敗残兵、剣闘士になる 001 まさかのイタリア?
『コオンサルジ!』
棒か何かで背中を小突かれて叩き起こされた
蹲っていた体を伸ばして見ると素っ裸で足には肩幅程度の縄、腕にも縄が括られている
どうやら捕虜になったらしい
『ディアモプラティオ!』
何か言われているが何だか聞いたことのある言葉だ
周りに何人分かの立っている足が見えたので立ち上がる
周りの人間の顔を見るとドイツやロシア、アフリカ系、スペインっぽい人種が同じく裸で縛られていた
『ディアモプラティオ!アンテチェソム!』
「英語じゃない?」
『ノォロクィート!ディアモプラティオ!』
英語じゃない言語だ、捕虜に合わせているのか?じゃあ何故ドイツ後でもロシア語でも日本語でもないんだ?
前が進んで自分でつっかえているのでとりあえず進んだ
『プロイベィレ、ノォロクイート』
前が止まり、後ろもそれに合わせて止まった
最後の言葉には聞き覚えがある、日独伊同盟で交換留学をしてきたイタリア人が使っていた言葉に似ている、確か「黙れ」だった
イタリアで捕虜になっているのか?何故に同盟国で?且つもう2年も前に負けた国なのに何故だ?
『進め』
イタリア語に近い?と認識したからか突然に繋がった
これは古い言語だ、戦争中に使うかもしれないと本土に居たときに隠語として聞いたことがある【ラテン語】だ
イタリアのお年寄りならまだしも若い世代には全く意味不明だと言っていた
『進め』
一人ずつ壇上に登っていくようだ
上の方はやけにワーワーと聞こえている、まるで祭のような雰囲気だ
(同盟国で公開処刑か?だとしたらアメリカ人は鬼畜だな)
顔を伏せたまま、口元は引き吊っていただろう、折角戦争を生き延びたのに処刑とはなと思うといたたまれなかったのだ
もう前に並んでいた屈強そうな4人は居なくなり遂には自分の番になった
『進め』
土の階段を一段ずつ登り壇上に出る
上に出ると円形に石造りの観客席が見えた、綺麗な造形だった
壇の上には一人のイタリア人が居た
目が合うと睨まれ何かを大声で言われたが何を言われたか分からなかった
髪を掴まれ観客席一番手前にいる人達に顔をみえるように右から左、左から右へ首を動かされた
目の前には7人の男達がいた
いい御身分なのだろう、貫頭衣を着た上に肩から真麻の布を掛け腰で結んでいる
それぞれに微妙に色が違うし年齢も40~60くらいと壮年の男達だ
あれがイタリアの正装なのだろうか?確かイタリアはスーツだった気がするが・・・
隣のイタリア人が何か叫ぶが耳元で叫ぶため音割れして上手く聞こえないが7人が7人とも首を横に振っているのは見えた
横のイタリア人は腕と足の縄を切ってくれて後ろを指差した
『プーンニァ』
確か「闘え」だったな
指差した方向には鉄のヘルメットに鳥の羽のついた物を被り右肩から手首まで木製の腕鎧、右手に短めの曲剣、左手に小さい四角の盾を持ったイタリア人?が居た
向かって左隣には貫頭衣に短パンのちょっと猫っ毛な茶髪のお兄さんが居て此方に向かって手招きしている
お招きに預り近づくとヘルメットのお兄さんが貫頭衣のお兄さんの持つ細い木の棒を叩き切ってみせた
「うおおおおおおお!」
と大声で向かって右側の観客席に向かって叫ぶと野太い声と女の黄色い声援が飛び交った
成る程、パフォーマンスか
「すまんがその棒を此方に」
貫頭衣のお兄さんの棒を指差し日本語でジェスチャーを交えて右手に持ち替えるように話して
「しっかり持ってて」
と、またも日本語と手でジェスチャーをして力を入れて固定させた
少し腰を落とし腕を交差させ腋を締め直し息を吐く
「はぁ~、はっ!」
斜め上からしならせ叩きつけるようにローキックを放ち『ベキンッ』と棒を折ってその余韻に任せて一回転して呼吸を整えた
「押忍!」
周りを見ると明らかに引いてる、貫頭衣のお兄さん涙目じゃないか?向かい側のお兄さんも腰引けてるぜ?
「さあ始めようか」
左を前に斜に向け、軽く指を曲げた左手を少し前に右手は腰元に引いた構えをとった
うちは代々男が骨接ぎで女は産婆の家系、全員が人体構造の知識を幼い頃から叩き込められ古武術の体の動きを叩き込まれる
ただし武術の方は体の使い方程度でしかなく長男だけが師範になり他はほんのちょこちょこっとしかやらない
ちなみに自分は七人兄弟の六番目、五男だから古武術なんて殆んどしてない
武芸は戦争前に銃剣と槍の使い方を習ったくらい
殆んどが我流で古武術を基盤にした喧嘩殺法だったのを特攻隊の仲間が別の古武術に合わせて型を幾つかと実践向きの体の使い方を教えてくれたのと軍で綜合武術を習得させられた程度だが無手でサーベルや槍相手なら簡単に御せる程度には鍛え上げている
「サートス!(開始!)」
試合開始だ、相手は体を丸めて少し前屈みになり急所を盾で隠し間合いを計りながら詰めてくる
身長は160センチくらいで自分と同じくらい、相手はちょっとぽちゃっとしているし自分は細い
興奮しているのか緊張しているのか汗をかいて呼吸が小さくなっているのが見てとれる
(それじゃ速くは動けないし攻撃範囲も狭くなるな)
案の定剣を振って胸を狙ってきたが摺り足でスウェーするだけで回避できたが追撃は盾で顎をカチあげるように振り上げてきた
ただし縮こまった体では十分な距離が出ないのだろう同じくちょっと引きつつ右へ動いてかわし、交差させるように左足で相手のスネ目掛けてローキックを放つ
『ゴギッ!』
「ヴア」
完全に折れては無さそうだが良い音がした、ヒビを入れられたかもしれない
左足を引き摺るようになって持ち上げられないようだ
右手の剣を突き出してみせるが体重が乗り切らずブレブレだ
ヘロヘロな突きを繰り出すタイミングに合わせてハーフステップから足の指を起こした状態でスネの同じ部分を真っ直ぐ突くように前蹴りを放つ
『ゴリッ!』
「イギャアアァ」
今度こそ一部折った感触があった
バランスが取れなくなり前のめりに倒れたがなんとか立ち上がろうとしているのが見える
「「「ブゥウ、ブーゥウウ」」」
観衆からの非難だろうか、けっこうムカつく声だ
『ベチッ』と背中に固いものが当たり落ちているのを見てみると石だった、誰か投げつけたらしい
おもむろに拾おうとするとヘルメットの兄さんが立ち上がって体を覆い被せるように伸び上がり剣を振り上げているのが見えた
踏み込みが足りず高さも体の捻りも足りてない、足りてないが相手は鉄の剣なので当たりたくない
低い体勢のままバックステップで余裕をもって回避し倒れ込んだお兄さんの痛いであろう左脹ら脛を踵で踏み抜いた
『ベギョ』
「イイィィィィヤアアアアア」
逝きましたな、足、ちゃんと固定しないともがなくちゃいけなくなるかもしれない
解放骨折まではさせてないから大丈夫だろう
相手は剣も盾も放り出して人差し指を立てている、貫頭衣のお兄さんも何か言ってるが観客のブーイングでよく聞こえないが試合終了で良いんだろう
審判らしきお兄さんの持つ棒を拝借、相手の剣を拾って棒の長さを調節
相手の足に編み込むような靴を脱がし、相手の足股に足をかけて折れ方と副え木の長さを確認していると審判のお兄ちゃんが何か止めようとしているが時間がない
「クーラティオ」
確か治療という言葉だったはずだ
足で骨盤を抑え上半身の力と足の力でメリメリと音を立てながら牽引し副え木を当てて靴の革紐で巻き付けて固定した
「グラーシアス」
審判なお兄さんが言うと白い布を被った男が整復時に失神しちゃった兄さんを抱えて連れていった
(確かありがとうだったな)
「グラーシアス」
と返答をを返すと貫頭衣のお兄さんに肩を掴まれて最初の壇上まで戻ってこさせられた
壇上のお兄さんがなにか言うとまた七人のおじさん達が騒ぎだし最終的てっぺんハゲのワシ鼻のおじいさんが金貨30枚を数えて渡していた
壇をまた下ろされ首に縄を掛けられて知らないお兄さんに引かれて建物から出ると馬車が止まっており指を示されて
『ァリーデ』
と言われて中に入った
馬車というよりは天井に幌のついた牢獄と言うべきだろう
既に5人乗っており皆、腕鎧や兜を着けている、どうやら先輩達のようだ
「ウゥトワレース マツオ」
自分の胸に両手を当てて言ってみた、確か「初めまして、マツオです」と言えているとおもうんだけどな~
2話目です