敗残兵、剣闘士になる 047 新顔
あの日からマシュアルとニゲル、セバロスには無理のない範囲だが使える身体への練習とマクシミヌスと共に血管や神経走行の勉強、ドライオスからは体力作りと1日に3種目に分けてトレーニングを積んでいく
日中は海からは相変わらず温かい風と砂が運ばれて来ている夜は少し肌寒いことが多くなってきた
そんな9月の半頃にハルゲニスが訓練を視察しつつ11月の闘技会に参加出来るかどうかを聞いて回っていた
自分は祭りを含め3回参加している、ニゲルはまだ2回、オココは足が治ったがおそらく出番なし、ババンギは祭り含め4回も出場していた、セバロスは今季絶望的、そしてマシュアルはまさかの14歳とのこと
「マツオとニゲルだけじゃあなぁ」
とブツブツ言いながらイフラースに御者をさせて馬車で出掛け、翌日の昼になり戻ってきたら奴隷を2人連れてきた
「何だ?マツオがマギステルをしてるのか?給料は出んぞ
新しくグラディアトルを2人連れてきた、11月に間に合うように教えてくれ」
丁度天気が荒れて治療所内で講義中のところにハルゲニスがやってきて言う事言って去っていった
残された2人はどうしたらいいのか分からずオロオロして困っている
「丁度講義中だ、必要なことだから聞いていけ
終わったら自己紹介と住むところに案内する」
マクシミヌスが促すと渋々座って静かに聞いていた
講義の後で2人に自己紹介をしてもらうようにマクシミヌスが声をかけた
「名前と年齢を教えてくれ」
「ハーランド、38歳だ」
「ビョルカン、16」
ハーランドは身長180センチ超え、体重100キロはあろうかという筋肉質の巨漢、しっかりと筋肉が付いている
頭の天辺が禿げているが横はまあまあフサフサ、顔の彫りが深くタレ目、アゴがしっかりしていて口髭がモッサリのオジサンだ
ビョルカンも身長180センチに少し届かないくらいと長身、体重は70キロあるかないかくらいでハーランドに比べると細いが筋肉は結構付いているように見える
こちらは髪が真っ直ぐで長く後ろで一結びしている、細面で彫りが深く目はタレ目、鼻が高くアゴも細いがしっかりしている色男だ
その後もマクシミヌスが質問を重ねていくとビョルカンはまだローマの言葉に疎いらしくハーランドが通訳をしながら答えてくれた
ハーランドもビョルカンもマルコマンニ戦争に巻き込まれたスエビという民族の戦士らしい
髪は金に近い茶髪で目は緑でゲルマニアと呼ばれるローマ帝国北の地のヘルムンクレンと呼ばれる地域に住んでいたそうだ
山狩りの最中にマルコマンニ族に取り込まれクアディ族とともにダナウ川を挟んでローマ軍と戦線を争っていた
元々スエビ族の戦士で一族の先陣を務めるほどの腕前だったそうでローマの大隊に斧一本、槍一本で殴り込んだがクアディの戦士が全く付いてこず、知らぬ内に周りはローマ人だらけで二人は諦めて捕らえられたのだそうだ
「そんな素晴らしい戦士を相手に腕試しと行こうじゃないか、丁度雨も上がったところだし地面も踏めるくらいになっているだろう」
壮絶な話を聞いたあとで腕試しをしようとマクシミヌスが言い始めたのにも拘わらず、自分はやらないという暴挙だ
「マツオと〜、そうだな〜ニゲルもやるか」
「マクシミヌスがやらないのか?」
「俺はもう歳だから」
「ハーランドよりもか?」
「いや、まあ、あれだな」
「若いんだろう?」
「うぬ〜、とにかく現役同士でやれ」
「え〜」
「頼む!」
「はいはい」
観念して皆で準備のため母屋の木剣置き場にいくが斧の形の物は流石に置いてない、かと言って刃のついた斧でやるわけにも行かずどうしようかと考えているとオココが思い出したかのように走って出ていった
大盾とビョルカンの槍だけ確保して小屋を出るとオココが河口の方から走って戻ってきた
両手に抱えているのはコペシュのように斧を縁取ったような曲がり方をした全長約1メートルの少し太い枝だ
「これでどう?」
「ああ素晴らしい、ありがとう」
ハーランドが右手が軽々と持ち上げて盾にコンコンと打ち付けたあと軽く素振りをして肩慣らしをしている
「オココ、あれって軽く無いよな?」
「うん、すごく重たい」
「それをあの速度で振れるのかよ」
身体が温まったのかハーランドがニカッと良い顔で振り向いて構えた
「もう少し浜の方で、流石に母屋の前は危ないんで」
ハーランドは戦えればなんでも良いのだろうか、講義中の魂抜けたような顔から一転してウキウキの笑顔だ
10メートル砂浜を歩いてマクシミヌスが間に立った
「一応手合わせなのでお互い寸止めで、こんなところで怪我しても勿体無いので熱くなりすぎないように、いいな?」
ほとんどハーランドに向けて言っているがハーランドは笑うだけで少し怖い、ちゃんと寸止めして下さいよ




