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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 052 新たな相棒達


 流木の棒の中からいくつか長さや形のいい物を10本ほど見繕ってマシュアルとともにディニトリアスの工房に運んだ



「おお、中々いいものがあるじゃないか」


「叩いてスが入っていない硬い物だけ選んできたんだ」


「殆はオリーブだ、1本だけエベヌムが混じってるな、ハッハー珍しい、水には浮かないんだが海の底を転がってきたのかな?」



 エベヌムという木は知らないが1本だけ少し灰白色の木が混じっていたのは覚えている、7尺を超える長さだった



「エベヌムでマツオの棒を作ろうか」


「できるのか?少し重たかったが大丈夫か?」


「太さはそうだな、こんくらいか?」



 手を筒型にして見せてくれたのが大体直径で3センチくらいだ



「太さはいいな、あとは重さだな」


「普段使う槍の倍だな」


「無理だな、そんなもん振れんよ」


「じゃあこっちのシアメアはどうだ?」



 シアメアと呼ばれた木材は表面は薄橙色より少し黄色いくらいだが、折れ口を見ると内側は黒くなっている、最初はカビているかもと思ったくらいの木材だ



「それはどんな重さだ?」


「槍の穂先を付けた分くらいかな、持ってみれば重たいが振れないことは無い

 なにより鋼の剣でも切れないぞ」


「じゃあそれで」


「分かった、これは外の材木屋に頼んでおく

 ここにある機材じゃできないんだ」


「そんなに硬いのか?」


「さっきのエベヌムとサンタリーヌスの次くらいか」


「黒檀、紫檀みたいだな、さしずめシアメアが鉄刀木タガヤサンかな」


「マツオ言っている物は知らないがどこの国でも加工しにくい木なんてものは同じだろうさ」


「そうだな」



 なんとなく本当に鉄刀木じゃないかと思ってきたけどまあいいや



「あとはハーランドとビョルカンの武器にも使えそうなら使ってくれ」


「了解」



 ヌワンゴにも宜しく頼んで帰り、また教練の毎日が始まった





 何日も何日も繰り返し重心位置の指導と動作の最適化を教え教えられしていくと、互いの弱みやバランスを崩す瞬間を見つけやすくなり勝手に攻撃の一手がでるようにすらなってきている



「なあ、マツオ」


「マクシミヌスどうした」


「コイツらおかしくないか?」


「なんでだ?」


「強くなりすぎてないか?」


「そりゃなってもらわなきゃ困る

 ウチの流派だって1000年近く続いてるんだ、伊達じゃない」


「いや、まあ分かるが何というか動きの無駄が無いんだよ

 この試合見てて盛り上がるのか?まだマリディアーンなんだぞ」


「それは知らない、まずは生き残りが大事だ

 怪我をしたら治るのも時間がかかるんだ

 ウェテラヌスとかパロスの試合だって慎重で且つ大胆に動くだろう?」


「まあな」


「じゃあ早めにマリディアーンから抜ければいいんじゃないかな」


「だって見てみろよ、マシュアルがだぜ?マシュアルがビョルカン手玉に取ってるじゃないか

 初めて見たときでさえ普通にウェテラヌス相手に問題なさそうなビョルカンがだ、今なんか隙も殆ど無いのにそこを槍で突いていくとか恐ろしいぜ」


「マシュアルは盾もたないからしょうがないよ、攻撃の速度しか頼れないんだ一撃必勝だ」


「信じられねえ」



 もう10月の中旬だ、全員がそろそろ考えずに動けるようになって精度を上げていく段階に来てほしいと思う

 ニゲルも段々勝ち筋が見えてきているし、相手の動きを予測し意図的に仕掛けることも出来るようになってきた

 セバロスは実践に参加は出来ていないが自分の目で見て聞いたことを素振りで練習しておりこちらも上達が著しい

 ハーランドとビョルカンは鎧が無いことに慣れてきて攻撃の精密性も上がってきている

 なにより凄いのはマシュアルだ、盾が無く両手で武器を持てるためマクシミヌスにも言ったが攻撃速度が尋常じゃない

 オココも構えの無駄が無くなり更に精度が上がったし打ったあとの移動速度がかなり上がった

 ババンギに至っては相手の盾の死角を上手く使えるようになり緩急がつくことで捉えられなくなってきている

 皆それぞれに成長がありオジサンは嬉しい



「おお、やってるな」


「ディニトリアス!出来たのか?」


「ああ、4人分出来上がってるぞ」


「4人分?ハーランドとビョルカンは分かるがあと2人は誰のだ?」


「そりゃマツオとマシュアルのだろうよ」



 マクシミヌスはギロッとこちらを睨んでディニトリアスに確認をしていく



「マツオのは槍じゃ無いよな?」


「ああ、ただの棒だ」


「本当だな?」


「誓って本当だ、ただそのまま仕合に使うと思うぞ」


「棒で戦う気か?」


「棒も槍も同じだ、当たれば死ぬぞ?」



 マクシミヌスに聞かれたので軽く答えた



「しかしな、刃がないなんて聞かないぞ?大丈夫か?」


「多分大丈夫、刃が付いてないほうが守りも攻めもしやすい、当たった時の衝撃は凄いぞ」


「見たいような見たくないようなだな」




 教練が終了したあとで自分とハーランドとビョルカン、マシュアルの4人で工房へ向かった

 受付のような番台を通り抜け中に入ると3本の長物と革のケースに入った斧が壁に立てかけてあった



「それぞれの要望に合わせてある、裏口出たとこで素振りして修正があれば言ってくれ」



 それぞれの武器を持って裏に出て一人ずつ確認していく


 まずはハーランドだ


 片手でも振りやすいように太く且つ緩くS字を描く柄が何ともいい仕事をしている


 切り下げ、手首を回して袈裟、突き、盾かなにかに引っ掛けるような動きと一通り確認した



「素晴らしい腕だ、重さのかかる位置もいい

 取り回しもしやすいし柄尻を膨らませてバランスを取りやすくしている、いい仕事だ、ありがとう」


「どういたしまして」



 次はビョルカン、片手で振り叩くような動きを確認していく

 槍の重心位置を確認して叩きの動作から滑らかに突きを放つなど器用さは素晴らしい



「使える、槍もいい、自分の体が成長しているのが実感できる、ありがとう」


「おう」



 段々ディニトリアスのニヤけた顔がドヤ顔に見えてきてちょっと腹が立つ

 マシュアルはちょうど2メートルくらいの槍にしたらしい、穂先は短い突きに特化したようなものでほとんどバランスも変わらないだろう

 取り回しもよく動きの邪魔にもならなさそうだ



「ついでに僕の分までありがとうございます」


「マツオに言いな」


「ありがとう」



 マシュアルは槍を大事そうに抱えて小さくお礼を言った、なんだかんだアウレリウス金貨2枚取られたんだけどもね


 最後に自分の棒だ、というより棍棒になるか

 丁度7尺(210センチ)くらいの長さで確かに重い、普通の棒術用の樫の木の2〜3割増しくらいだろうか

 シナリも殆どなく触った感じも木と鉄の間くらいな印象、茶色の中に焦げ茶が混じっている木目が指の節に掛かり持ちやすい

 これ間違いなく鉄刀木タガヤサンだわ



 中段、下段、一文字と持ち替えながら摺り足で動き余計な力が足に掛かっていないか確認するも意外となんとかなるもんだ、でもちょっと下段だと疲れるかも



「やっぱりちょっと重たいな、長時間は使えないかもしれない」


「もう少し鍛えるんだな」


「分かった、有り難く頂いていくよ」



 ここにきて4ヶ月弱、大分筋肉の盛りも良くなってきた

 魚の干物を合間合間に食べるようにしており栄養失調だったマシュアルなんかは身長が5センチくらい伸びている



 大切な自分の武器なのにそこに置いていかなければいかないことにビョルカンが嫌がったが決まりなので仕方ない

 ハーランドに肩を抱かれて半泣きでルドゥスに戻る姿は【花やしき】から帰りたがらない子供のようだった、まぁそれも戦争で打ち壊されてもう無くなっているが(1947年再開園します)


 次にこれらの武器に会うときまでしっかり体を作っておこうと誓った



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― 新着の感想 ―
[一言] >ハッハー珍しい水には浮かないんだが これだと『珍しい水』に浮かないとよめるのだが? 珍しい、水 珍しいな、水 珍しい、これは水 などにした方が良いのでは?
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