが唸っている



「30ならいいかな」


「よし売った」



 勝手に交渉しちゃったよ、この人

 まあ良いけど



「体を擦るブラシも付けてくれるか?」


「そいつ専用のブラシがある、一緒にやるよ」


「それはありがたい!」



 アルティマタスさん勝手に購入しちゃって〜マクシミヌスも俺の方見て金貨出して払っちゃうし、いいんかい!?



「マツオのマリディアーンの分はラバに消えたな」


「えっ!まあいいけど」


「いやぁいい買い物だったよ、こんな良いラバなかなか居ないぞ、帰ったらブラシだな」



 ちゃっかり馬具も貰って手綱を引いているアルティマタス、馬の扱い上手ね〜ラバだけど



「アルティマタスは馬に乗れるのか?」


「ああ、世話もしていた

 ただし馬は気性が荒い、その点ラバは頭がいいし粗食で健康、言う事なしの相棒になる」


「なるほどねえ」



 そこから数キロ歩いたところに材木屋さんがありその端で大八車が制作されているのが見えた

 その手前で木を切っている職人さんにマクシミヌスが声をかけた



「荷車を買いたい、在庫はあるか?」


「在庫はないな、中古はあるがみるか?」


「是非に」


「お客さんだよー、誰かよろしく」


「あいよー」



 大きな材木倉庫の奥からお爺さんが一人歩いてきた



「何をお求めで?」


「荷車を」


「直したてのが一台有りますが見ますか?」


「ああ、見せてくれ」




 倉庫の裏へ回ると1畳より少し大きな大八車が立て掛けられていた

 車軸折れと車輪も壊れた物だったのだろうほぼ新品だ



「いくらだ?」


「大きいもので大事な部分は新品だから300デナリウスくらいか」



 金貨で12枚!高い!高ーい!



「ダメ」

「ちっ」



 マクシミヌスが舌打ちしよった

 ここで自分で交渉開始



「ちなみに車輪は大丈夫なもので車軸交換だけお願いするといくらになる?」


「それなら30〜50デナリウスくらいか、大きさによるがそんなもんだな」



 いつの時代も車軸は高い物だ、買ってくるか



「納期は?」


「物が合えば今日のうちにでも」


「なるほど、持ってきてみるか?」


「ちゃんと値引きして買えばなんとなるだろう」



 一旦お暇してさっきのおじさんのお店で車軸のいかれた小さめの荷車を30デナリウスで購入、まだラバには牽かせずマクシミヌスと交代で引っ張って修理に持っていった



「うちの昔の商品じゃない、懐かしい形だな車輪が太い」


「これの車軸交換と点検をお願いしたいんだが」


「そうだな〜車軸と受けの交換で50いや40デナリウスって所かな」



 たっけ〜300デナリウスよりはいいか



「じゃあお願いします、明朝受け取りでも良いですか?」


「大丈夫!今日中に直しますよ、そのラバに牽かせるなら専用のハーネスもあるとから付けとくよ」


「ありがとうございます」




 寄宿舎に戻るとアルティマタスはラバの毛づくろいとブラシがけをし始めた、その表情は少しだけだが生き生きしているように見えた


 夕食後にマクシミヌスがそれぞれの稼ぎをそれぞれに耳打ちして回った


 今日一日なんだかんだで結構な額を使ってしまった、大丈夫なんだろうかと思っていたが杞憂に終わった

 最後の仕合では金貨12枚、マリディアーン1枚、馬レースで1枚、メディケの方で4枚と全部で18枚の収入、支出は4枚で手取り金貨14枚となった



 手持ち金貨43枚になり(つまみ食い等で一部消費あり)、帰ったら40枚支払ってマシュアルの解放をお願いしようとぼんやり考えていた




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― 新着の感想 ―
[良い点] マツオが、良い奴な点。IKEMENや。 [気になる点] 今回の戦闘描写がほんの少し解りづらかったです。 [一言] 奴隷を金貨40枚で購入して、奴隷に購入代金の40枚を払うだけで解放する制度…
[一言] 奴隷を金貨40枚で購入して、奴隷に購入代金の40枚を払うだけで解放する制度は、購入した側だけリスク高すぎませんか? 逃げても死んでも一方的に負債を抱えることになるし、武器は借金でも現物が残る…
[一言] まだ自立できないマシュアルを解放して何か意味があるのかな?
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