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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 005 白焼き


 ヨーレシのいる厨房に来た

 厨房はまだ炭化した薪が赤く残っており熱気が強い


 木のスプーンをヨーレシに返す



「グラーティア」



 ここに来てからこの言葉しか使ってないな、誰かに言葉を教えてもらいたいが自然と学ぶしかないか



「マツーオ!アングィッラ ****」



 ウナギ捌いてみろって?

 良いじゃないか!やってやるよ!


 木のテーブルの上にはナイフのような包丁と黒く太い日本で見るよりも随分と長い鰻がうねっていた



「デカいな~こりゃ旨いだろうな~」



 醤油のザラメもない、タレが欲しいが今は我慢か


 厨房の中に串が無いか探してみるがない、白焼きにするにも串が無けりゃ蒸すにも焼くにも大変だ



 薪の中から綺麗な木を見つけて鉈斧を借りて割り、長めの串を8本作った、長くしたのには理由があるがそれはまた後だ



 大麦ごはんの粒が残った20人分は炊けそうな平たい土鍋がまだ水が張られたままで残っていたので火をつけて温めて準備は完了だ



「さて準備は出来た捌こう」



 鰻は包丁の柄尻で頭を叩いて砕き動きを止めて真っ直ぐに伸ばしナイフで背から捌く

 包丁のしのぎを当てると簡単なのだが両刃のナイフなので骨に当たる感覚を頼りにするため一度刃先で皮を裂いて背骨を露出させ二回目で開く


 背骨も一度切れ目を入れてから二回目ではがし、背開きの完成だ

 腹開きの方が腹の骨が取りやすいのだが腹から捌くには熟練が必要、包丁もアジ切りや出刃でないと難しい

 今回は腹骨は面倒だからそのままだ


 串を刺す、職人さんは身と皮の間に通すがそんなのは素人には無理、出来ない

 皮から身の間を通して皮から出しまた身の間かへ通して皮へ出す、横から見たら数字の3の形になるような格好だ

 大きいので4本を均等に刺して手持ちのまま直火で炙り繰り返しひっくり返しながら脂の煙で燻していく

 

 両面がパリパリになったところでごはん粒の入った土鍋に薪を二つ並べてパリパリになった鰻を蒸す


 蒸している間にもう一枚の鰻をパリパリに仕上げて蒸していた鰻と交替、ふわふわになった鰻をもう一度炙って表面のパリパリを復活させて完成、もう一枚も蒸しあげてから仕上げた



 串を外して軽く塩を振って指で身を割って摘まんで食べる



「旨いな~、もうちょっと蒸しても良かったのかな」



 少し白身魚の解れる感じと土臭さが残っている、蒲焼きならそれも旨味に変えられそうで勿体無い



「マツオ!****アングィッラ***!」



 食べながら腰を振って躍りながら喋るとは中々に躾のなってない婆さんだ、まあその年で初めて食べたら感動は計り知れないだろうが



 鰻を摘まみながらなんとなく土鍋を見ると大麦がドロドロに煮えている



「あ!」



 ヨーレシを見ると口の周りを鰻の油まみれにして目をひん剥いてこっちを見ていた

 別に食べ過ぎが悪いわけじゃないんだけどね



「トリティクム!」



 鍋を指差して大麦!と言ってもっと欲しいと伝えてみる



「ホルディウム?」



 大麦はホルディウムらしいです

 大きく頷いて見せると右手に鰻を一切れ持って奥の部屋に左足足だけ入れて左手で指差した


 指の方向を見ると藁袋に入った大量の大麦があった

 下に落ちてる大麦を拾い集めると片手の半分程度の量があり、その中で発芽して乾燥しているのが更に半分となった



「いけるか?」



 ドロドロになった大麦糊の土鍋を木の棒で下ろして粗熱を取る

 その間に平たい石の上で発芽大麦を砕いて粉にしておく


 鰻を食べながら鍋が冷めるのを待つ

 結構な量があるので皿に半身の半分だけ取りカヒームのところに持っていきオッサンに渡す「カヒーム!アングィッラ!」と念には念を押して渡しておいた


 戻った時には鰻はまっさらさらなくなっていた、ヨーレシが半身分くらい食べてしまったようだ



「マツオ!」



 ヨーレシが親指を一本立て、片方の口角を上げて悪い顔をしていた

 食い過ぎだよ、婆さん



 糊の土鍋はほどよく温かい温度になってきた、木片を取り除きそこに麦芽大麦の粉末を入れて大きいしゃもじでかき混ぜる


 ドロドロの糊が段々とシャバシャバに変わっていく、粒の残っていると大麦は潰しながら溶かしていき、のんびりと1時間くらい待つ


 待っている間にヨーレシの夕食の準備を手伝う

 大麦の脱穀、大鰻に打つ串作り、サボテンの収穫、魚の内臓を入れておく壺をかき混ぜて押し込み塩を振る



「オェエエ、臭い!くっ、オェエエ」



 腐った内臓の匂いは強烈だ

 ヨーレシの見本に従ってやってみたが臭い臭い、吐きそうだ

 それをヨーレシは指を突っ込んで舐めるのだ、そして旨そうな顔をする



「ハアア、ガルム ケルサース、オオォ」



 溜め息のように吐く息が臭い

 でも何だろう?ちょっと懐かしいこの匂いは・・・あれだ!



「魚醤だ!でも臭い!オェエエ」



 魚醤は加熱して匂いを飛ばすかネギとかで匂いを誤魔化して使うんだったな

 もしかして蒲焼き出来んのか?お?山椒かカラシに替わるものないか?


 食事を思い出す・・・



「無いな、でもネギあったはずだ」



 さっきの大麦のあった部屋というか倉庫に行くとネギを発見



 シャバシャバになった大麦土鍋をまた火にかけてしゃもじでかき混ぜながら濃縮させ、ネギは面倒なので火の近くに置いておき糖化させていく


 煮込んで水分を飛ばしていくとシャバシャバだった大麦糊が再び粘度を取り戻していく

 黄金色に変わり粘り気が出てきたら火から下ろしてもう少し水分を飛ばす


 出来上がったのは琥珀色の粘り気のあるあれだ、ちょっとちぎって口に含むと



「甘~い」



 ほんのり甘い、優しい味だ

 匂いも甘かったらしい、ヨーレシもヨダレを飲み込みながら待っていたのでちょっとちぎって渡すと口の中へ



「ンンー!」



 幸せそうな顔をしている、只でさえ幸せの横シワが更に横シワになって蕩けそうだ


 飴を土鍋から全部剥がして土鍋の上で畳んで転がして空気を含ませつつ冷やしていく

 固さが出てきたら2センチくらいの細さで長く伸ばしてナイフの背でカットし完成だ



「飴うめー」



 飴の中に大麦の線維や一部の粒が混じっているので長持ちはしないだろう、大体300グラムあるかどうかだ



「蒲焼きしよう!」



 表面が焦げるまで焼いたネギの一皮を剥きドロドロの中身を取り出しナイフで叩いてミンチにする


 ミンチねぎ、飴を4粒くらい、ガルムを大さじ2くらいを投入

 火にかけながら味を見ておくとちょっと臭さはあるが十分に旨い



「いける」



 同じ比率で追加に3倍の量のタレを作り少し水を混ぜてシャバシャバにしておく


 大ウナギは全部で12匹、20人前は十分に確保できるだろう


 今日は鰻丼だな!




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