敗残兵、剣闘士になる 066 老獪な戦い
3仕合目が終わり怪我人が2人きたが軽症
4仕合目は隙間覗きで見るとハーランドの出番だった、装備はいつの通りの上裸でボロの盾と木斧の代わりに何処かで見たオリーブ素材のイの形の杖を持っていた
確かハーランドとビョルカンは流れ着いた木材を縄で結っただけのオクレア(脛当て)を付ける予定だったがそれも付けていない
また審判に聞かれてる、ハーランドも鬱陶しそうだ
相手は小柄なトゥラケスだ、木の曲剣と小さめの四角い盾を攻撃にも使っているが簡単に打ち合うだけでウォーミングアップを済ませ本番に突入した
ハーランドの斧の刃はほったらかしてあったがキレイな状態だった、アレを思いっきり当ててしまうと相手は生きていられないだろうな
トゥラケスは盾で殴ってきたり細かく曲剣を振ったりとハーランドの腕を狙ってくるが斧や盾で尽く打ち払い防いでいる
リーチはハーランドが圧倒的に長いが速度で言えば相手の方が早いように見える、ちゃんと盛り上がるようにとマクシミヌスに仕込まれているだけあってしっかりと攻め込まれながら観察している
隣で見ているベテランそうなメディケから声をかけられた
「同じファミリアですか?」
「ああ、大きい方がそうですね」
「随分攻め込まれているじゃないですか?準備しなくてい良いんですか?」
「あ〜多分かすり傷一つなく勝つと思うんですけど、問題は相手の怪我の具合かなと
致命傷与えるか、打撲程度で済ませるか、殺しちゃうかどうするかな〜って見てます」
チラッと横を見るとかなり若いと言っても自分と同じくらい、茶髪黒目で彫り深いモジャモジャヒゲだ、身長は160センチ手前くらいだ
段々顔が青くなってきているような気がする
「そんな風に見えないですけどね」
「盛り上がるようにするみたいですよ、随分歳をくってからグラディアトルになりましたけど元が強いですからね」
「そうなんですね」
「もしかして同じファミリアですか?」
「そうなんです、今のを聞いてヒヤヒヤしてます」
「もしものときは手伝いますね」
「ありがとうございます、あっ動きましたね」
「そうですね」
ハーランドは防戦一方と見せかけて、斧の小さい一振りで相手の左前腕を一部を傷つけた
突然に相手の盾が上がりきらずフワフワ浮いたような状態になってしまい盾で殴るどころか守ることすらできなくなったため明らかに手数が落ちた
「尺骨折りましたね」
「え?この距離で分かるんですか?」
「はい、折りやすい所があるんですよ
今は軽くヒビくらいで骨はズレてないですけど固定はしないとですね」
「もしかしてその辺も教育されてるんですか?」
「勿論です、知識だけならメディケと同等ですけど治療方法は教えてません、痛いのが分かると加減しかねないので」
「はあ、そうですか」
「そろそろ終わりにしそうですよ」
「はぁ〜」
相手の盾を斧で上から叩き落とし、動揺の一瞬で大盾の側面の薄いところでぶん殴って吹き飛ばし仕合終了だ
尺骨は恐らく完全に折れただろう、整復して固定が必要だ
ぶん殴ったのは兜を狙ったっぽいが鎖骨折れてないか心配だ
アレラーテではマリディアーンは負けてもかなりの確率で助命されるらしい、皆未来の強者を追い求めているのだろうか
ハーランドがパルムを受け取っているころ、負けたトラクゥスが運ばれてきた
同じファミリアだと言うメディケと治療に入った
「うわあ、兜凹んでる」
「腕が折れちゃってるな」
「痛ぇ助けてくれ」
「意識はあるな?足動くか両方上げてみろ」
ちゃんと両足挙上出来た、右手も問題なく挙げられたが左は挙げられない
とりあえず兜を外してみると右眼窩の上の一部が折れているっぽい、整復できないからそのまんま腫れが引くまでまつしか無さそうで血腫になったら開いて減張切開で良いだろう
左腕は牽引して包帯グルグルだな
「右眼腫れてきました」
「どうする?血腫除去するか?
あ、動脈切れてるかも、切って流して焼いちゃおう」
「焼くのか!」
「手っ取り早いんだ、痛いがまあ仕方ないだろうな我慢しろ」
「やだよ〜」
減張切開で縦に切れ目を入れる
「痛っ!あぷ、あぷ、ぷーっぷーっ
あづう、痛い痛い痛い」
ついでに温い塩水で洗い動脈を確認、走行的には眼窩上動脈の分枝だろう、手で押さえて止血をメディケに見せて手を代わる
火箸もどきで動脈を焼いて止血、予め抜いておいた髪を針に通して3針縫った、他人事なので暴れようが押さえつけて縫うだけだ
左腕は腫れが少ないので牽引して整復し前腕骨幹膜を広げるように木の棒で挟み込んで布を固く巻いて終わりだ
「マツオ、早いですね」
「そう?こんなもんじゃないですか?」
「手際がいい、淀みもない素晴らしい」
「ガレノスさん居たんですね」
「ええ頭の動脈を焼くところから居ましたよ」
「そうでしたか」
「どうして縫わなかったんですか?」
「走行的には分枝でしたから何度も痛い思いするよりは焼いたほうが圧倒的に早いですし腐らず膿まずに済みますから」
「なる程、分枝でなければ?」
「縫ったかもしれないですね」
「そうですか」
またどこかにメモしながら行ってしまった
一緒に治療したメディケと目を合わせておどけて見せた
さて隙間を覗くと早くも5仕合目の本番になっていた
気付かなかったがニゲルの出番となっていたようだ、スマン
相手はレティアリウス(網闘士)、やっぱり色男で高身長だ
金髪で大胸筋がキレイに浮かび上がっていて他の剣闘士に比べて少し脂肪は少なめ、彫像にしても映えるな
「お、ニゲルの番だったか」
「おたくのファミリアで?」
「そうです」
呟きが聞こえたらしい、今度は40代かな
頭が光るほどの油ツヤとチョビ髭、ちょっとぽっちゃりで140センチ後半くらいのオジサンメディケだ
「ということは反対側は?」
「私のファミリアですね」
「見ててどうですか?」
「本当にチロから上がりたてなんですか?落ち着いているし防御も動きが小さいですしもっと上でやってもいいくらいですよ」
「褒めてもらえるとマギステル見習いとしてはありがたいですね
ニゲルは吸収が早いんでもっと強くなれると思うんで頑張らせないとですね、あっ動きますよ」
網を足に掛けようとしているが摺り足で動くため掛からないし足に巻き付けても抜きが早い
そんなところにかまけていると二又の銛をニゲルが搦めて弾き飛ばし、ゆっくりと顔に穂先を近付けて切っ先を固定した
もちろんそこで終了、助命は問題なく2人ともが身体は無傷で仕合を終えた、相手の心の傷は大きそうだが
ニゲルも皇帝陛下に何か聞かれているようだが何を話しているのかよく分からない、あとで聞いてみよう
6仕合目、7仕合目は子供同士の叩き合いみたいな泥仕合だったが何故かその方が盛り上がるのは仕方ないのだろう




