敗残兵、剣闘士になる 006 幻影
夕食まで飴を持ってカヒームの看病をオッサンと交替した、オッサン曰く鰻の白焼きはカヒームがちゃんと食べたらしい
オッサンに飴を渡すと不思議な顔で口に入れ舐め転がすと良い顔で出ていった
カヒームの看病をしながら砂浜を見ると牛の頭蓋骨を持ったババンギがオココ追い回していたり、海で投網をする人がいたり盾と木剣や木の槍を持って打ち合いをする者達がいた
触発されて木刀を持ち出し心象の敵を想像して稽古をする、相手は初日に相手をした男だ
兜で表情を隠し、さらに盾が顎から胸までを護りつつ前に出して距離感をずらしている
剣の持ち手も体や盾に隠し動きを悟られないように工夫されていた
思い出すと体の動きと足の動きから剣の突きが来るのが分かったが予備動作がほぼなく突きが来たら危なかったと思う
予備動作が見えない程大きな盾だったら?持っているのが槍なら?更に危険は増していく
遠目に木槌が立て掛けてあるのが見える、もしあれが武器で軽々振り回せる相手だったら・・・簡単に人は死ぬ
全体を見る
予備動作は出ないなんてことはない、何処かに出るはずだ
正眼(中段)で構えれば距離感が分かってしまうが相手への対処は最も早い、利き目に向けて距離を測りにくくすることもできる
右手で突きが来るなら合わせて半歩引いて手首を狙う
盾が来たらどうする、刀より薙刀がいいか?とりあえず木刀にしたがどうだろうか
薙刀は刀と違って柄も使えるし脛を薙ぐこともできる
ただ距離を詰められた時にあの短い剣に対応出来るか?と言われると薙刀は辛い
来させなければいいが盾があるからこそ入り込み易いだろう
刀と盾を持つのは相性が悪い一刀必死が基本の刀にとって動きが鈍る盾は無駄だ、そう考えるとあの短い突きがメインの剣と盾の相性はいい
刀で考えるからいけないのだ、日本以外で刀を打てるものは居ないのだから
「郷に入っては郷に従えか」
木刀は振って精神統一くらいにしておこうか、と言いつつも仮想の敵と戦い何度となく殺され試行錯誤を繰り返す
「マツオ、アグア」
カヒームが起きたらしい
木刀を持ったままカヒームの寝所に行き木刀を立て掛けて水を掬う
「マツオ、***ダキア?ファルクス」
カヒームは木刀を逆に持った、持ったが刃の部分を触って逆に持ちまた戻す
ファルクスってのは峰打ちなのか?
「マツオ、ラミーナ アドウェルサス・・・?」
刃と峰を交互に叩いて歯切れ悪く言葉が止まり肩をすくめて困った顔をしていた
「もしかして似たような武器があるのか?」
「ダキア、ファルクス
マツオ
ダキア、ファルクス
マツオ」
カヒームはダキアという時に峰打ちに構えファルクスで峰に指を差して振る、マツオの時には刃の方で素振りを見せた
つまり、ダキアという人は峰に刃を持つ剣を使っているということか
「ファルクス、刀」
木刀の刃と峰を替えながら振って確認するとカヒームは頷きながら水を飲んでいた
飴を渡すとちょっと眺めた後に口に入れて転がし驚きの表情を見せた
やはり砂糖は高価なんだろう、驚いた後には何も言わず、にやけたまま横になり噛み砕いて飲み込んで寝てしまった
カヒームはちょっと気が短いのか
「ファルクスか」
寝ているカヒームの様子を窺いながら幻影との戦いを繰り返す
たまにファルクスを幻想しながら峰打ちの練習をしてみるがどうしても斬るではなく打つ叩くになってしまう
「峰側で切れるってどういう感じなのか」
ゆっくり振ってみる
切り下げ、袈裟、逆袈裟、腰切り、突き、平突き
「盾の裏側に切っ先が入るのか?引っ掛からないかが心配だな
引き斬るじゃなくて押し込んで斬る感じがするなぁ、骨は切れないし肉に刺されといて骨で切っ先を止めるのも容易だろうな」
刀なら盾の上から攻撃するのは難しいが引く時に体重を込めて切れる分、致命傷にはなるだろう
ファルクスは盾の上からでも当てることができるが金属には弾かれ易いだろうし切っ先も折れやすい気がする
致命傷を与えるなら血管や神経、腱などの集まる急所を攻める必要があるが
「急所狙いは難しいな」
日が暮れてくるまでひたすら幻影との勝負を繰り返していった