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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 071 お詫びの品


 ルクマーンの仕合後に運ばれてきた相手の方は脈は頚動脈でなんとか触れる程度、呼吸は浅く会話も出来ない

 兜も外せないほどにクラブの形に凹んでいた


 器用なメディケの一人が顔の部分と兜部分とに分解しようやく兜が外せたが頭蓋骨が陥没しており内出血からか内から押し出すように腫れ、そのまま息を引き取った


 ルクマーンは豪腕だとは知っていたが木のクラブでここまでやれるもんなのかと改めて痛感させられた



 次はこのランクで闘うことになるのだ、と



 ゾッとして震える右腕を左手で押さえるがその左手も震えているのが分かる


 息を引き取ったこともありそのまま帰すには忍びなく腫れてしまった左の頭に一箇所に切開を入れ血を溢れさせ少しでも元の顔に近くなるように願いを込めた



「マツオいるか?」



 マクシミヌスだ、辞典ほど知識が詰まっているがこういう時は本当にまずい話しか持ってこない人だ



「マクシミヌス」


「辛いところにすまないが控室に来てくれ」


「はい」






 控室に戻ると全員がどんよりしていた


「ルクマーンも戻ったか、これで全員集まったな」


 ルクマーンは大して疲れてなさそうだが酷く憔悴している、燃え尽きたか?


「よし、皆には良い報せでも悪い報せでもあることだよく聞け」


 ニゲルとハーランド、ビョルカンは既に聞いているのか明らかに目を逸している


「未だカヒームが来ていない、ということで最終から一個前の仕合で空きが出ているんだが誰が出る?」


 ルクマーンの顔がパーッと明るくなる


「ルクマーンは今日出たから駄目だ

 ニゲル、ハーランド、ビョルカン、マツオの中の誰かだな」



 皆が自分を見ている

 えっと〜?普通に嫌なんですけど



「ということでマツオに出て貰おうかと思うんだが良いよな?」


「え?いや防具も無いしな」


「防具はまた用意されてるらしい、皇帝陛下からの言伝が有るんだ、読むぞ」


 ん!んん!と咳払いをしてから読んだ


「ハルゲニスのファミリアグラディアトラの諸君、山火事報せの情報をありがとう、そして招待したにも拘わらず連絡もせず出たことは申し訳なく思う

 そなたらは苦境の中、予備にも満たない朽ちたような武具を使いよくぞ闘い抜いた

 しかし、民衆が楽しみにしているパルス・プリムスの仕合に穴を開けるわけにはいかない

 十分に武具を集めておく故、観衆を沸かせることを期待している

 もしチロから上がった者が勝ったのであれば次の機会にトゥルバートゥス(困った奴:番狂わせをした奴)の称号を与えるとしよう

 ロムレス(ローマ市)、いやダナウの戦線にまで届くほどの大歓声が聞こえるよう耳を澄ませておこう


 器用貧乏なマツオへ」


「ぜーったい最期の一文は嘘だ!マクシミヌスが付け足したろう?」


「いやいや書いてあるよ!ほら見てみろ」


「無いじゃないか!」


「どこ見てるんだ、ココだ!コーコ!」



 紙の一番下には確かに無かった

 マクシミヌスの指が示したのは1番上の宛先だ


 確かに「MATSUO」と書いてある



「うわぁ、書いてあった〜」



 全身の力が抜けてヘナヘナ〜っと腰が地面に落ちると他のチロ3人がシリアスな顔からニヤけた顔に化けた



「さては知っていたな!」


「マクシミヌスが紙を開けたら最初からマツオ宛なんだ、逆にびっくりしたぜ

 せめてみんなで驚かして落ち込まないようにしてやったんだ、感謝してもいいんだよ?」



 してやったり顔のハーランドに無性に腹が立つ

 その隣で俺がやりたかったのにという顔のルクマーンもなんだかな



「マツオ、時間がない衛兵も待たせてるんだ

 防具付けてこい」


「はいはい、行ってきますよ!

 なんで3回も出場しなきゃならんのかね!」



 全員ニヤケ顔で送り出してくれたが本当にやりたくない、だってカヒームに挑戦できるくらいなんだから絶対に強いでしょうよ



 全身から重怠〜い溜息を繰り返し吐きながら支度部屋に向かった




 部屋に入ると一つずつ中にいた短いトーガを羽織る執事さん?が一個一個説明しながら渡してくれた

 鱗形のマニカに1枚鉄板を打ち出して作られたオクレアは装着してもらい、兜は頬当の付いたヘルメットみたいなカッシウスを渡された

 パルマ(円盾)、スクトゥム(四角形の大盾)、ハスタ(槍)、グラディウスが置いてあり手に取ってみるがどの武器もしっくり来ない


 首を曲げていると執事さんが思い出したように一本の槍を持ってきた


 ハスタは2メートルくらいの普通の槍で柄も軽くちょっと強度的に足りなく感じたが執事さんの持ってきた槍は同じ2メートル程度のものだがわずかに太さがあり触った感触は硬いものだった


 片手で持つには重いが両手では軽く取り回しが良い

 穂先は磨かれており錆も無い、柄も人の触った脂が付いておらずほぼ新品同様だ

 手の平で廻してみたり構えて突いたり引いたりしても両手なら少し軽いくらいだ



「これいいですね、あと一つ聞きたいんですけどマニカって左用有りますか?」


「ガレルスの小さいタイプなら有りますよ」


「ではそれに付け替えさせてください」


「兜はどうしますか?」


「頬当が邪魔ですね」


「外せる物があったと思います、マニカを外してお待ち下さい」



 きつく縛り付けられたマニカを外して巻布も外した

 木箱から漁って掘り出した確かに少し小さい肩当てのついたガレルスを磨きながら、兜を腋に挟んで持ってきた



「ガレルスはこんなものですね、兜も古いですがしっかりしたものです心配ありません」


「ちなみにこれは何に使っていたものなんですか?」


「昔の近衛兵の装備です、使われていない物も多いですよ」


「なるほど」



 ガレルスを左腕に、頬当の無い半球形の兜を被せてもらい準備は整った



「盾は要らないですか?」


「両手で槍を持つので盾は持てません」


「そうでしたか、ではそのまま槍も防具も貰っていって下さい今後も使わない不良在庫ですので」


「ありがたく頂きます、では行ってきます」


「木槍もどうぞ、長さは同じですよ」


「ありがとうございます」



 同じ素材の棒まで頂いた、奮発したな〜

 これだけで金貨10枚以上使ってる気がするけどどうなんだろうか

 

 自分の命と引き換えにするかもしれないので決して高くはないが軍で使う正規品なのでいいモノなのだろう、ありがたく頂いておこうと思う



 部屋を出ると衛兵に槍を預けて棒だけを持ち登場口まで徐々に重くなる足を振り出して進んでいった



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