敗残兵、剣闘士になる 056 闇醤油
ドライサラミを作る
肉は熊、猪、鹿の三種
それぞれの血抜きの足りなかった首や頭の肉を使用して作る
まずは肉のスジを切り取って粗挽き肉を作る
粗挽き肉に塩、ニゲルが山でコソコソ摘んできた各種ハーブ、ニンニクを入れて混ぜる
保存食作りの時には木ベラを使う、絶対に手を入れてはいけないんだそうだ何故か軍でそう習った
ヘラで混ぜて少し焼いて味見
「このままでも十分旨いな〜」
鹿の小腸を洗浄し濡らしたロートに被せて行く
ロート広い方から肉をヘラで押し込みつつ腸の中に詰めていく
ものすごい時間を掛けて腸詰めを完成させた
その間、ヨーレシはモツ煮込み以外に塩漬け肉とその一部を油漬けにしてくれてかなり量を保存できた
ここで一休憩がてら夕食を食べた
モツの煮込みが旨い、大麦が止まらない!
今日だけはオニシフォロスもマリーカもグラディアトル全員が食べに来て舌鼓を打っていった
ビョルカンは終始泣いていた、そして戦争は無駄だと嘆きハーランドに背を撫でられながら目を腫らしていた
食後は燻製だ、やり方は簡単に薄く穴を掘って十字に切れ目を書き焼いた石を中央に置いて木のクズをそれに乗せていく
木枠で腸詰めを吊るして誰かの貫頭衣を被せて燻製器の出来上がりだ、高温で燻すと腸が破けるためある程度熱が逃げる状態でいいのだ
2時間くらいのんびり燻して今度は2時間蒸し上げる、しっかりと火が通ったら海水で急冷し陰干ししておくだけ
10月でも乾燥した風が吹きつけるくらいだからカビることもなく1週間程度でカピカピに仕上がるだろう
肉に関してはヨーレシが大量に保存食を作ってくれており完全に任せっきりになってしまっている
鳥と熊肉は殆ど油漬け、猪は塩漬け、鹿も塩漬けだが一部乾燥肉になっていっている
ウリ坊だけは数日間、ステーキで振る舞われ肉の甘い汁を喉越しで感じながら頂いた
「こうなると塩だけじゃ足りねえ、醤油か味噌が必要だが材料の麹が無いんだよな〜
仕方ない闇醤油でも作るか」
闇醤油という言い方をしているが一般には混合醤油の本醸造の醤油に添加される別の醤油のことを指している、戦中の物資が無い時代に作ることの出来る醤油フレーバーの調味料と思って貰えればいい
善は急げと発芽大麦とお粥を使って飴を作り、叩きに叩き込んだ赤身の肉を鍋で満遍なく炒めて焦がしていく
この【焦がし】が重要でこの部分が醤油になっていくのだ
全体を満遍なく焦がしたら水を入れて焦げた部分を叩き潰しながら溶かす、少し沸かせたら塩で味付けして闇醤油が一旦完成だ
完成した物は焦がした肉とともに10日間くらい寝かせておくと旨味が滲み出て美味しい醤油になるのだ
本来は水飴とアミノ酸で作るのだが面倒だから肉で代用しただけ、中くらいの壺一杯分(5L程度)を作るのに大麦1升、肉2キロ以上を使っているのでこれはもう黙っているしかないだろう、だって2杯(10L)作っちゃったし
本来ならこれに本醸造の醤油を合わせて使うのだが無いのでこれだけで使うしかない、十分旨いんですけどね
数日経ってから猪肉のハラミを闇醤油のニンニク漬けして焼いて出した、初めての味な筈なのに俺が俺がとむさぼり食う非常事態になった
闇醤油の味は本醸造の長時間熟成の引き出す深みのある後引く味と華やかな甘い香りとは違い、ガツンと香ばしさが来て塩味を感じて肉の匂いが少し残って終わりという少々大雑把な物だ
それでもガルムの腐敗に近い臭みや濃い海臭さとは違うため大ウケだったのだろうと思う
少量だがポン酢も作った、イノシシの三枚肉(バラ肉)を薄く切ってカリッと焼き上げ葉物野菜と一緒にポン酢で頂くのも美味しかった
肉をよく食べるようになってからヨーレシが
「少し太っちゃった、もう!どうしてくれるの!?」
と可愛く言っていたが「あんたは婆さんだ、可愛くしても無理だ」とも言えず
「美味しいのを食べすぎましたね」
くらいしか答えられない自分の語彙の少なさを呪う場面もあったことは残しておこう、もう50歳若かったら随分と色気があったことだろうな
これで冬の備えも一通り出来上がり再び訓練とメディケの指導を進めていくことができる




