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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 046 連敗


「始め!」



 マクシミヌスの声が掛かった


 ババンギは両手にシーカ(反りの内側が刃の短めの曲刀)型の木剣を持ち、両手両足に小さめのマニカとオクレアを装着し兜こそ無いが武装としては完全に近い

 

 カヒームは右手に短めの木槍、左腕には肩から手首までマニカを付け左手に太めの縄を一本だけ持っておりかなり軽い装備、まだ体力の戻りが不十分なのかもしれない



 と、そんな風に思いましたが杞憂だったようです



 ババンギが左を前にしてグッと近付く左手で細かい突きの連続攻撃を見せるが槍を少し短く持ったカヒームが剣に当てるわけでなく手位置を邪魔するように出しババンギの剣先が体に触れないようにステップを踏む


 最近分かったことだが多分ババンギは元々左利きのようだ、訓練では右構えで教えるものだから上手くなかったがいつぞや気になって左構えに直してもらったらシックリきたのだ


 カヒームの左から波うって近付く縄を右のシーカに絡ませて払い十分に攻め込ませないようにしている



 ただ疲れるように誘われているだけとも知らずに攻め続けるババンギを槍の先でただ邪魔をしながら縄で注意を逸らせるカヒーム

 傍から見ているとババンギの連続攻撃をカヒームがなんとか捌いているように見えるが、ババンギは段々左手が上がらなくなってきており攻撃回数が減ってきている



「そろそろかな」


「えっ?」



 独り言が漏れてマシュアルに聞かれてしまった



「カヒームが勝つよ」


「えっ?」


「見てな」



 ババンギの右足が生きているかのように動いて縄に絡め取られる、どう縄を操作して意識も操作されたのか疑問だ、ほんの一瞬カヒームの左手が視界から外れる瞬間を作らせれているのだが気づかない


 ババンギが右足を踏み込む寸前に縄で引かれ突然の股裂き、柔軟性はあってもバランスは崩壊して顔はカヒームを向いているが腕は疎かになる

 尻が地面についたとき槍先は顔の目の前に置いてあった



「それまで!

 まるで縄が生きているのかのように足に巻き付いて離さない、攻めていたババンギもなかなか攻めこませてもらえませんでしたね

 グラディアトルには鉄の槍を刺し、男共からは羨望の眼を差され、女の瞳に恋の矢を刺す!

 強さも折り紙付き、地位もあり何より顔がいい!何でしょうね、ちょっと腹が立っているのは私だけでしょうか?」


「「「アハハハハ」」」

 

「では最後に盾を持たないマツオと縄を使うカヒームの対戦を行います、両者中央へ」


「マシュアル行ってくる、多分まだ敵わないと思うけどやれるだけやってくる」


「頑張れー」



 床から立ち上がり呼気で整えて木刀を軽く持ち替えしながら指を慣らす



 中央に歩きカヒームと目を合わせる


(クソッ、カッコいい顔しやがって)


 カヒームがちょっと微笑むだけで後ろの女子が「「キャアア!」」と悲鳴を上げて膝からクラッと崩れていく


 マクシミヌスも少しイラッとした顔をこちらに見せ口が小さく「やってしまえ」と言っているように見える

 小さく頷いて武器を確認して少し下がる



「さあ戦え、始め!」


「きぃあああ!」



 最初の気合い入れだ、最近気を張るほどの試合がなかったがカヒーム相手なら全力でも問題ない、なんなら捌いてくれるし多分負ける


 正眼に構えて見るとカヒームは静かに腰を落とし左前に構えて縄を回している


 縄を動かしているのを初めて見る


 カヒームの縄の先は一縛りしてあり重錘の代替になっており勢いよく回り真左へ横に投げられた

 半円を描くように自分の側頭部へ飛んでくる、前を向けば槍を構えるカヒームの餌食になりそうなので摺り足で半歩引く

 半歩分の距離を縄の先端が変化し迫る


「うへぇ」



 なんとか頭を引いたが縄は額を掠めて通り過ぎると思ったが縄の瘤は額の真ん中をデコピンするように弾いてカヒームの手に戻った


 もう訳わからん、生きているんじゃないかと錯覚するほど変幻自在に動いている


 気合いを入れ直し前を見るとカヒームの手に戻ったはずの縄は一直線に天に伸びておりカヒームの腕の動きに合わせて振り下ろされた

 縄だけあって腕の振りから少し遅れて動き始める


 チャーンス!とばかりに前に出て縄の中程を肩で受けながら体の中心を突く


『ボッ!』


 風を突く音とともに現状で最速の突きを放ったがガレルスを当てられ体の反転と共に左へ押し流された


 突きは引いてこそ活きるものである、体の重心は残してある、木刀の重心を中心に剣先を上げながら手を下げグッと引き戻して右への水平切りに変化させたが腕に抵抗がかかった


 目で確認すると縄を両手で縦に持ち手首の小指側付け根を押さえられていた


 手首を支点に左サイドへステップし位置を変えて手首を反して縄を切るように木刀を滑らせて切るも空を切るのみ


 どう動いたのかさっぱり分からないが薙いだ先にカヒームはおらず左の首に槍先が当てられていた



「参りました」



 空間でも移動したのか?というくらい実態が掴めない、両手で持っていたはずの縄からいつの間に右手だけ外されていたのか全く見えなかった



「ギヌヌヌ、それまで!勝者カヒーム!」



 「「キャアアアアア!」」という黄色い声援に笑顔で手を振るカヒームが強すぎて訳わからん、まるで体に剣を当てられる気がしない



「どうでしたか〜皆さん、鬼気迫る迫力を難なく弄ぶカヒーム、カッコいいでしょう?憧れるでしょう?気になるでしょう?なんかムカついて腹が立つでしょう?

 また皆さん闘技会があるときにお越しいただいてハルゲニスファミリアのグラディアトルの応援を宜しくお願いします

 では今日はここまでです、皆さん真剣に闘いあった彼等に拍手をお願いします」



 「頑張ったぞ!」「楽しかった」「頑張れよ」の野太い声が少しほんの少しだけだけど聞こえたが「カヒーム!キャアア」「こっち向いてーキャアア」「カッコいい」「腰抜けた」「死んじゃう〜」という女性陣の黄色い声援にかき消され、物理的にも男共が女性陣に押し潰されかき消されそうになっているのを申し訳なく思った




 帰り支度が整いマクシミヌスに付き添われながら帰る道すがらカヒームに話しかけた



「カヒーム強いな、全く当たる気がしない」


「マツオは分かりやすいんだ、直情的というか正確過ぎると言うのかな〜動く方向が分かるのさ」


「まだまだ勝てる感じがしない」


「まだここに来て2ヶ月そこそこの奴に負けるわけには行かんよ」


「確かに、こっちに来て剣も久しぶりに持ったくらいだから」


「なあ、マツオは何歳なんだ?まだ20歳くらいだろ?」


「今年で26だ」


「え?年上?」


「カヒームはいくつなんだ?」


「24だ」


「年下…」


「マツオは若く見えるな」


「カヒームは落ち着いているから年上かと思ってたよ」


「俺より上なんて滅多に居ないぜ、うちじゃあオニシフォロスくらいじゃないか」


「いくつなんだ?」


「今年26だ」


「同じ歳かよ〜」


「25も過ぎるとそれ以上は滅多に見ないんだ

 大体が20歳前後で命を落とすからな、稀に25過ぎてから入ってくる輩もいるが体力で負けて死ぬか自殺する者もいるくらいだ、何より覚えが悪くなって鍛えても強くなれないから行き着く先はモルスの膝元さ」


「ひええ、マシュアルの借金返したら早めに引退しよ」


「それがいい、でマシュアルはいくつなんだ?」


「14」


「あれ?まだ出られないじゃないか、鍛えがいがあるな」


「マツオに教わってる」


「動きの基本はマツオがいい、しっかりとした技術もあるしメディケの知識もあるしいいマギステルになってくれるだろうよ

 なんならニゲルとかセバロスにも教えたらどうだ?」


「教わる気があれば教えるよ」


「ぜひお願いします」


「ちょっと待てお前ら俺の立場が無いじゃないか!?」


「マクシミヌスは感覚で動く剣士だし、ドライオスは筋力訓練に取り憑かれてるから基礎がないんだ、丁度いいだろ?」


「じゃあ良しとしよう」



 マクシミヌスが目をカッと開いて割って入ってきたがカヒームの一言であっさり引いた、面倒なんだろう



「カヒームのおかげで仕事が増えたな」


「そうだろそうだろ、使える人間は使わないと損だからな」


「教えるのも訓練だ、やるか」


「イエーイ!」



 その翌日からニゲルも朝練に参加し数週間怠さが抜けなかったそうな…


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