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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 049 ビョルカン


「始め!」



 ビョルカンも大盾を選択、槍は同じ2メートル程度のものを中心より少し柄尻に近いところを持って槍先を下げずに少し上げて持っている


 どうやら刺すより叩く方を優先しているようだ


 日本の槍も殆は穂先の重さでしならせて叩く方が主流だと言われている

 

 死兵は刺しても止まらず、叩いて倒すが筋


 誰のだったか忘れたが大体そんなことを言っていた兵法者の言葉残っているくらいだ、ざっくりでスミマセン



 そんな自分は槍の中央より少し前に左手を、右手は中心より少し後ろに親指の方向が同じ方向になるように肩幅より少し広げ握るというよりは添える程度にして下段で構える



 久し振りの長物で少し緊張するが刀よりは距離感が少し長くなったこともあり相手の動きが見やすくて気分的に落ち着いていられる、でも膠着しそうだから気合を入れよう



「そぇえええええい!」



 気合いを乗せた声を出すと皮膚どころか産毛の先まで感覚が通る、風やわずかな地面の揺れ、相手の息遣いまで聞こえてくるようだ


 攻めようか



「せー!」『ゴン!』「フン」



 重心の移動で前に滑り出しビョルカンの盾の持ち手の付いている中心部を突く、少し前に出てきた槍を下から巻き上げるが相手も握りが程よく緩んでおり弾き出すには至らず

 自分の左上にあがった槍先を腰ではなく股関節を右へ絞るように重心を下げ右下逆袈裟に切り落とす



「はっああ!」『ガゴッ!』



 盾を少し弾き体が見えたが突きを出さず目的を思い出して一旦留まった



(手合わせだった〜、手出させてねえ)



 下段の構えから待構えという縦に持つ構えに直しビョルカンの技を待つ

 待たれたことにイラッとしたビョルカンの表情が阿修羅観音のようになったが見て見ぬふりをしておく、怖い


 ビョルカンが動く、一歩で間合いに入り叩きつけの動きが見える

 払う準備をしていたら槍先が下がったところで突きに変化、槍を払わず右へステップして避けるが槍先が付いてくる



(肩甲骨の可動域が広いんだな〜)



 なんてことを考えながら左へ打ち払う


 片手槍というのは基本的に難しい、突き刺しきる筋力と体の動きが必要で戻すための体の入れ替えが難しい、自分の体の可動域の理解が必要だ

 大盾で重心が前に持っていかれれば尚の事、ニゲルのように小盾にすればまだ良いのかもしれないがそれでも負担は大きいだろう


 そして普段は鎧を着ているのだろうか、盾と槍の間から身体中心まで見えることが多い

 グラディアトルになれば上半身は基本的には裸だから狙われ突かれたら終わりだ


 まだ上着を着ているから分からないのかもしれないな、こっちは浴衣だが



(そろそろ終わりたい)



 今一度ビョルカンが間合いに入る、今度は最初から突きが出るのが体の開き具合で分かる


『パァァン!』『ト』


 分かっていれば打ち払うのは容易、払いのあとに連ねて出した突きも海綿が体に当たった瞬間のところで止めるくらい余裕があった



 盾を開いてまで突きに力を込めるくらいならグラディウスでしっかり突いた方が威力も精度も高いだろう、ビョルカンの槍使いは鎧ありきで仕上げられてきているようだ



「それまで!」



 構えを解いて槍を提げてならう


 ビョルカンは驚きの表情と負けた?という疑問が混じったような左右で違う表情をしている、器用だ



「マツオの槍は禁止、盾が駄目になるし、なんだろう面白くない」


「えぇぇ」



 マクシミヌスが一言告げて槍を没収した

 懐かしい棒の感触を確かめるようにグーパーしたが高揚感が残っているだけで空虚だ



「最初の切り下げでビョルカンが砕け散るかと思ったよ」


「手合わせなのにマツオが目立っちゃ駄目だろう」


「大人気ない」



 ニゲルとオココ、マシュアルにそれぞれから辛辣なお言葉を頂いて心はズタズタです



「マツオはパロスの何位なんだ?」



 凹みすぎて溶けて無くなりそうになっているところにハーランドが話しかけてきた



「これでもまだチロなんだぜ?」



 マクシミヌスが格好つけてキリッとした表情で言うが余りの胡散臭さにハーランドは信じていないらしい



「これで?まさか〜冗談だろう?クイントゥス(5番目)かクァルトゥム(4番目)くらいなんだろう?」


「本当に新人なんだ、まだここに来て3ヶ月経ったかなというくらいでこの前が初の公式戦だったんだ」



 ハーランドはグラディアトルのことを結構知っているようだ、だからこそしっかり説明しないとダメそうだ



「本当に新人なのか?おかしいんじゃないか?」


「まあそんなもんさ、ハーランドとビョルカンだって次の闘技会ならチロで登録してマリディアーンだと思うけど」


「マツオの言う通り最初は仕方ないのさ、名を上げていけばいつかはパロスの仲間入りさ」


「そうなのか、このファミリアの中で勝ち進めば上がっていけるものかと思っていたよ」


「まぁこの中での序列はそうだな」


「でもパロスの面々には俺勝ったこと無いよ、皆強すぎるんだ、ちなみにそこのオココにも勝ったこと無いんだけどね」


「へへ〜」



 褒められてオココはニヤける、カワイイ子供の顔なのにな



「本当か!もっと高みが目指せるんだな!?この歳で諦めていたがまだまだ望めば手の届くところにあるもんだな〜、なぁビョルカン」


「…」


「随分ショックみたいだな」


「とりあえず家に案内する、マツオは練習指導な」


「はい」



 マクシミヌスはハーランドとビョルカンを連れてボロい海の家を案内しに行ってしまった



 残されたのは自分とニゲル、オココ、セバロス、ババンギの5人


 ニゲルは自分が槍を使えると知っていたと思っていたが意外だったようで大盾で突きと叩きつけを体感したいと言い出した


 さっきの感触だと手槍(6尺前後の槍のこと)だが思いっきり突けば割れるかもしれない、叩き落としも同様だ


 少し力を抜いて突きと叩き落としをやってみるとニゲルは手が痺れたらしく盾を離して砂を繰り返し握っていた



「槍が使えるなら言ってくれればいいのに、それに見てる分には刀よりよっぽど動きが良かったよ」


「オココが言うなら間違いない、ただ槍はもう駄目らしいからな〜」


「次の興行のときに槍にしてみたら?」


「棒...でも良いのかなぁ〜

 一番基本的な武器だから、それで良ければ使い慣れてるから良いんだけど」


「それ盛り上がらないんじゃない?」


「鈍器でも良いんだろう?似たような物じゃないか?」


「だねえ」


「今度マクシミヌスとかドライオスとかに相談してみようかな」



 その後はニゲルとセバロスに両手で使う槍の動きを教えたり、ババンギに重心の抜き方や摺り足を指導して過ごしドライオスのシゴキを受けたりして夜は更けていった


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