敗残兵、剣闘士になる 021 完成
中日はオココと一緒に流木拾いをして一本の重たい木を発見、木刀とは違う素材のようだが十分な重さがあり振る練習には丁度いい
持ち手を作って太く重たい素振り用の木刀に仕上げる、前回よりも簡単に出来て時間が余ったので銛を作成、丁度いいから朝の訓練のあとで海に潜ろうと思う
今日はドライオスの訓練に参加、ニゲルとセバロスの二人組でずっと牛追い練習をしていたので自分は木刀持ったまま走らされたが砂浜を走るのもいい訓練なった
朝ごはんのあとでシュノーケルもそれに代わる物も無いがなんとなくパンツ一丁で遠浅の大陸棚を歩く
海の中を見るときには箱メガネが一番だがガラスを見たことが無いしプラスチックもないので残念だが目で見るしかない
取れたのは危うく刺されそうになったアカエイと産卵後に死んだばかりの浮いていたアオリイカだった
「ヨーレシ!煮てくれ」
「パスティナカ!捨ててきて!
セピオ!大好き」
アカエイはパスティナカというらしい、捨ててこないよ?食うよ?美味しいのよ?
セピオはイカね、こっちは任せる
「セピオ任せる、パスティナカは料理する」
「毒、毒!」
「ああ〜針ね、取るよ」
木刀を削った斧でアカエイの尻尾を切り落とす、ビッタンビッタンと跳ねる、まだまだ新鮮だ
エイは釣ったら絶対背中を下にすること!というか腹を上にしておくことが大事だ
サメと同じで肝臓が大きくとても美味しいのだ
肝は海水に浸けて洗って浸けて洗って血を抜く、ヒレ部分を大きくカット、皮を剥いで中骨のような軟骨を剥がすように3枚おろし
大麦を粉にしてまぶし串に刺して焼く、カリッと仕上がったら魚醤を塗って少し炙って完成、肝は魚醤に少し浸してから同じく大麦の粉をまぶして焼くが半生の状態で完成だ
肝にこの前の山ワサビを塗って食べる
「うんまー」
よだれを飲み込みながら見ているヨーレシにもヒレと肝の串をプレゼント、食べようかどうしようか躊躇している間にも美味しそうに食べ進めるとヨーレシも観念したのか勢いに任せてかぶりつき噛みしめながら至福の表情見せていた
夕食後はマクシミヌスの教練だ、今日は座学だった
マクシミヌスの隣に立ち急所の位置、狙い方を学んだ
槍や剣は引くときにも気を付けろというのが話のシメだったが血管や神経の位置は覚えているので問題ない
自分は盾の縁で切られないように注意しなければならないそうだ
十分な休息を取り、翌朝、ドライオスの訓練を受ける
徹底した体作りには砂浜で足を取られながらの足腰と姿勢制御の鍛練が丁度いい
木刀を構えて踏み込み爪先が沈み込み過ぎれば振り下げた剣を引き戻せない
ここで古武術の型を一つ取り入れよう
子供の頃は武器なしの無手で行っていたが木刀を持ったときにはどうなのか試してみよう、それも走りながら、兄に見つかったら遊んでるんじゃない!と怒られそうだ
下段に構えて切り上げるが左手は峰に添える
後ろに振り向いて左脇構えから腰切りからの返し突き、足はすぐに引き戻す
ここまでは【攻】の練習
右を向いて正眼から相手の切り下げを払う動き、左手を上げて切っ先を右腰の少し外へ向ける
受けずに刃を滑らせて自分の右側へ誘導するように右手は力を抜き相手の切っ先が抜けた瞬間に逆袈裟、左右を変えてもう一度
今度は左からの腰切り(水平切り)を剣を斜めに受け引き切られないように自分が前に出ながら受ける左肘を前に出す、相手の刀の動きを止めたもしくは鍔元へ入ったら相手の刃滑らせてコンパクトな動きで少し高い位置だが水平切り、左右を変えてもう一度
相手の切り上げには真横に打払い当てて返しつつ斜め前に踏み込んで突き、左右同じくやる
突きに関しては自分の軸をずらして当たる面積を少なくし手元をみながら刀の腹で押しずらし滑らせてコンパクトに突くように切り刀を戻す
これで【待】終わり、次は【懸】だ
懸は相手が攻撃を仕掛けたくなるような誘いであったり蹴りや指折り等の相手の考えを混乱させていく仕掛けだ
重心を左右、前後にずらすように見せながら動くための重心位置は変えない
顔の位置を残したまま上半身だけ後ろに引き、足はわざと音を出すように動かす
顔を狙って切り下げに入ってくれたものとして顔を戻して左右へ潜って抜き胴
なーんてことを走りながら繰り返していく
ちょっと楽しくなってきたし砂に足取られることも無くなってきた、木刀の重さに重心が引っ張られることもなく、切先三寸で撫で切る感覚も段々と強く感じられるようになってきた
あっという間に訓練を終え汗を拭き食事を食べる、皮膚の艶と筋肉の張りが戻ってきたどころか段々と腕が太くなってきているように見える
肌の色も黄色っぽく白かったのがいまではこんがり狐色だ
そういえば雨降らなくない?
と、ちょっと疑問に思うが静岡も似たようなもんだったなあと思うと頭から薄れ大麦のご飯で腹の中へ押し込まれて消化された
ディニトリアスが迎えに来た、ホクホク顔で若干気持ち悪い
工房へ行く途中の道でヌワンゴが合流、ヌワンゴもニヨニヨしていて気持ち悪い
なんとなく分かるよ?分かるけどもう少し抑えてくれません?歩くのもいつもより早いしさ
結果いつもより早く到着した
工房の入口でヌワンゴに手の平をこちらに向けて「待った」をされた
ディニトリアスが奥から研ぎ終わった刀を持って出てくるが革の鞘に納まったままだ
革の鞘も蝋か油かなんかで磨かれたのか焦げ茶の落ち着いた色になっている
握りの革紐は膠か何かでビシッと固められており手の馴染みも良いし遊びもない
ガード(鍔)も真鍮色だったものがほぼ金色に艶消しされて磨かれており肌なじみが良い
ボタンを外して鞘が切れないように峰に沿わせて刀を抜く
曇りなく磨かれた刀身は刃の方は僅かに水色がかり峰は藍色と黒の間くらいの色を見せる
刃文は思っていた以上にキレイに浮かんでおり冬の荒れた日本海の波しぶきのようだ
構えてみると木刀の重みとは違う凛とした静謐な重さを感じるも決して嫌な感じはなく研ぎ澄まされた感覚で取り込まれたように感じる
外に出て正眼に構えて踏み込み、切り下げる
木刀を振っていたおかげか体が振られるような感覚はない
繰り返し振り続ける
まるで団扇のようだ、馴染みよく軽い
横に振れば空気の抵抗が掛かるが縦に振れば刃先が加速するような印象さえある
子供が新しいおもちゃを貰った時のように一日中遊んでいたいくらいだ
どのくらい遊んでいただろうか
刀は自分に合わせて調整してもらっていることもあり重さどころか疲れさえ感じない
「最高の出来です
ディニトリアス、ヌワンゴありがとうございます」
「お、おう」
「小麦の穂を振って遊ぶ子供みたいでしたよ」
ディニトリアスは引きつっているがヌワンゴの顔は微笑ましい表情だ
ディニトリアスに刀を渡すと鞘に入れてボタンを閉じてちょっと構えて首を傾けた
「重さは感じないのか?」
「なんにも感じないですね!自分専用ってのはそういうものじゃないんですか?」
「まあそうなんだろうけど、そこまでピッタリというのは初めてかもしれんな」
「それは良かった、これからも頼みます」
「おう!そこで相談なんだがな」
「はい」
「同じ作り方でグラディウスとか作っても良いか?」
「同じルドゥスのグラディアトルだけにしてくださいよ?」
「参ったな〜まあ仕方ない、弟子にのみ相伝するとしてハルゲニスのルドゥスだけに提供するとしよう」
「ありがとうございます、真打ち期待してます」
「ん?おう」
3人でハルゲニスの元に向かい刀を見せて預けてきた、手入れはディニトリアスが適時してくれるそうなので安心だ
果たして次は誰の武器が出来上がるのか楽しみだ




