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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 020 5日目


 筋肉痛は無くなっていた、これもグラウクスのマッサージあればこそだ


 朝一で川に行き冷たい水で体を擦って清める


 帰りの途中で用を足す、初めて来た頃はお尻拭きが見つからずお尻の穴が汚れた状態で海に洗いに走ったが流石に棒についた海綿で拭くことを覚えた


 海綿とはスポンジみたいな形の海の生物だ、これに水を含ませて拭く気持ちよさはやみつきになる



 まあお尻拭きはいいとしてオココの矢の構造を確認しなければいけない


 朝早かったこともありオココは流木集めをまだ始めたばかりだったので一緒に手伝いつつ良い素材を探した



 大体を集め終わったところで一緒に薪を割りながら厨房で聞いてみた



「オココの矢は木か?」


「うん!」


「本番用のに鏃はついているのか?」


「うん!石を削ったのが付くよ」


「鉄は使わないのか?」


「要らないよ」


「後で見せてもらえないか?」


「いいけど、ハルゲニスが持ってるよ」


「あ〜、そうだった〜」



 忘れてた、オデコに手を当てて考え込む



「一本作ろうか?」


「頼む」


「じゃあ枝を…っとあったこの枝で作るね」



 細長い真っ直ぐの枝を薪の中から取り出した


 オココは柵から手を伸ばして石を取ってきた

 ちょっと黒っぽい石で部分的に光沢がある石だ



「ちょっと離れてて」


「おお」



 『ガチ!』『ガチ!』『ガチ!』と黒い石を別の石で叩き割った物を更に叩きながら形を整えていく

 あっという間に鏃が出来上がり藁をしごいて作った細い縄で矢柄に結びつけて出来上がった



「出来た」



 オココは出来たてをすぐに渡してくれた

 鏃はかなり固めに締め付けられている



「オココ、矢の作り方は誰に聞いたんだ?」


「マリーカだよ、昔に作ったことあるんだって」


「そうか、マリーカは何か他にも言ってなかったか?」


「自分の方が器用なのに下手くそな奴が作ったのよりあんまり深く刺さらなかったって」


「だろうな〜」


「何か悪いの?」


「そうだ、しっかり作りすぎてるんだ

 鏃と矢柄が強く付いていると鏃の意味がないんだ

 少し緩く付けると深く刺さるのさ、あんまり緩いのが嫌なら間に海綿でも挟むといい」


「へえ、やってみるよ」


「本番前には絶対作っておけよ」


「うん」




 余計なお節介をしたかもしれない





 薪割りが終わったら今度はマクシミヌスのところへ向かう

 今日はニゲルとセバロスの教練日の予定だったなと思いながら向かうとチリチリ頭のマリーカが居た


 マリーカはニゲルに槍の指導をしているらしい、マリーカの持つ槍は少し特殊だった


 木製の長く細い槍の柄尻に小さい鉄球が付いている

 マリーカは柄の近くを持って軽々と槍の先で叩くように振っているのに対し叩かれているセバロスは耐えるのにやっとという表情をしていた



「だから槍のバランスを見て持つ位置を決めるのさ、バランスが合わないなら調整が必要だよ」


「今からですかぁ」


「やらないと腕の長さが無駄になるよ?」


「マツオからも何か言ってくれ」


「自分もマリーカと同じ意見だ」


「そんな〜」


「借金が嫌か死ぬのが嫌かだろう」


「マクシミヌスまで…死ぬ方が嫌だ」


「じゃあ決まりだな、マツオの剣が終わったらやってもらえ」


「自由が遠ざかる」



 古代ローマに関する資料を見ると武具の代金はラニスタが支払っていたりファンになった人から貰い受けるなんてこともあったそうです、人気次第でしょうけどね

 とりあえずハルゲニスのところでは借金に加算されていく方式をとっています


 マリーカは槍の使い方を指導して居なくなってしまった、誰かと手合わせしているところでもいいから見たかったんだけどな〜




 朝のトレーニングはニゲルとセバロスと掛かり稽古と立木への切り付けで汗を流して終わった


 ニゲルの槍の使い方、セバロスの重心位置を意識した動きは様になってきており厄介なことこの上なしだがどこかしらに綻びが見え、スキがつける状態だ

 自分にも言えることだろう、まだ盾の使い方に疑問が残る、相手の手の内を少しでも解き明かしたいがまだまだ不十分だ




 食後はディニトリアスの迎えで工房へ向かう


 どうも朝からニヤけているなと思って聞いたところ、ヌワンゴの予想通り、予想以上に研いだらしい


 荒砥、中砥、仕上げ砥、磨きとある中で中砥くらいまでやってしまったそうで重さこそあれど切れ味は今まで作った剣の中でも抜きん出ていると自慢げに話していた



 工房に着くとヌワンゴが丁度鋳造したガードと柄を磨いているところだった



「いや〜出来がいいですよ!」


「そうか!楽しみだ」


「仮組みしますね」


「お願いします」



 刀身と鍔、柄が合わさると刀なのに西洋剣のようで面白い、サーベルかな


 刀身は厚さは9ミリくらいと厚く、幅は上が3.5ミリ、下が4.5ミリくらいとこちらも幅がある


 柄は革がまだ接着されておらず仮組みなのでちょっと握ると遊びがある



 正眼(中段)で構えるとガードが重たい

 工房をすり足のまま出て切り下げ、突き、切り上げ、袈裟、逆袈裟、柄頭での突き出し手首の柔軟性を使った斜め下からの水平切り



「ちょっと鍔が重たいな、重心も前過ぎる」



 右車から腰切り、切り返しの腰切り、雷(握りの絞りを変えてわざとギザギザに下ろす切り下げ)からの切り上げ

 ピュンピュンと音がなる、切っ先で切った感覚になっており撫でた感覚になっていない



「握りの反応は固定すれば大丈夫だろう」



 全体的に重さを感じる、手首に負担が大きい分無駄な力が入る、重心位置を変えれば大丈夫そうだが刀身の重さもあり自分を鍛える必要がありそうだ



 握りと構えを確認しながら工房に戻ると二人がポカーンとした顔でこちらを見ていた



「大丈夫か?」


「あんな速度で動いて剣先が鈍らないんだな」


「鈍いぞ、真っ直ぐ行ってないから音が変だった」


「剣を振る音か?」


「そう、ガードが重たくて剣の重心が低いんだ、もう少し薄くして前をもう少し削れるかな?」


「ヌワンゴ」


「はい」



 ディニトリアスはどうやらキレイに振れていたように見えたらしい

 ヌワンゴは刀を受け取り仮組みを外してガードを金ヤスリで削り始める



「あんなのチロどころかパロスでも上位にならなきゃ敵わんぞ」


「パロスの上位相手には歯が立たなかったな

 もっと鍛え上げなきゃならないよ」


「ホントか!誰とやったんだ?」


「イフラースとルクマーンだ、どっちも負けたよ」


「本当かよ、化け物揃いだな」


「あと、オココには勝てる気がしない」


「アフリカヌスの子供か?」


「ああ、あれは凄いぞ、傑物だ

 イフラースもルクマーンも勝てないだろうな

 ただ若いから心の成長が心配だ、あっという間に壊れそうだよ」


「なるほどな」


「出来たよ」



 見た目は少し裏側が削られガード前後の長さが短くなったか

 正眼で構えるとまだ少し重い感じがする八相でもちょっと前方向にフラフラする


「もう少しガードを削りたいな、前も少し削ってほしい」


「分かった」



 ゴリゴリ削る音が工房に響く、ヌワンゴは仕事が丁寧だ

 ちょっと金色ぽいが青銅だろう、金ヤスリで削れているしな



「今度はどうだ」



 鍔は厚さ5ミリくらいで長さが10センチ強、幅4センチくらいまで縮まった

 正眼で構える、重さはそれほど感じない、八相、上段もフラフラしない

 外に出て同じく振ってみる、剣のバランスは取れたようだ


 反りの出ている部分がヒュッと音を鳴らすが切先は風を撫でているような抵抗ではなく形ある空気を触るような感覚を伝えてくる


 あとは自分のトレーニング次第で刀は枝にも羽にもなるだろう

 刀の重さに合わせて木刀を練習用に作り直そう、流木探しをしなきゃならなそうだ



「いいと思う、強いて言うなら革紐が固定された状態で振りたいな」


「明日は研ぎに出すから無しだな、明後日に完成品を振りに来な

 完成したらハルゲニスに預けるからよ」


「分かった、ありがとう」




 刀の鞘は牛革製だ、ディニトリアスは鞘に刀をしまいガードに紐を引っ掛けてボタンで留めた

 ディニトリアスは大事そうに両手で持ちルドゥスに寄ったあとに研師の元に持ち込んでくれるそうだ


 仕上がる明後日を心待ちにして明日は流木拾いと体力作りに勤しむことにしよう



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