敗残兵、剣闘士になる 018 3日目
今日も筋肉痛で一日が始まった
「お!あぁや、ちょ、っひゃあ!」
起き上がるときに腕で体が支えられずカクカクプルプル、肘が崩れ落ちて地面に頭突き、接吻と繰り返し何度繰り返したか分からないがなんとか立てた
「腕は上がるけど握力は皆無だな
足もダメだな、歩くのがやっとだ」
診療所を出ると砂浜に足を取られて前回り受け身・・・
「また立つのか・・・ハアァァ」
重たい空気を吐き出す、魂までもが出てきそうだ
砂まみれになりながら立ち上がるも数歩で転倒、もう肘と膝で這えばいい
気持ち悪い四つ這いでトコトコとマクシミヌスのところへ
「マクシミヌス、今日は無理」
「見れば分かる」
「すみません」
「お、おぅ」
砂だらけのまま正座で見学していると後ろから押し倒され突然に腕や足をストレッチされた
「グラ、ウ!クスーーーー!
グッ!ラーティアーーーーー!」
ストレッチの痛みもさることながらしっかりとツボを捉えて揉み込む手の平の肉厚さがたまらない!
自然に痛みと快楽で声が裏返り絶叫する
「マツオ、頑張りすぎだ」
「昨日で辛いところは大体終わったんだ」
「そうか、回復まで丸二日かかるからな」
「分かった」
終わった時には体の吊る感じも変にピくつく感じも治まっておりうつ伏せのまま少し休んだ
半時くらい休んでからご飯に向かうために立ち上がるとプルプルはするが腕も利くようになっているし足も膝から崩れ落ちるようなこともない
「グラウクス良い腕してるな、普通こうはならんぜ」
独りでぶつくさとグラウクスを褒め称えながら食事に向かいヨーレシの朝御飯を掻き込む
しばらく胡座で放心しているとディニトリアスが迎えにきた
「マツオ行くぞ」
「あい」
ディニトリアスの足の運びが昨日までガニ股だったのが日に日に一本線の上を歩くように変わってきている、姿勢もいい
元々背部の筋肉が強くしなやかだったからか利きやすい位置に姿勢になるとかっこ良くなるもんだなと勝手に思い顔が綻んだ
「男のケツをみてニヤけるな気持ち悪い」
「いやいや足の調子を見てたのよ、段々と動きがこうね」
「馴染んできたか」
「そうそう」
自覚あるんかい!
「朝起きる毎に動きが変わってるのが分かる、足の皮膚の感覚も慣れてきたしな」
「それは良かった」
「さて今日はお前が頑張る番だぞ」
「そうだな」
今日は焼刃土を盛る日だ
昨日練り上げて水に馴染ませて置いた土を刃に置いていくのが今日の仕事
工房にはテーブルが用意されており十分な量の土が器に盛られている
「好きなようにやれ」
「ありがとうございます」
代々伝わる家宝の一つだったが敵を破る弾丸を作る為と言われ無理矢理に徴収されてしまった
今でもあの刃文の美しさは覚えている、室町の時代から紡がれた我が家が我が家足る由縁である当時の将より賜ったとされる刀、あれをまるで羽のように柔らかく風を切る長兄のなんと流麗だったことか
そんな刀の刃文を思い出しながらまずは全体に薄く且つ均一に塗りその上に刃文の形を起こしていく
海の寄せて返すような刃文は荒々しくも優しい色をした光の当たり加減で藍色に浮かび上がる瞬間がキレイだった
刃文は要らないものとされているがそうでもない、刃文の形で切る瞬間の反りの角度がかかる位置での強度が違うのだ
切っていく内に何処で力が最後に掛かって抜けていくのか?が大事だ、失敗すれば欠けるどころかそこから折れる可能性を持つことになる
目指すは北斎のような調和の取れた荒波だ
隠し剣のような細い剣で真剣に描くこと数時間、両面の刃文の形が仕上がったら刃文から峰側に厚く土を盛っていく
刃文から刃の方は土が薄いために段差が生じてる、この段差で火の入り方、焼きの入り方が変わり強度の差が出るのだ
「出来たぞ」
「どんな効果なのか分からんが焼いてみるか」
「親方の知らない技術ですか?」
「そうだ、ヌワンゴも見たこと無かろう?」
「はあ、確かにそうですね」
「これで出来に意味が出るなら極めるまでだ」
「貪欲ですね〜」
「当たり前だ、お前達の命を預かってんだ
高みを目指すのは普通だろ?」
「ありがたいことです」
「感謝しろよ」
焼刃土の乾燥を待って炭に火を入れる
焼きを入れる水は川の上流からヌワンゴが汲んで来て砂抜きもしてくれていたらしい、感謝だ
刀を焼けた炭に入れる、ヌワンゴと二人でフイゴで温度を上げていく
温度を一気上げ白い黄色になったところでディにトリアスがやっとこで掴み上げて水へ投入する
『ジョージョワジョワジョワワジョワ〜』
温度が下がるまで置いておく、全体的に温度が下がるまでこのままなのだそうだ
「今日はここまでだな」
「じゃ一つだけわがまま良いですか?」
「何だ?」
「剣の廃材で鏃作れませんか?」
「それなら有るぞ、オココのだろ?」
「そうです!じゃあ大丈夫ですね」
今日は明るいうちに帰ってこれた
訓練には参加出来ず昼寝して夕食を食べいつのまにか眠ってしまっていた




