敗残兵、剣闘士になる 015 腰痛の棘
翌日の朝食後からディニトリアスが迎えに来て腰のマッサージ兼整体が始まった
「腰をやってもらおうか!」
「その前に一通りどこか悪いか見させて貰います」
「いいぞ」
ウーンクトゥルのグラウクスも見学に来ている
まずは評価だ
どう腰が悪いのか?
なぜ腰が悪いのか?
腰を悪くする原因は?
本当に腰が痛いのか?
なんかを調べていく
立ってるついでに立った姿勢から拝見
横から見ると腹がデップりと前に出ている、かといって顎が下がっていることもなく膝が曲がっている訳でもない
背骨を触ると首は前弯(前に>)があり胸椎は後弯(後ろへ<)、腰椎は一部変形あるも全体的に前腕(>)となっている
腰椎一部変形は5つあるうちの4番目、なぜか少しだけ後ろへ飛び出た感じがある、左右への変形はない
「痺れと痛みは?」
「痺れないな、痛みは腰の骨の左が痛いかな」
「何をするときに痛い?」
「同じ姿勢が続いたあとの動き出しがビクッとくる」
「ちなみにどの辺?」
「ここだ」
触ったのは腰椎5番目の左側だった
「痛みの方向は?」
「そうだな上の方から針が刺さる感じだな、太いやつがザクッとくるんだ
酷いときにはケツの穴のワキくらいまでいくんだ」
「それは痛いな」
痛みを出しているのは4番と5番の間の椎間板、多裂筋、仙腸関節までというところか
次は過活動なのか過負荷なのかを見ていこうか
「座ってくれ」
「おう」
「骨盤を前後に倒すから痛みがあったら教えてくれ」
「おう!」
両手で骨盤を支えてゆっくりと前傾(腹を突き出すように腰が反る格好)にして痛みなし
後傾(体が丸まってヘソをみるような格好)にしても痛みはなし
但し前傾の時には腰椎の4番は正しい位置にはいるが後傾時にはすぐに飛び出て動きを止めてしまい背骨の丸まりを制限してしまう
「今度は体捻ります」
骨盤を起こした姿勢で体を回旋させる、左へは回るが右への角度は3割くらい落ちる
回旋させる時の重心位置は左右ともに右へ重心位置を取っている
おかしい、角度からみれば右重心で左回旋、左重心で右回旋するはずだ
重心位置を手で修正させて回旋させようとすると右へ回旋させる際に左の腹部が突っ張る
「イデェ!今来た」
左重心で右回旋させる最中の痛み
左の腹部が短いのか、縮めようとする何かがあるのかだな
「左足怪我したことは?欠損でも豆でもなんでもいい」
「うーん左はないな、右は親趾の付け根に木の破片踏んでから左へ曲がるときの右足が痛いときがあったな、今は出ないし触っても痛くない」
「見せて」
「お、おう」
砂だらけの右足の裏をみると母趾球の内側に小さい瘢痕とその下に何か入っているような感じで白い何かが見えている
「これ踏んだのは?」
「15年くらい前かな」
「腰が痛いのは?」
「15年くらい前?か?え?」
「取ってみるか」
「え?」
「固くなった皮を削いで下の埋まったのを取るのさ」
「いや、でも、なあ?グラウクスどうしたらいい?」
「マツオはいい腕だぜ?
カヒームの腹見たかい?」
「カヒームが死にかけたって本当だったのか?」
「マツオが治療したんだ」
「くう、でも、怖いな」
「じゃあ、皮膚を引っ張るからさっき体を捻って痛かった動きをしてみてよ」
足の皮膚に少しテンションをかけるように皮膚を引っ張るっておく
ディニトリアスは体を回したり肩を動かしたりしている
「あれ?痛くねえ、痛くないし動きが軽い、左肩が上がるぜ!」
「左肩も悪かったのか?」
「ちょーっと上げにくかったんだ」
「よし切ろう、幸い血が出るほど奥じゃないから皮だけ削ぐように頑張るから」
「頼むぜ、痛いのは勘弁だ」
「ディニトリアスって弱いな」
「うるせえ!グラウクスめ」
「じゃあ削ぎまーす」
メスで硬質化した皮膚を薄く削ぐ
二枚ほど薄く皮を削ぐと白い石のように固まった何かが顔を出し少し縦切開を入れて取り出す
硬いポケットになった皮膚も痛みの無い範囲で削ぎ落とし完了だ
「終わった」
「ちょっとスースーというか瘡蓋剥げたあとみたいな感覚だな」
「腰は?」
ディニトリアスが色んな角度に腰を動かしているのを見ても何とも無さそうだ
腰椎を触っても変な動きをしない、癖のように動きを止めることはあっても動きに制限が掛からなくなっている
「なんだなあ、こんなこともあるんだな
何ともない、動きが軽い」
たまーにこんなことがあります、子供の頃踏んだ木の棘が70年後に頚椎症の原因になったりとかまあまあ聞きますよ
「あれは絶対に真似がならん」
グラウクスはため息を吐きながら出ていった
「ということで刀作り頼みますよ!」
「任せとけ!」
ディニトリアスと一緒に腰を回して体を伸ばしてから工房へと歩みを進めた




