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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 002 出血


「イフラース」

「マリーカ」

「ババンギ」

「オココ」

「カヒーム」


 右から順に一人ずつ名前を言ってくれたようだ


 イフラースはエジプトとかアラブ系の濃い顔、黒い猫毛で太い眉、彫りが深く目が引っ込んでいる、鼻が高くて口が小さい、何よりの特徴は髭が顔の下半分から首まで覆っている

 身長は同じくらいか少し高い、170センチは無さそうだ


 マリーカは凄く黒い、チリチリ頭、此方も彫りが深く鼻が高い、170センチくらいで細身、瞳の黒さもあり白目と歯の白さが目立つ


 ババンギも黒人だがこちらは焦げ茶くらいな色だ、150センチくらいで小さいが筋肉が凄く分厚い収まりきらず張り出してきているような腹筋だ、坊主頭で顔も平たい、団子っ鼻で口が大きい


 オココも黒人だが一番色は薄い、見た目も子供のようだ、身長150センチに満たずちょっと細め、スキンヘッドのクリっとした目が愛らしい鼻は団子で白くしたら日本人に見えなくなさそうだ


 カヒームはスペイン系なのかアラブ系なのかよく分からないが栃色の長髪は艶やかなストレートで首のポニーテールに縛られ、髭のない顔は細面でまあカッコいい、高い鼻、顎も細くキリッと二重で目が緑色をしている

 体も脂肪は乗ってはいるが筋肉の凹凸が分かるくらい鍛えられており均整が取れている



「トゥニカ」


 マリーカが茶ばんだ布を丸めて投げてきた、広げて見るとちょっと汚い

 開いてみていると全員がクスクス笑っている

 ババンギが股間を指差して見せる


「パンツか!」


「パンタ」


 イフラースが言い直してくれた

 四角の布を股に当てて腰で左右を結ぶ、締め付けが甘かったのか股を閉じたらポロっと片方が出た


「アーハッハハハ」

「アーヒー、アーヒー」


 ちょっと恥ずかしい、きつめに締め直すと今度は何も溢れずに済んだ


「ありがとう」


 日本語で頭を下げてみた

 黒人三人は手を合わせて祈るように見せたので同じようにしてみた


「アーッハッハ、ハハー」

「イヒーイヒー」


 マリーカは豪快な笑いでババンギは笑い方が独特過ぎる、オココはそんな二人を見て笑顔を見せていた


 御者台に金貨を払っていたてっぺんハゲのおじさんが乗り込み此方を睨んだ



「マツオ、ありがとう」



 自分胸に手を置いて名乗り手を合わせて祈るようにお礼を言った


 恐らくだがさっき闘って殺される予定だったのをこの人が買ってくれたのだと勝手に思っている


「フン」


 鼻で笑われた感じがしたが良いとしよう




 馬車が動き出すと揺れが大きい、地面に合わせての突き上げは踵が痛い、軋む木のタイヤは石畳を通りながら悲鳴を上げる

 方向転換の時など主軸が折れるんじゃないか気が気じゃない



 それでも馬車は進む、一般市民だろうか此方を見て手振るものもいれば個人名とくにカヒームを叫ぶおばちゃん達もいる


 どこの国でも変わらず優男顔が持てるらしい、あぁー玉を潰してしまいたい


 カヒームを見ていると顔色が悪く見える、元々浅黒いというかベースもベージュっぽい感じなんだろうがそれでも顔色が悪い気がする

 腰を下ろして足を組んだ姿勢で右手は腹を押さえながら外のおばちゃん達に応対している



「怪我か」



 刺創だろうか、圧迫止血をしているのかもしれない


 早く救急車で運ぶなりしてほしいが電話も分からない、国が変われば番号が違うだろうから迂闊に掛けられない



 それから数分後に馬車が止まった、ゆっくりと牢馬車の扉が開きカヒームが降りる、カヒームの尻には真っ赤なねばつきの強い血溜まりが出来ていた

 出血量は1Lを超えていそうだ



「見ろ、カヒームの血だ」



 他の四人に知らせるとババンギが飛び降りカヒームを走って追い抜き砂浜にある海の家に飛び込んでいった

 それを追いかけつつもカヒームに寄り添う


「大丈夫か?」


 肩を貸そうとしたが手を払われた

 ボロボロの木の柵の中に全員が入り扉が閉まった


「マツオ」


 かすれた声でカヒームが呼んだので振り返るとさっきまで辛い表情をしながらも艶の合った顔は蒼白になり薄い唇には皺が寄って今すぐにでも死にそうな顔になっていた

 もう足が出ず交差した右足が縺れて倒れそうになるところでなんとか支え、抱えてババンギの入った建物へ走った



「死ぬな!カヒーム!カヒーム!カヒーム!」



 海の家からババンギが出て来て大きく手招きをしている、何かの準備が出来ているのだろうか、そこに担ぎ込んだ



 薄暗い部屋に男が一人いた


「カヒーム!」



 その男は瀕死のカヒームを見てたじろぎ声をかけ続けた


 意識の度合いも落ちている、出血も多い、右の腹部とくに胸に近い部分には肝臓が入っている

 肝臓に達したかもしくは肝臓に入る血管が切れているとすると不味い、一刻も早く傷を見ないとだ


 ちょうどよく西日が射し込んできた


 部屋の奥には古びた手術道具があり、一枚岩の手術台もある、沸かしたお湯もある



「カヒーム、助けられるぞ、塩は何処だ」



 近くの壺の中に白い粒があり舐めると少し苦いが塩だった



「海塩か!十分だ」



 沸かしたお湯を木のコップで掬い綺麗そうな壺に少し入れて回して埃を落として外に捨てる

 もう一度お湯を入れる、大体1Lに対して親指と人差し指と中指の三本で塩を摘まんで6回で手術用の食塩水が出来上がる、洗い流し用に2Lを確保し湯冷まししておく



「カヒーム!」



 カヒームに駆け寄り頸動脈で拍動を確認、意識はないが生きているようだ


 茶髪のオッサンからカヒームを引ったくるように奪い取り手術台に乗せる

 手を洗う程度しか出来ないが熱いお湯でなるべく綺麗に洗う

 勿論手術道具も熱湯に浸しておいた



 ほぼ裸なのでそのままぬるい食塩水で傷を洗う、痛みからか体がビクッと動くが力強さがない

 先の尖った剣か槍かが刺さったのだろうか右の肋骨の下に傷口がありゆっくりダラダラと血が流れ続けている


 砥が今一だがメスで傷を背中方向に向かって少し開く、暗くて見えないため指を入れて確認する

 痛みが体が跳ねるが抵抗は弱い


 やはり腹膜を貫通して肝臓の表面に傷が出来ているらしい、肝臓はツルツルでとても触り心地よく綺麗そうだ


 お湯を沸かしている下の火鉢に鈎という直角に曲がった傷を開いておく道具を炙る


 指で傷を開いて食塩水で内臓周囲を洗い指で軽く肝臓を圧迫すると傷が少し開いて見える

 肝臓の傷に炙った鈎を当てて焼く



「んんんーーー」



 くぐもった声を上げて痙攣するようにピクつくが指は離さずに続けて焼く


 肝臓の出血が止まったことを確認して洗浄、滲む血も無し、腹膜からの出血はほぼないので縫わずに鈎で焼いて癒着させる



「カヒーム、髪を数本貰うぞ」



 気絶している状態なので声かけのみとりあえずして頭頂から髪を数本抜き取りコップに湯を入れて消毒、その間にぬるい食塩水を掛けながら腹に入った空気を腹を軽く押しながら出して皮膚を手で止める鈎で焼いて少しだけ癒着させて止める


 メスで皮膚に穴を開けて髪の毛で縛って一ヶ所ずつ止めていく

 計十針、縫い口を洗って終了だ


 心臓に耳を当てるとまだ生きている、手首でギリギリ脈が取れるくらいだった



「あとはカヒームの体力次第、膿んで熱が出るのに耐えられるかどうかだ」


「カーヒーム!」



 さっきまでオロオロしていただけのオッサンがカヒームに近付いて顔を撫でている、大丈夫死んでないから



「死んでないから大丈夫だ」



 息をしているのに気付いたのか大声で何か言いながら俺の足元で何度も土下座して祈ったあと、また何かを思い出したかのように走って何処かに行ってしまった



 誰もいない部屋に寝たままのカヒームと取り残された

 わずかに入る西日で部屋の中に足を上げる座布団みたいなものがないか物色する

 木の板があったくらいで他に何もない、手術台だとすれば当然だが、手足を上げて血液の流れを補いたいがそれも出来ない


 カヒームの頭を触るとじんわりとだが熱が上がってきている



「どこまで体力が持つかだな」



 入口に掛けてあった布を見つけたが冷えた水が無い

 仕方なくお湯を掛けて絞り振り回して冷やして頭に当てておいた



 自分の腹が減って鳴いている、自分のことも大事だが初めて会って一緒に笑った人をその日の内に失いたくはなかった




3話目

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― 新着の感想 ―
[一言] 電話も戦前だと怪しいから救急車呼ぶくだりを救護班なり衛生兵呼ぶに変えたほう良いと思う。
[一言] 股間ポロリで大笑いなあたり、どの時代、世界でも男って小学生やな……って感慨深いですね(深くはない
[気になる点] 特攻兵の転生ということで面白そうだなと思い3話まで読ませてもらいましたが・・・ なんというか主人公はこれ完全に現代人ですね 戦時中の人間として見るとあまりにも表現に横文字が多すぎてちょ…
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