敗残兵、剣闘士になる 062 人気者
開会式当日、朝から街は賑わっていた
色んな露店が出てお土産や食べ物、飲み物の屋台、舶来品なんかの店も出ておりお祭り騒ぎだ
剣闘士は上裸で髪型もキメて出てくるがだーれも見ないし目も合わない
なので露天を見ながら歩いていくと芋を置いている店を発見、その中に一際目を引く物が置いてある
「マクシミヌス、買っていったらダメか?」
「ちょっとくらい良いがどれだ?」
「あそこの芋屋のまん丸の大きい芋」
「ん?あれか買ってこよう、後で請求するからな」
「ありがとう」
マクシミヌスは露店でかぼちゃみたいな形の芋を買ってきてくれた、随分と東の国からの伝来品だが店主も食べ方がわからず困っていたらしく安い値段で売ってくれたそうだ、運がいい
「何に使うんだ?」
「マニカで作ろうかと思って」
「遂に作る気になった…え?芋で作るのか?」
「素材の一つだ、失敗したら食べるか」
「食べるに一票」
一度ディニトリアスのところでマニカを付けてもらったがビックリするほど動きにくい、鱗みたいな物が縫い付けてある物だと少しは良いが重たかった
だからマニカと言う名の篭手の袖までが一緒になっている物が作りたい、左右の袖を紐で止めるような形でだ
なるべく軽い素材で交換が可能なもの、何が良いかな〜
そんな会話をしながら闘技場に入るとかなりの人数のグラディアトルが既に入場を終えていた
前回は3日間の人数で多いなと思ったが今回は2日間にも拘わらず更に多い人数が集められている、200人が優に超えていそうだ
「人だらけだな」
「予定試合数に比べても大分多いな」
「おい、上見てみろよ物々しい雰囲気だぞ」
自分の呟きにマクシミヌスが答え、ハーランドが目線で合図してきた
「近衛兵?ということは皇帝陛下が?予定に無かったぞ」
マクシミヌスが声を押し殺しながら言うと、一人明らかに他と雰囲気の違う高貴な御方がお立ち台に上がってきた
太陽の光に当てられ金色に輝く天パ、青い瞳で彫りの深い濃い顔、ヒゲを口の周りに四角く生やしているトーガの下から押し上げるような筋肉が目立つ若い男だ
顔が見えた途端にグラディアトル達は全員が膝をついて頭を垂れたのですぐに真似た
「皇帝カエサル・ルキウス・アウレリウス・コンモドゥス・アウグストゥスだ
ローマの民よ、今はまだゲルマニアとの戦争が続いており辛い思いをさせているのは病床の皇帝マルクス・アウレリウスも大変に心苦しく思っている
ローマが勝利し平和をもたらすために今暫く待っていてほしい、この通りだ」
皇帝が頭を垂れる
円形闘技場内の市民からドヨドヨという揺らぎのあとに大きな拍手と「皇帝陛下万歳!」「ローマ帝国万歳!」と大きなウネリとなって返ってきた
皇帝は顔を上げ手を振りそれに応える
数分間拍手は鳴り止まず、どれだけ現在の治世に信任され期待されていることか
声援に応えつつも皇帝陛下は口に人差し指を立てると視線が集まり今度は耳が痛むほどの静けさが訪れる
「ローマ民の期待に答えられるよう、兵士達と共に戦い勝利をもぎ取ってくることをここに誓う!
さあ、今日は屈強なグラディアトル達の血の滾る戦いを皆で観賞しようではないか!」
「「「皇帝陛下バンザイ!命を賭して敬意を捧げます」」」
「今日の最後は俺も出るからな」
グラディアトル達の宣誓のあとのコンモドゥスの小さい呟きを何人が聞きとれただろうか
今日の最後ってなんだ?
パレードと開会式を終えそれぞれの控室に散った、今回は午前1番は虎が鹿を襲って食べるところから始まるらしい
で、その虎を野獣闘士さんが槍で小突く仕合があって昼ご飯を食べながらマリディアーン(昼間の決闘)、夕方からウェテラヌスやパロスの戦いになる
その夕方の仕合前にキルクス(戦車競技)ではなく馬に乗っての競争が急遽開催されることになったらしい
マクシミヌスに皇帝の呟きを伝えると、もしかしたら馬の競争に出るんじゃないかとの予想だった
「マルクス・アウレリウス様は戦術が神がかっているそうだがコンモドゥス様は武芸に秀でているるらしい」
瓦版のようなアクタ・ディウルナという大きな白い板に元老院の会議録や地域の死亡・出産録、皇帝やその取り巻き達の内部事情などが書かれたものにそう載っていたそうだ、そんなのあったのねと少し驚き、それを読みに行っているマクシミヌスに更に驚きだ
「メディケは治療所の方に集まって下さい」
衛兵さんが巡回してふれ回っている
何か急用でもあるのだろうか?
「マツオ、行って来い」
「でもマリディアーンの組み合わせに行かないと」
「大丈夫だ、俺が代わりに行ってくる
結構な試合数があるんだすぐには呼ばれないよ」
「頼むよ?1試合目とか絶対に嫌だからね?」
「おう!任せとけ!」
胸を張るマクシミヌスだが不安しかない
後ろ髪引かれる思いで衛兵さんの案内の元、治療所へ向かった




