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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 017 2日目


 翌朝、生まれたての山羊のようにやっと立ち上がり砂に足を取られて倒れながら砂まみれでドライオスのところへ



「マツオ、帰れ、そんなんで牛追いできるか!」


「出来ません」


「マクシミヌスのところに行けよ」


「はい」



 マクシミヌスの教練の場所が遠い、遠浅の砂浜で20メートルくらい離れただけの位置だが、まぁー遠いこと遠いこと



「マクシミヌス、今日は動けない」


「見れば分かる」


「木刀もディニトリアスのところにある」


「そうらしいな」


「見てるだけでもいいか?」


「ダメだ、見よう見まねで盾と木剣を使ってみろ

 剣一本よりよほど楽だと思うぞ」


「分かった」



 予備の盾と木剣を借りに母屋にいくがここも遠い、足が思ったように動かない


 場所も大体覚えた


 ここのルドゥス(剣闘士養成所)は東側に入口があり遠浅の砂浜を横長に区切って使用している

 入口入って最初が診療所、自分が寝泊まりしている場所で一番出入りがしやすい場所となっている

 次が母屋でそこが炊事場兼集会場兼ハルゲニスの居宅、その隣が練習用の武具を置いている小屋


 小屋から河口までの間にトイレ小屋(壺が置いてあるだけ)、新人とパロス(剣闘士の序列に加わった者)の下位(1~8位まで序列の番号が振られているがそれ以下の未熟者扱い者)の共同住居がある


 河口から少し川沿いの土手に上がると上位パロスの順に良いお家が並ぶ、ルクマーンとイフラースは順位が高くないらしく共同生活、マリーカとオニシフォロス、カヒームは石造りの豪邸にお住まいだ


 他の面々には会ったことがないし居ないのではないかと思っている

 川沿いの5件のうち、5軒目にはマクシミヌスとドライオスが住んでいるっぽいが朝イチで外から出勤してくることもあるので良く分かっていないし聞いてもない



 さて話がそれたが、やっとこさで盾と剣を持ちマクシミヌスの教練に戻った


 今日はオココとババンギの教練だ



「やっと来たか、まずはババンギとやってみろ、その手で盾を持って居られるかが疑問だがな」


「重たい!」


「始め!ババンギ思いっきりやれよ!」


「もちろん!」



 ババンギの両手から繰り出される剣の威力を盾の方向を変えながら打ち流す・・・ムリーーーーー


 一太刀受ける度に筋肉の悲鳴があがる



「キェエエエエ!」


「出たな!マツオの奇声」



 マクシミヌス、今日のはただの悲鳴です


 ババンギはわざと盾に打って来ているように見える

 隙をみて剣を伸ばすが握りがヒョロッヒョロでババンギの肘にコツンと当たっただけで落としてしまった


「あっ」


 という間に勝負あり、腹に剣先を当てられて終わった



「今日のマツオはダメダメだな」


「申し訳ない」


「あい、じゃあ次はマツオとオココ」


「オココは何を使うんだ?」


「コレ!」



 弓矢だった



「オココはサギッタリウス(射手闘士)だ、そっちの襦袢を来て走ってくれ」


「走るんか」


「まあ筋肉が痛んでるときには辛いからよ、頑張れ」


「おう」



 ババンギとマクシミヌスに枝と藁を編んで布をぐるぐる巻きにした物で束ねた襦袢を持ち、木の盾を持たされた



「これで走るの?」


「そうだ、頑張れよ~、あい、始め!」


「ちょっとーーーー!」



 オココは平仮名の【ひ】みたいな形の弓(約80センチ)を軽く引いて当ててくる


 矢尻は布が巻かれており弓も軽く引いてるだけだが当たった時の衝撃は突き抜けてくるようでかなり痛い、盾で防げることもあったが散々に痛め付けられて終わった



「終わった・・・」



 燃え付きました、もう体動きません



「グラウクス!ちょうど良いアレやってくれ」 



 マクシミヌスが素晴らしいタイミングでグラウクスを呼んでくれた

 昨日のは超気持ちよかったから



「いや、アレは今冷やさないとダメです

 皆で担いで海に放り投げてください」


「よーし!お前らやっちまえ!」



 マクシミヌスがニゲルとセバロスも呼んで手足を掴ませ、海に運ばせて放り投げられた



「ちょま、ちょーーーー」



 ザバーンと波の音が気持ちいい、水しぶきが大きく弾けたが入ってしまえば気持ちが良いもんだ



「後でペタペタするんだよな~」



 投げたあと皆は体を拭いて食事へ向かってしまっているので自力で上がるしかない



 10分くらい冷やすとかなり体は楽になった


 河口まで波打ち際を歩き、川の水で身を清めて食事へ向かう

 ほとんど食事は残っていなかったが大麦ご飯と塩で煮た豆、サラダは残っていた



「あれ?辛い?」



 サラダに違和感を感じた、この鼻に抜ける感じはもしや・・・



「コレじゃよ!ひっひっひ」



 ヨーレシが持ってきたのはゴボウみたいな山芋みたいな細長い根っ子だった

 目の前でスライスして見せてくれると少し目に染みて鼻に爽やかに抜ける匂いが



「ワサビか」


「ラディクスさ」



 ラディクスは根っ子という意味です



「それ、擦ってウナギにのせよう!」


「旨いのかい?」


「それはもう!」


「じゃあまただね」



 ニマーッと悪どく笑うヨーレシを見送り食べ終わる頃にちょうどディニトリアスが迎えにきた



「マツオいくぞ」


「フイゴはもうできない、体が痛くて動かない」


「今日は交代で大鎚を振るえ、鍛造は大変だぞ!」


「分かった」



 ディニトリアスの後ろを歩き工房へ向かう、昨日より腰の動きに負担がかかってないように見える


 ニヨニヨしつつ筋肉の痛みに堪えながら工房へ着くと昨日のお弟子さんが既に火を焚いて待っていた



「親方やっておきました」


「おう、じゃあ早速やるか」


「はい!」



 親方は錆びの溶けた汁を軟鉄の芯材に塗り左右の鋼、刃の鋼と接着していく



「何でコレ(錆び)を?」


「接着するためだ、炭に入れれば錆は鉄に戻るのさ」


「へ~」


「よし!炭の上に置くぞ!

 良いというまで二人はフイゴだ!コレが一番重要なところだ気合い入れろ!」


「はい!」「はい」



 自分は足踏みフイゴで空気を流し込む、お弟子さんは炭を投入しながら手で閉じ開きするフイゴで空気を送り続ける



 何分、十数分、もうどのくらい経っただろうか



 鋼は赤から黄色に近付き、白く輝いてきているが親方ディニトリアスはまだ良いとは言わず真剣に鉄を見つめている


 更に数分後、ヤットコで取り出し金床に置き金槌で叩いて圧着させていく凸のような形をしていた鋼はきれいに四角く纏まっていく


「よし、今度は二人も叩いてもらう

 片方ずつだ最初はヌワンゴ、お前だ大槌もってこい!」


「はい!」


「その間にマツオはフイゴだ」


「はい」



 足踏みフイゴで空気を送り込み鉄を高温で熱していく

 程よい温度に上がる頃には金属製の金槌の頭に同じく金属製の長い柄がついている物を重たそうに持ってきた



「持ってきました」


「よし、俺が合図して打ったところそれで打て、いいな?」


「はい!」


「あい!」


 カンッ、ゴッ、カンッ、ゴッ、カンカンカン、カンッ、ゴッ、カンッ、ゴッ・・・



 ディニトリアスが打つべき場所を手持ちの金槌で叩くと弟子のヌワンゴがそこを大槌で叩く、伸びすぎた部分はディニトリアスが修正を入れて真っ直ぐ伸びていくが鉄の色が濃い赤に変わってくると伸びにくくなってきた



「マツオ分かったか?」


「はい!」


「じゃあ今度はお前が打て」


「はい!」



 不服そうなヌワンゴに大槌を渡され鉄が熱くなるまで待つ

 黄色に焼けた鉄を持ち出し金床に乗せてディニトリアスが叩いて整える


「いくぞ、マツオ!」


「あい!」



 カンッ、、ゴッ!


「すぐ打て!」「はい」


 カンッ、ゴッ!


「真っ直ぐ下ろすんだ!」「はい」


 カンッ、コリッ!


「力は一定にだ」「はい」


 カンッ、ゴギンッ!


「強い!痕がつくぞ」「あい」


 カンッ、ゴッ!


「いいぞそのまま」


 カンッ、ゴギ!


「ちょっと強いな」「あい」


 カンッ、ゴッ!


「いいぞ」「あざす」



 そんな調子で伸ばしていき切っ先を作る段階に入る



「一旦切るんだな?」


「ああ」


「おいヌワンゴ斧持ってこい!」


「あい」



 鋼を暖めながらヌワンゴを待つ

 ヌワンゴは斧を肩に担いで持ってきた



「よし!ヌワンゴ、俺が線を引くからな

 そこを真っ直ぐで切り落とせ」


「承知!」


「ここだぞ、あい!」


「はい!」 ギンッ!


「良くやった!切っ先の形を調えていこうか」


「はい」



 刃になる部分から叩いて切っ先を作り芯材を包み込むように刃の方から持ち上げるように鍛造していく



「上手いな~」


「そりゃそうだ!親方だからな」


「そうだな~」



 血抜き用の樋は後で作るらしい

 おおよその形は出来上がった

 一番幅がある部分で5センチ弱、峰の厚みは1センチくらい、刃渡り70センチでなかご30センチというところだろうか



「後は焼き入れ前に乗せるという土だな」


「土と砥石の粉と灰、炭を砕いて作るんだ、水で練って塗って乾燥したときにひび割れない割合で作るんだ」


「やったことあるのか?」


「ない!」


「よし、ヌワンゴ材料砕くぞ」


「はい」



 3人で一種類ずつ材料を石をくり貫いたすり鉢で細かく滑らかになるまで擂り潰す


 スプーンで掬って加え水で練り折れたグラディウスを引っ張り出してきて塗る


 何が多いと割れて何が多いと気泡にになるのか等を確かめながら何度も混ぜて作っていく


・・・



「大体良いんじゃないか?」


「そうですね」


「ですね」



 青っぽい黒色に仕上がった焼刃土、今後もディニトリアスは配合を試しながら練っていくらしい



「土置きは明朝で午後焼き入れ、翌日に焼戻し、そして砥、砥、砥だ」


「ディニトリアスが砥までやるのか?」


「ある程度まではな、仕上げは研師に頼むぞ」


「なるほど」


「残念ながらマツオは奴隷扱いだからルドゥスでの練習では振れない、研師に出す前に柄と鍔を作るからそこでバランスを見よう」


「おおおお!はい!」


「鞘は革でいいか?」


「なんでもいい、刀の切れ味がいいと鞘は使い捨てになってしまうらしいからな」


「なるほどな」


「じゃあ明日また」


「おう」



 今日の帰りはディニトリアスが送ってくれた

 ヌワンゴはディニトリアスの奴隷だが自由に動いていいらしい、主人の許可があれば普通に生活できるのだそうだ

 ディニトリアスとしては包丁や鍋が作れれば解放して一端職人として送り出してあげたかったらしいがどうやら剣や槍作りの方が興味があるらしい


 それはそれでと言っていたがやらせたくは無さそうに見えた、ディニトリアスは何か次の時勢を見ているように感じた



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