敗残兵、剣闘士になる 065 ガレノスの頭
控室に戻ると入口に着流しが置いてあり着ながら中を見ると全員が壁にくっついて何かを覗き込んでいたので声を掛けた
「1仕合目終わりましたよ」
マクシミヌス振り向いて答えた
「相変わらず強いな」
「見てたのか?」
「隙間からな」
指を指した所には横10センチ縦3センチくらいのレンガの隙間があった
覗いて見ると闘技場が見える
どうやら観客席の下が控室になっていて戦いが見えるらしい
「いいな〜、俺も見てたいな」
「治療所からも見えるぞ」
「ホントか!やった!」
「ルクマーンが明日の仕合になったがニゲルもビョルカンもハーランドも皆今日が仕合だ
マツオが忙しくならないといいな」
「3人なら相当強い相手に当たらなければ大丈夫でしょう、安心して見てることにしますよ」
「そうだな
おおそうだ、さっき皇帝陛下に話し掛けられたな?なにを言われたんだ?」
「強いからマリディアーンに出るなってウェテラヌスかパロスと戦えとさ」
「まあな〜、公式戦は2回目だしそろそろ上がっても良いと思うぞ、なあルクマーン?」
「そうだな、マツオに勝てる程強いのは少ないと思うぞ」
「いやいやルクマーンとイフラース、カヒームにも勝ててないじゃないか
オニシフォロスとマリーカはまだ戦ってないけどイフラースより強いならまだまだ勝てないだろう?」
「そこは比べてはダメだ
何年そこで生きてきたと思ってるんだ?まだまだ下の方からさ」
「死にたくないからな〜」
「まあ仕様が無い」
「2仕合目始まるぞ」
「じゃあ治療所行ってきます」
「頑張れ」
「頼むぞ」
「なんかあったときは宜しく」
「あいよ〜」
マリディアーンの3人に声を掛けられ軽く返答してから治療所へ向かうとメディケの皆も同じように壁にくっついて仕合を見ていた
「お疲れ様です、お邪魔します」
「おお、あんたか!強いな〜」
「マリディアーンに出ちゃ死人が増えちゃうよ、早く上がりなよ」
「メディケの腕前はどうかな?」
「そこだよな〜」
「頑張ります
皆さんからも勉強させて下さい!今日明日と宜しくお願いします」
「あいよ〜」
「はいはい」
「挨拶はいいから見なよ」
うーん全員返答が軽い!気楽!
覗く前に手術道具の確認だ
衛兵さんが自分担当のベッドと手術機器を渡して教えてくれた
その他に手伝いとして居てくれるのが湯沸かし専用の奴隷さん、清掃専門の奴隷さん、移送専門の奴隷さんと結構な人数がいる
中にはこれからメディケなるような人材も居るのかもしれない
熱湯を貰い、手術道具を滅菌する
20分ほど熱湯に漬けてから取り出し湯切りしてから綺麗なガーゼで拭き取り刃こぼれや曲がりなどを確認する
「綺麗なメスだな」
「ありがとう」
「うわ!」
真後ろにガレノスが居た
「ちゃん洗ってあるよ」
「いや、キレイでしたけど使う寸前に洗っておかないと危険なんで」
「何が危険なんだ?」
「そうですね〜、カビとかってカビを別の食べ物に付けて置いておくと広がるんです、ほんの一欠片でも広がるんですよ
あれと似たような物が他に無いとは言えませんから使う直前に落としておくんです」
「なるほど〜」
黄色い紙はそのまんま植物っていう質感で書き辛そうだ、この人すっごいメモする人だね
「他に必要な物はあるかい?」
「そうですね〜、塩と高濃度のアルコール、絹糸、細い縫い針と火で焼炙って焼き付けできるような棒とそれを掴む物が欲しいです」
「いっぱいだね、持ってこさせよう」
「ありがとうございます」
「いいんだよ、こっちも勉強させて貰うから」
「恐れ多いです」
「違う国のメディケから学べることは格別に多いからね」
「そうですね、自分も学びたいと思います」
「いいねえ」
たった30分ほどの2仕合目の終わりまでに頼んだ物が全て揃う奮発っぷり
金の力も凄いが金を持てる技術や知識を得ることがどれほど大変なことか、様々な苦労があったことだろう
「二人共来るぞ、片方はうちのファミリアだ」
「もう一人はこっちのだ」
壁に張り付いていた2人のメディケが自分の持ち場に必要な物品を揃え始めた
「見えていると対処が早くていいですね」
「そうだな」
運ばれてくる方向はあっちとこっちから、木のパーティションで仕切られたベッドに運ばれてきた
「マツオ、あっちの方に行ってみないか?
剣が胸に刺さったようですよ」
「そうなんですか?反対側見てました」
「そうか、でも行ってみようか」
3人だけ3仕合目を見ているが1人ずつヘルプであっちとこっちに回っていた、ここの方が隔たりがなくていい環境だ
胸に剣が刺さったというグラディアトルを邪魔にならない所から見る
右胸の鎖骨より少し下、大胸筋に刺さったようだ
「カッ、ケハッ、カッ」
咳と共に口から少しだが血が飛び、傷口に血の泡が少し出ている
「どう見る?」
「動脈損傷はないですね、問題は肺に損傷があっても膨らんでいるか萎んでいるかですが今胸がちゃんと膨らんでいますね大丈夫そうですよ」
「マツオならどうする」
「塩水で傷を洗って傷の中を見ます、圧迫で止血できるなら創を閉じて様子見です
肺があとから潰れることもありますが血が膜を張ることで萎まずに済むかもしれません
胸に耳を当てて確認するように今日から2日間くらいは様子見します」
「肺が萎んだらどうする?」
「胸に穴を開けて管を刺して水につけて膨らむことを待ちます、ダメなら口から空気を押し込んでもいいかもしれませんね」
「凄いね、後療法までバッチリだ」
顎髭を擦りながらフムフム言いながらも患者を見て、担当のメディケを見た
「で、今回はどうするんだい?」
「早々に傷を閉じて様子見です」
「後療法は?」
「苦しいかどうか見ながら状態に合わせます」
「そうだね」
「マツオ、ちょっとこっちへ」
「はい」
少しベッドから離れて話す
「マツオの治療法は国では普通なのかい?」
「そうですね、一般的です」
「そうか、行ってみたいね」
「行けても戻れませんよ、戦争中ですから」
「そっちも戦争か世界は暴力は何も産まないんだけどね」
「そうですね」
「今度はあっち行こう」
「はい」
周りからはどう見えているのか、教えて貰っているように見えているのだろうか?まあいいけど
「こっちは、うん外傷だね」
「そうですね」
「痛いけど頑張って」
プラプラっと興味なく離れていくガレノスは心ここに有らずな感じに見えた




