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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 019 4日目


 疲労感こそあれど筋肉痛は今日はほぼない


 まだまだ体は若いのだ


 食事も戦時中よりも随分と栄養管理がなされており萎れていた筋肉に張りが出てきているのがはっきりとわかる


 まだ回復は不十分だが多少なりとも走れそうだ


 今日こそはとマクシミヌスのところへ教練に行く、今日もオココとババンギだ




 オココ相手に藁襦袢を着て走る


 スクタムと呼ばれる40センチ四方の盾を持ち矢を打払いながら逃げる



『バン!』「ヨシッ」『ドスッ』「え?」



 真正面から来た一矢を確実に落とした筈なのに右の肩に一矢当たった


 ババンギめ!と思い視線を移すとそこにはオココがいた え?



 オココにの方へ回り込みながら空きを窺うとまた矢を番えて放つ、分かりやすい射線で防ぐのは容易だ

 『バンッ』と同じように一本弾くと今度は左肩に『ドスッ』と当たる


 またオココが左にいる、動くの速すぎませんか?


 何度も同じことを繰り返すも2本目が絶対に防げない、理由は微妙に顔に近いところに一矢目を放つことで防御の盾が作る死角を作らせてその中を移動するから捉えられないのだ、覗き穴を作るか盾を使う技術が必要だ



 オココにいいようにやられて食後も凹みながらディニトリアスと工房へ歩く

 ただ凹むだけじゃなく盾をどう使ったら死角を無くせるのかを考える

 盾を構えながらまだ上手く動けないのが一番問題なのだが試しに盾から顔を出したら狙われて矢が顔スレスレを通り過ぎた時には肝が冷えた




 あーだこーだ考えているうちに工房へ到着



 今日は焼きなまし(合い取り)だ


 ヌワンゴが既に火をつけて待っていた

 ヌワンゴがこちらを気付いて大事そうに持ち上げて焼き入れした刀を見せてくれた



「昨日の焼き入れで随分と反りが出てますよ」


「おおお」


「焼き入れして反るような剣は普通なら駄目なんだが今回はこれで良いってんだから不思議だよな〜」



 ディニトリアスも不思議だと言っていたし、ヌワンゴは反ってしまった刀を見て失敗だと思って親方に謝ったらしい、笑って大丈夫というとキョトンとしていたらしい



 話をしながらも工程は進んでいく、ディニトリアスは刀の土が残っている状態のまま遠火で温め始めている

 焼きなました刀を入れるお湯を作るために火の中に石も入れてあった


 一時間近く遠火で温めてお湯に入れる、あとはお湯が冷めるまで放っておく




 今日はこれで終わりじゃない



「ガードと柄を作るぞ」


「重さのかかる位置とかは?」


「細かい調整は研いだあとだ

 今日は大まかに太さ長さ、握りの材質を決めて形だけ作るのさ」


「なるほど、じゃあ柄は木刀と同じ素材があればいいんだけど」


「あれは珍しい木だから滅多に入ってこない

 あれを使っていいならそうするが」


「珍しいのか?」


「ああ、ウランジって言ってな

 たまに交易品でアフリカヌスから入ってくるが極々稀だ」


「へ〜」


「柄はそれでいいな、ガードはどうする?」


「どんなのがあるんだ?」


「見てみろよ、刀身の脇に固めてある」


「わかった」



 部屋の隅にある鋼の刀身達の更に奥の木箱の中に大量にあった


 オタマの丸い部分みたいなやつ、十字に細いヤツ、ひし形、古びた砥石みたいなちょっと真ん中の減った直方体型、平べったい真ん丸、平べったい四角と色々あるが共通しているのは鍔と柄が一体化しているところだ


 日本刀は刀身ハバキ、切羽、鍔、緑、柄(鮫皮柄巻)、頭とパーツ毎に分かれている


 ところがこっちは一体、もしくは鍔と柄と柄頭が外れるくらい、ともすれば刀身に鋳造してくっつけたような柄もある



「コレ(ひし形)かコレ(直方体)かな」


「重さの調整次第だが直方体の方が良いかもな」


「じゃあそれで」


「ガードと柄と一体にする、革巻きするか?」


「する」


「ガードは明日だが握りのところは作ってしまおう、ヌワンゴ木剣と木材もってこい」


「はい」


「もしかしたらヨーレシのところにいい流木があるかも」


「見に行くか!」




 3人でヨーレシのいる調理場に向かい薪を漁る

 ほとんどが軽く中まで乾燥したスカスカの木材だ



「いいのあったー!」



 ヌワンゴが取り出したのはちょっと内側が黒くなっている木だった



「おう!?ヌワンゴ、ユグランスか!よく見つけたな」


「はい!」


「それで作ろう!ここは素材の宝庫だな

 ヨーレシ何本か持っていくぞ」



 ユグランスと呼ばれた木の他にも繊維の詰まった重い薪の中でも太い物をヌワンゴが左腕にディニトリアスも左腕に抱えられる限界まで抱えている、二人とも表情はホクホク顔だ



「いいけど薪は補充してくれるんだろうね?」


「余ってるんだから良いだろう?」


「冬の分もあるんだから程々にしておくれよ」


「そうか、じゃあここのルドゥスの面々の武器だけに使わせてもらうよ、元はといえばマツオの剣の柄の素材探しだからな」


「マツオのじゃあ仕方ないね」



 腕を組んで渋い顔で見ていたヨーレシの顔が少しほころぶ



「お前どれだけ貢献してるんだ?」


「美味しい鰻の食べ方を教えただけだ」


「あれが美味くなるなんて信じられないな」


「それは残念だ、あれ以上に美味い魚を探すのは大変だよ」


「そんなにか!今度頂きに来ようかな」


「ヨーレシに頼んでくれ」


「仕方ないね、やるときには呼ぶよ」


「やったぜ〜ホッホーイ」




 薪を大量に持ち帰ると木材専用の保存場所があり直に地面に置かないように木枠が組まれ種類別に分けて縦に並べられていく


 ヌワンゴが2本のユグランスという木材を持ち出して乾燥具合をディニトリアスと確認し1本に絞って工房へ戻る

 ヌワンゴは木材を柄にするために薪を薄く削りながら形を出していく



「このくらいで」


 ヌワンゴに渡された持ち手は少し細く感じたが革巻きすれば丁度良さそうだ


「革巻きは?」


「革紐を巻きます」


「ならこれで良いかな、上手いね」


「あとは真ん中で割ってガードから柄頭までのパーツと合わせて組んで革巻きしたら完成です」


「ありがとう」


「あと、今日はマツオさんを送ったら親方が荒研ぎまですると思います」


「気が早いな」


「早く刀身の刃文が見たいらしいですよ」


「なるほど、じゃあ明日楽しみにしておくよ」


「私は今日のうちにガードから柄までのベースを鋳造しておきます」


「ありがとう、楽しみにしています」




 ディニトリアスに送られて帰宅

 徐々に体の動きが戻ってきている、明日は仮仕上げの刀を振れることを楽しみにしていよう




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