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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 063 謎の患者


 治療所に行くと50代くらいの鼻の高い細面でモジャひげが少し長いタレ目なオジサンを7人のメディケがキラッキラなお目々で囲んでいた、この人誰なんだろうか?



「登録していた最後の1人が来たようだな、その格好はどうした?」


「グラディアトルのパレードに出て、これからマリディアーンの仕合があるので」


「メディケでは無いのか?」


「本当なら今日は弟子がここにいる筈だったんですが山火事で遅れているので治療道具もまだなんです、明日はここにいる予定です」


「なる程ではどこから来たのか?山火事はどこで?」


「サンーアから来ましたマツオです

 山火事はルリーア・オクタヴァノルムとテロ・マルティウスの間です」


「そうか、何か手を打たねばな」


「マッサリアからニカイアまで商船が出てますよ」


「そうか、良いかもしれないな

 とりあえず座れ、知恵を借りたい」


「は、はあ」



 おっさんを囲むように円座に加わる

 皆の視線が痛い、場違い感も凄い、なんかごめんなさい



「よし、全員集まったな

 知らない者もいると思うが私は皇帝マルクス・アウレリウスの典医ガレノスだ、宜しく頼む」



 皇帝お付きの医者か!凄いな〜



「懐かしい話をするとな、皆と同じく私も28から32歳までルドゥスに入ってメディケをやっていたのだ」



 ヒゲを擦りながらハッハーと笑っている、陽気だけど凄いいい腕のオジサンなんだろう



「そこで幾つか聞いて貰って何か知っていることがあったら教えて欲しい、分からなければそれでいい」


「「「はい」」」


「戦地にいる患者のことだ、なるべく他言無用にな?本人には伝えておらなんだ」


 全員は頷いた


「よし、今病床で横たわっている人だ

 全身白目まで黄色く変色し、皮膚は血が通っていないようなゴワゴワした質感になっている」



 肝機能障害のビリルビン色だな、抹消まで血液が行っていないのか心機能も落ちているな、ふむふむ



「意識も虚ろで目が開いていても喋られないこともあるし流暢に話ができることもある、内容はしっかりしていることもあるが全く何を言っているのか分からないこともある」



 うん、肝性脳症(体内の有害物質が肝臓で代謝・解毒されず脳に回った状態)かな?肝不全状態の末期だな、この時代じゃ手遅れだろうな



「ほとんど食べ物を口に出来ず、水分もむせる事がある」



 不動症候群だな、動いてないから悪いんだけど動ける状態じゃないだろうしな、どうしようもない



「その患者は何が悪いと思う?」


「「「…」」」



 皆難しい顔して黙っちゃったよ、どうしよ



「マツオと言ったな?どうだ、何か分かるか?」



 ザッと一斉に皆の視線が集まる、怖い



「確認ですが持病が有りませんか?」


「ある」


「全身の怠さ、食欲不振、突然の嘔吐」


「そうだ」


「肌が黄色くなるのは以前にも何度かあったんじゃないですか?」


「あったらしいことは聞いている」


「そうでしたか、症状を聞くと肝臓の機能が死んでいますね、毒素が回って脳にまで異常がでています

 手遅れかと思います」


「そうか、何か治療方法は知っているか?手遅れでも延命する方法は?」


「そうですね〜便通をまずは改善させることが最初です、肉は少なめに水を多くして柔らかく炊いた大麦等を食べましょう

 塩は極力少なく、少量の芋や豆、菜っ葉、海藻などすり潰すか細かく刻んで入れましょう

 それを三食、魚も良いですが新鮮な物をしっかりと火を通して少しずつから食べましょう

 肉は動けるようになってからですね」


「あとは?」



 オッサン黄色いメモ紙にビッシリ書いてるじゃない!

 誰?その患者気になる!



「右の腹を温めるくらいかな」


「右腹温めるっと、で何故このような治療を?」


「肝臓の機能を少しでも戻す必要があります

 便通が滞ると腸の中にガスが溜まります、これは宿便から出来る毒素が含まれています

 便通を改善させて出してしまうのが先決、便通を良くする食べ物は大麦飯、豆、海藻、野菜、魚、キノコ、芋です

 先程はキノコを食べるのが症状的に大変なので省きましたし、肉類はガスが多くなる食べ物ですので省きました

 肝臓は冷えてると機能が落ちます、温めるのも良いでしょう

 それをしても数ヶ月あるかどうかでしょう、いつどうなってもおかしくない状況だと思います」


「なる程、勉強になるな、秘伝だろうにありがとう」


「私の居た国では医者なら全員が知っていることですから問題有りませんよ」


「そうか、行って見たいものだな」


「片道何年もかかりますよ、東の海のさらに向こうですから」



 片道切符で1766年掛かりますよ?なんて言えない!



「マツオ!居るか?」



 マクシミヌスだ、嫌な予感しかしない、でもまあ丁度いい頃合いかなと思う



「はい」


「マツオ、第1試合引いちまった

 すまん許してくれ〜」


「大丈夫ですよ、時間はどうですか?」


「もう半刻くらいかな」


「では行きましょう

 ガレノスさん、すみませんがお暇いたします」


「参考になった、また何かあれば相談に乗ってくれるか?」


「分かる範囲でしたら」


「ありがとう、治療道具は貸し出そう、今日一日くらいは使っていても構わないよ」


「ありがとうございます」



 視線が痛いので早々にマクシミヌスを伴って退席した



「おい、今ガレノスって」


「皇帝陛下の典医らしいですよ」


「そんな人と喋れるチャンスなんてないのにすまねえ」


「丁度いい頃合いでしたよ、闘技場まで案内してください」


「本当か〜、なんか申し訳ないな」



 マクシミヌスの案内で闘技場への入口へ向かった



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― 新着の感想 ―
[一言] その病人は皇帝陛下じゃないですか!まあ歴史を変えるとしてもこの時点では手遅れっぽい ローマが滅びたときに技術が散逸しなければ… 例の宗教のせいもあり医療技術にオカルトが蔓延する羽目に
[一言] 敗残兵、剣闘士兼料理人になる、後に典薬寮医師になる
[一言] むしろ皇帝から医者としてスカウトが来るレベルだわな。
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