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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 025 開催


 ジェヌアについてから3日が経ち遂に興行の日がやってきた


 前日ギリギリにマリーカとオニシフォロスが到着しほぼ準備期間なく当日を迎えた、二人は最終日に戦うらしくそのくらいで丁度いいらしい


 前夜祭なるものがあり町は夜まで大盛況で眠れないほどの賑わいを見せ、それが朝まで続いていた



 初日の最初はパレードから始まる


 宿舎である訓練所から皆きれいな格好をして出ていく、チロの5人はみすぼらしい格好でいいらしい


 オニシフォロスは初めてみた

 黒髪オールバック、赤茶けた肌、眉まで整えてありキリッとした目で鼻も高く、下唇が特徴的な色男だ

 180センチ、逆三角形の上半身の柔軟性が高い非の打ち所のない色男だが色気という点ではカヒームが勝ちそうだ

 黒と金を基調にした短パンに金色の左右グリーヴ、黒基調に金の差し色の入った右腕のマニカ、金の兜は顔が見えるタイプで黒の羽はトサカのように付いている


 マリーカは右手首から肘までの赤いアームガードと両膝下の赤いグリーヴ、赤いマスクをかぶる赤い剣闘士だ


 イフラースは足首から膝まで隠れる大きめのオクレア、右肩から手首まで覆う可動性の良さそう革製のマニカ、トサカの兜で目は大きく開かれている


 ルクマーンは兜は尖った三角帽子で鍔無し、両脛にオクレアが小さく付いており右胸を革鎧が眼帯のように守っている


 カヒームはお留守番だそうだ



 宿舎から円形闘技場までは徒歩だ、人が大勢集まっている中を一列で進んでいく

「オニシフォロスー!」「イフラース!」の掛け声が多くたまに「マリーカ!」「ルクマーン!」の声も聞こえる、他は大体「ホルデアーリウス!」で大麦食い野郎という掛け声が多い


 このジェヌアに来てから教わったがホルデアーリウスには『大麦食い野郎』『体格のいい剣闘士』の他に『家畜と同じ位の人間』と嘲笑する意味も『ローマの支配した国の出身』ということも含まれているのだそうだ、少し世知辛い

 帝政ローマでは大麦は家畜の食料であり、ローマでは主食にしない大麦を主食にしていたのは属国(現在のスイス、ドイツの一部、エジプト、イラン周囲)として支配した地域の民が殆どであった、日本は米中心ではあるが大麦も多く作られており麦飯として広く食べられていたから仕方なく受け入れよう、美味しいから



 道を歩けば左右に出店、一列で歩く剣闘士には目もくれず殆どの人が財布を片手に出店に向かっている



 さて、何のために練り歩いているのか

 宿舎前にだけ熱狂的な方々が詰めていたがそれを過ぎれば人混みを縫って歩くだけの出勤風景でしかない


 円形闘技場の入り口にも剣闘士を一目見ようと詰めかけ個人の名前を呼ぶ人、頑張れと応援する人達でごった返していた


 町ですれ違う人達のほぼ全員の手に数字と何かの焼印が押されている木の札が握られている、町の為政者や興行主が配るチッセラと呼ばれるチケットだ


 会場の大きさに合わせて無料で配られており規模によっては複数日にしたり午前午後で分けられたりもする




 1列で円形闘技場に入り、そのままの流れで内側の闘技場内に向かっていく


 ちょっと緊張してきた、自分だけかと思ったら振り返ったチロの面々は全員そうらしい


 薄暗い通路を通り数段の階段の付いた闘技場の入り口差し掛かる、ふと周りをみると反対側には錆びた武具が置いてある倉庫が見えた


 お宝が眠ってるかもしれないな〜なんて悠長に考えているとドンドン進んでいく


 階段を上がると暗いところから急に光の強い場に出たからか一度視界が真っ白になりゆっくりと目が慣れてくる



「うわぁ」



 まだ観客が入ってきている途中だが下の数段にはもう人が入っていた、中にはハルゲニスとその近くには夜の剣闘をした時にいたヨルゲンティヌスも見える

 太鼓や銅鑼、なんかしらの弦楽器、笛の音も折り重なりなんだか御囃子みたいだ


 よく見れば自分が買われた時もこの闘技場だったように思う、あの時とは見えるもの全てが違って新鮮に見えている


 自分達が入ってから何かが書かれた木の板を持った人が周りを回って歩いている、残念ながら観客に向けられており何が書いてあるか分からない



 ハルゲニスの剣闘士団は9人だがすでに40人以上は会場入りしている

 規定の位置に着いたのか先頭のオニシフォロスが止まった


 止まってから周りの音がよく聞こえる


 誰かがどこのファミリアなのか筆頭の名前、来てるところはメディケや会計係の名前まで紹介していた



 全てのグラディアトルと関係者100人以上が闘技場に列になって集結したらなんだか甲子園みたいだ

 

 真っ白な柔らかそうな少し透けて赤い線の入ったトーガを巻き付けた白髪の初老のおじさんが観客席の最前列ド真ん中で、1段高い台の上に登ると闘技場内が急に静かになり剣闘士達が膝立ちになり頭を垂れたので動きを合わせ目だけをキョロキョロ動かして皆の動向を窺った




「セナトゥス(元老院)の議員ヨアニスだ

 今日、ここに集まったブレビス(市民)、そしてグラディアトル(剣闘士)達よ、9/1の1日前が皇帝コンモドゥスの誕生日である

 ローマの国の礎である皆々に皇帝コンモドゥスの治めるローマの繁栄と栄光、そしてゲルマニアの平定を祈り闘技会を開催することと相成った

 市民達よ、ローマの勝利を信じる者は立ち上がり右手を挙げよ」



 ザザザザッと一斉に立ち上がる音と、地響きのような市民の声が上がった



「「「ウオオオオオオオオ」」」



 ホントは何か言っているんだろうが全く聞き取れなかった


 元老院議員ヨアニスは右の拳を挙げ四方に応えるように見回し手を開いた

 段々と歓声が鳴り止み静けさを取り戻した



「皆の合意、確かに受け取った

 最前線で戦線を保たれておられるコンモドゥス様に必ずや皆の後押しを伝えようと思う

 それでは、戦でローマのために命を落とした戦士達の追悼とこれからのローマ発展のため命を賭して戦え!グラディアトル達よ!」


「「「皇帝陛下バンザイ!命を賭して敬意を捧げます」」」



 グラディアトルの方からの返答は決まっている

 『命を賭して』の部分は敗者全員が処刑という時代では『死にゆく者達より』という文言だったそうだ



「存分に闘い、存分に賑わすが良い」



 遂に闘技会の火蓋は切って落とされた



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