敗残兵、剣闘士になる 028 蘇生後
闘技場の階段を下りコペシュを受け取って治療所へ走る、刀の血は鞘に付いていた布の切れ端でとりあえず拭っておいた
治療所へ戻ると無事手術道具が届いておりお湯も湧かしてあって準備万端だ
いつの間にやらグラウクスも来ておりコンクリートの台の上にはギリフォスが寝かされていた
「こいつはひでえや」
「薄皮一枚しか切ってないから大丈夫、それよりも切られたショックで心臓止まったのが大変だ」
「そりゃあ大変だ、でも今は生きてるぞ?」
「息を吹き返させたんだ、ちょっと手伝ってくれ」
「お、おぅ」
よくわかっていなさそうだったので刀とコペシュを置いて診療を開始
脈は手首で触れる、上腕の内側も圧迫して触れるから血圧は100以上あるだろう
足先、指先の変色なし
目は無理矢理開けて動きと瞳孔を確認、瞳孔のサイズも左右同等、目を手で隠して開けてをしても瞳孔の収縮があり問題なし
鼻腔にアルコールを近付けると嫌な顔をする、これも問題なし
「大丈夫そうだな、目が覚めるまで待つか」
「おう?でさっきのは何をしたんだ?」
「脈を取る位置で血管の力を見るんだ、首、手首、上腕で触って上腕が分かれば良し、首が触れなきゃ死んでる可能性が高い
足と指の変色があったら温めるか、もしくは見えない出血が何処かにあるかもしれないから探さなきゃいけない
目は瞳の大きさを見て違いがあれば脳に異常があるかもしれない、瞳の形で大体の見当はつくが脳の治療は専門外だからイマイチ分からない
あとは瞳が小さくなったり大きくなったりを確認して脳の神経を確認した
酒のキツイ匂いを嗅がせて反応を見たのは頭が呆けてるかどうかもあるがこれも脳の神経を見たんだ、結構大事なんだ」
「なぜ脳なんだ?心臓が止まったんだろう?」
「心臓が止まれば血が回らないから脳は機能しない、血が回らない時間が長くなれば脳だってダメになっていくんだ
足が半分切られて血管まで切られれば切られた下の足は青くなってダメになるだろう?」
「そうだな」
「それと一緒だ、脳だってダメになるのさ」
「なるほどな」
「とりあえず今やれることはないから体を綺麗にしておくかな」
「おう」
袈裟斬りした皮膚からはもう血が止まっていた、ぬるま湯で洗い流しアルコールで消毒すると斜め線一本入ってるくらいで問題なさそうだ
暇ができたので湯を沸かした灰を取り出し刀に塗って拭うことを繰り返し血錆を予防をしておく、早めにディニトリアスにお願いしたいところだ
今回のことで分かったことが一つある、槍と盾の組み合わせは攻めにくいし刀じゃ距離が全然足りない、やっぱり槍のように長さがあるということはとても大事なことだ
かと言って刀は手放したく無いので代用品で考えようと思う、コペシュとかね?
刀の錆も出てこないことを確認して灰塗りを止めた、大体20分くらいは経っただろうか誰かがやって来た
「マツオはここか?」
「はい」
「先の仕合で投げ込まれた金だ、受け取れ」
「ありがとうございます」
革袋に入れられたおひねりが届いた
金貨が大きいもので3枚、小さい金貨が2枚で大きめの銀貨が20枚、銅貨が110枚、小さい真鍮硬貨や小さい銅貨諸々、錆びた硬貨もごちゃまぜに入っていた
「アウレウス金貨初めてみた」
「このでっかいのか?」
「それだ」
「どのくらいの価値があるんだ?」
「小さい金貨2枚分、その皇帝陛下の描かれた銀貨にしたら25枚分だな」
「この髭の特徴的な銀貨ね」
「デナリウス銀貨っていうのさ」
「へ〜、これは?」
「セステルティウス銀貨さ小さいだろ、4枚でデナリウス銀貨と同額さ」
「この銅貨は?」
「アス銅貨だ、4枚でセステルティウス銀貨と同じだ」
「面倒だな」
「ん…あ、あ?」
ギリフォスが目を覚ましたようだ
ベッド見ると顔を動かして周囲を見渡している
「お!起きたか」
「お前は!俺は負けたのか…そうだ思いっきり切られて…え?」
ギリフォスが体を触って撫でて頭を傾げている
もう皮一枚切ったところも塞がりつつある、カヒームもだけどこの時代の人は治りが早い
「切ったけど皮膚しか切ってないぞ、勝手に死にやがって驚いたわ」
「死んだ?」
「ああ、死んでた、心臓も呼吸も止まってたよ
危うく木槌で頭割られそうだったよ?」
「え?生きてるけど?」
「蘇生したんだよ」
「は?」
「蘇生したんだ、俺が!」
「うわぁぁ」
顔引つらせて引くところじゃなくないか?
怪しい人を見る目をしてますよ
「ということで今日は大人しくしてろ
1回止まった心臓だ、いつ2回目が来るかわからん、しっかり鍛えて大事にしろよ」
「お?おぉ」
「歩けたら帰っていいよ」
「ありがとう」
ギリフォスはゆっくり体を起こし心臓に手を当てて心拍を確認して胡散臭い人を見るように睨んで帰って行った
「グラウクス、俺達は帰っていいのか?」
「いや、メディケはこれからが仕事だ
運び込まれて来る順に担当するんだ、今日はうちのグラディアトルが出ないから俺も手伝うよ」
「分かった、ありがとう」
「「「ワアアアアア」」」という歓声が裏側に居ても聞こえてきた
「マツオ次が終わったかな?今マツオが診たから他の3人のところへ行くだろうな」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ、来るのが1人か2人かは分からんがな」
「なるほど」
メディケのいる4つの部屋はまだ何処にも怪我人が入ってない
他の人の治療が見学出来たりするのかな、ちょっと楽しみだったりもするのは不謹慎だろうか?




