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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 074 蹂躪


 控え室に入ると新たな奴隷の顔を見たビョルカンの顔が青ざめ片膝をついて頭を垂れた


 ニゲルは困惑し首をキョロキョロとマツオ、ハーランド、ビョルカン、新人とモゲそうな程動かしている


 ルクマーンは話が始まるのを静かに待っている



 中に入るなり真ん中にあぐらをかいて背筋ピーンで座る新人さん、その前に膝をついて頭を下げるビョルカンとハーランド

 やっぱりこの人は奴隷にしてはいけない人なんだと確信した



 その状況で誰も何も発さず控室が凍りついたように誰も動かなくなった



「マツオ、どうした?突っ立ったまま」



 素晴らしいタイミングでマクシミヌスが戻ってきた、この人はなんか持ってるわ


 そして中の様子を見て一言



「何してんだ?」



 ありがとう!



「とりあえずマクシミヌスも戻ってきたからハーランドから説明してもらってもいいか?」


「はい」



 ハーランドがずっと頭を下げたまま話し始める



「この御方はスエビの王族リキメル家の御子息で在られるアルティマタス様だ」


「なぜそんな御方がこんなところに?」


「それは、分かりません」


「私から話そう」



 ようやく口を開いた、ラテン語話せたんですね



「私はマルコマンニとクアディの一族を率いてともにダナウに沿ってラエティアから南下しパンノニアに強襲をかけアルペスからもたらされる肥沃な土地を奪い返すつもりでいたのだ

 誤算だったのが冬が来る前にパンノニアから取って返してきたコンモドゥス率いる小軍隊と正面からぶつかってしまったことだ」



 目を閉じ口をへの字に曲げ一度話が止まったが、また話し始めた



「恐るるべきはマルクス・アントニウスばかりだと思っていたがコンモドゥスもそれと同等、いや小隊を引き連れてであればコンモドゥスの方が厄介だったとは思わなかった

 自軍の先頭に躍り出て降り注ぐ矢を凌ぎ騎馬のまま、人を人とも思わぬ突進と槍を振り回しながら草を刈るように薙ぎ倒して進むのだ」



 その情景が目に見えるように浮かびます

 まるで中国統一の時の清のえーっと呂布でしたっけ?そんな感じなのでしょうね



「万を超える軍隊が数千の部隊相手にたった1日で瓦解した、まるで悪い夢を見ているようだった

 策などまるで無し、コンモドゥスそのものが策と言えば良いのか

 あっという間に夜の前に辿り着き捕虜にされたというわけだ」


「壮絶な戦いでしたね」


「あれは戦いではない、蹂躪というのだ」



 涙ぐんで訴えるアルティマタスにどんな言葉をかければいいのか、全く考えつかない



「まあ、生き残っただけ良いんじゃないのか?

 生きてりゃ何かあるだろ、あとはそうだな〜生きて学べば何か分かることもあるだろう

 何も知らず人生終えるのは勿体ないと思うぞ」



 マクシミヌスの楽観が素晴らしい、深い言葉を言っているようだが考えていないようにも聞こえる



「買われた身だ、どうとでもするがいい」


「じゃあ、とりあえず現状を説明するよ

 アルティマタスはハルゲニスのファミリアグラディアトラ(剣闘士団)に在席することになります

 誰の奴隷か?ということですがここには居ないけどラニスタ(興行主)のハルゲニスの奴隷という扱いになるはずです、手続きは明日マクシミヌスと一緒に役所に行って申請して枷を外して正式に奴隷剣闘士になります

 買ったのは私マツオですので私に金貨50枚分を納めると解放奴隷という扱いになりどこに行くにも自由になりますが、ローマ帝国内では自由民以下の扱いになるので受けた理不尽を訴え出ても誰も相手にしてくれません

 ハルゲニスのファミリアはサンーアという小さい漁村にある小屋の立ち並ぶルドゥスが本拠地です、お金はあまり融通してもらえないので武具の調達は借金になりますので借金が膨らみます

 死んだら終わりです、くれぐれ生き抜いて借金を返済してくださいね?良いですか?」


「あ、はい」


「それとスエビの王族というのは知られては生きていけませんのでハーランドとビョルカンの振る舞いは同士という扱いをしてください、頼る分にはどうぞ頼ってください

 ハーランドとビョルカンのようにパンノニア出身という扱いにした方が無難かと思いますのでその辺も含めて2人に聞いてください

 マクシミヌスからは何か有りますか?」


「あ、ああ、俺はマギステル・グラディオラム(戦闘術長)のマクシミヌスだ

 うちにはドクトレのドライオスという元軍人元剣闘士のおっさんがいる、マツオもマギステルだが後ろにメディカスがついて医療長という扱いになっているしドクトレの方の申請も済んでるからまあマギステルでもドクトレでもいい方で呼んでくれて構わない」



 このとき自分の肩書きを初めて知りました

 皆もへ〜っと顔でこっちを見ている、恥ずかしい!



「うちのファミリアで剣闘士として生きながらローマを知って、解放された時にスエビの国に帰ってから何をしたらいいか分かるだろう?

 だからとりあえず生きて学べ、全員平等!今の所は上下なし、パロス(同一武装集団)で順位が着いたら上下ありだがね」


「なるほど闘いを学び、ローマを学び、生き抜いてスエビに足りないところを補える存在となれ、ということだな?」


「とりあえずはそれでいいんじゃないか?」



 事務的なこと、ファミリアとしての生き方を教えていくことになった

 その後に立ち上がり皆に挨拶を済ませたら少し陰鬱な顔が明るくなった気がした



「「「ワアアアアアアア」」」



 観客の声援が聞こえる



「模擬戦争が始まったか」


「模擬戦争だと?」


「ああ、どちらかの軍団が全滅するまで続けるのさ今回はさっきアルティマタスが一緒にいたゲルマン達と訓練生から上がれないグラディアトルとうだつの上がらないウェテラヌスの混成軍が闘うらしい

 多分混成軍が負けると思うが武器を渡されていないゲルマンの方にも犠牲が出るだろうな」


「私は2度に渡り生かされたのか?」


「そうだ、アルティマタスに最後まで仕えた軍人達の勇姿を最後まで見ておけよ」




 模擬戦争という名の一方的な虐殺が始まろうとしていた




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