敗残兵、剣闘士になる 014 刀が欲しい
「ディニトリアス、剣を打ってくれ!」
町から少し離れた石造りの小屋というか工房にやってきた
カヒームがノックもせずドアを開けて入ると仕上げ研ぎ前の刀身が何本も飾られていた
工房の主はカウンターの後ろに座っていた、真っ白な肌の白い髭のハゲてるオジサンだ
腹は出ているが腕の筋肉は太腿のような太さだ、あれで抱き締めたら熊でも殺せそうな感じがする
「カヒームか、レティアリウスを辞める気になったか?」
「違う、うちの新人の剣だ」
「新人なら適当にアンフィテアトルムの倉庫からとって使えば良いだろ?」
「そうはいかない、メディケだからさ
死なせるわけにはいかないんだよ」
「なんでメディケがグラディアトルやってんだ!バカか!」
「グラディアトルにするために戦争奴隷を買ったらメディケだったんだ仕方無いだろう?」
「それならメディケのまま飼い殺しで良いじゃないか」
「そうしたいところだがどうやら奴隷市の売れ残り廃棄処理でプロウォーカトルのウェテラヌスに勝っちまってルディアリウスだった相手を引退させちまったくらいさ」
「そいつぁ、すげえや
そんならメディケとグラディアトルやらねえと金が返せねえな
そういうことで借金までこさえさせて武器を作らせるのさ」
「長く置いておくためだな!よし分かった
おい、そこの!名前は?」
二人ともその内容ならもう少し小さい声で喋って欲しかったな、丸聞こえですよ
「マツオ」
「マツオは何がいい?グラディウスか?シーカか?ショテルか?」
「カタナだ」
「聞いたことないが作り方は知ってるのか?」
「知ってる、形はこれだ」
カウンターに木刀を置くとディニトリアスはそれを持って色んな角度から眺め始めた
「なんだファルクスじゃねえか?お?これ刃が逆だぜ?はっはーこんなんじゃ切れねえよなぁ」
「いや、切れるんだ、人間3人分くらいバッサリとさ」
「そいつは嘘だろ~」
「俺の国はそのカタナで千年以上も戦争を繰り返してる馬鹿者だらけの国だからな
今は別の武器でやってるがそれまではそれが主流だったのさ」
「千年も戦争をか、馬鹿だな~」
「でもその千年馬鹿やってる間にその形になったのさ、切れない訳がないだろう?
名工が作れば木の盾じゃ防げない武器になるらしいができるか?」
「やってやろうじゃないか!楽しいことは人には任せられないぜ
よし、中に入れ!カヒームは帰れ」
「いや、そういう訳にはいかねえのさ、そいつ奴隷だからよ」
「そうか、難儀な奴だな」
「適当に待たせてもらうよ」
「おう、じゃあマツオ裏いくぞ裏!」
「はい」
木刀を肩に担いだまま歩くディニトリアスは身長が同じくらいだが体の厚みが半端じゃない
後ろをついていくと自然と腰に目がいってしまう、腰が悪い、しっかりと腰が伸ばせてない
「腰が悪いな、骨が変形してしまってる」
「見て分かるのか?」
「大体はな」
「治せるか?」
「やってみるか?」
「できるのかよ!?」
「可能性はあるだろう、完全には無理だが歩くのに支障ないくらいにはなるかも知れないな」
「頼むぜ、良くなるなら刀の代金は減額するぜ?」
「それは嬉しいな」
一枚壁を回り込んだらすぐ裏に釜と鉄材の山、薪も大量だが折れた剣や槍も大量に積まれていた
「この木刀の形にすれば良いのか?」
「最終的にはですね」
「作り方を教えてくれ」
「作り方は・・・」
鋼を叩いて10回くらい折り畳んで、溝を縦に入れて軟らかい鉄を挟んで包んで叩いて伸ばす
伸ばした先鋼側のほうを短く斜めにカットして鋼を叩いて切っ先を押し曲げて作る
刃の部分は叩いて形を作る
焼き入れの時には粘土と砥石の粉、灰等を混ぜて作って塗り固まったら焼き水に入れて急冷させると反りが自然に出る
合い取り(焼きなまし)は火から離して1時間、130度程度に温めてお湯へ入れる
あとは形を整えて研ぐだけだ
「柄は中に差し込む形が良いんだがどうだろうか?」
「覚えきれん!板には書いたがえらく時間が掛かりそうだ、お前も手伝え」
「ここまで来れないんですけどどうしましょう」
「ハルゲニスと相談だな、一緒にいくぞ
カヒーム、ハルゲニスのところに行くぞ」
「おう!」
すぐに小屋を出て薄暗い道を進む、ディニトリアスは松明を持ってきているがいい加減おかしいなと思い始めている
電線がない、街灯がない、懐中電灯もない、ロウソクみたことない、カンテラもない
いつの時代だ?っていうくらい発達していないのが気になる
靴どころか服も原始的だ、スーツどころかシャツすら見ていない
有力者の集まりでも現地の服の中にスーツの人間がいてもいいはずだ?なぜだ?1945年にそぐわないぞ
「今は何年なんだ?」
「どうした急にそんなことを」
カヒームが首を傾けながら聞いてきた
「国が違えば暦も違うのかと思って」
「なるほど、今はローマ紀元法で933年だ」
「ローマとはイタリアの街の名前で良いのか?」
「ビタリ族なら赤い肌をしているぞ?もう色んな種族と混じってるけどな!ハッハッハ」
ディニトリアスが豪快に笑って言うが、ビタリ族など聞いたこともない
イタリアではイタリアと言わないのか?
「この国はなんと言う国なんだ?」
「ローマ帝国に決まってるじゃないか!
何言ってんだよ、マツオ大丈夫か?」
カヒームも笑いながら答えた
ローマ帝国って紀元前だったか?コンモドゥスって聞いたことあるけどいつの人かわからないんだよ
「国の長はムッソリーニだったよな?」
「おいおい、マルクス・アウレリウスだろ?ムッソリーニって誰だよ!?」
ディニトリアスとカヒームが腹を抱えながら笑っている
イタリア語じゃないことも気になってきた、今使っているのはラテン語じゃないラテン語だ、似た言葉もあるから話せているがよく分からないことも多い
「キリスト教はあるか?」
「最近あちこちで布教してるな」
「そうだな~」
最近?
カヒームとディニトリアスは入信していないのか
「カヒームとディニトリアスは何教なんだ?」
「海の神、ネプトゥーヌスだ
これ程大きく偉大な神はいない」
「火の神、ウルカーヌスだろうさ
火と鍛冶は切っても切り離せないからな」
聞いても分からなかったがキリスト教が国内でもまだ布教していないとするとまだ100年立ってないくらいか?
紀元後300年までかかったらしいかたらな
「マツオは何の神なんだ?」
「八百万の神だ、全ての物に神が宿るという考え方で物を大切にしろという教えだな」
「面白い神様も居たもんだな」
「そうだな」
西暦100から200年くらいの間だ
何か特徴的なことが分かればいいけどな
そのうちキリスト教の人に聞いてみるか
そんなことを話しているといつもの砂浜に着いた、母屋に行くとまだハルゲニスが居た
「ディニトリアス久し振りだな」
「そうだな、ちょっと相談なんだがいいか」
「いいとも」
「このマツオの剣を作るんだが特殊な構造でな?打つ間だけマツオを貸してくれないか?」
「いいぞ、但し逃がすなよ」
「恩を返せるまで逃げません」
「だそうだ、明日から頼むぞ」
「分かった、訓練が短くなるが仕方ない
しっかり作ってこい」
「はい!」
威厳のあるフガフガ爺さんだこと!
ハルゲニスは話が分かっていい
二人の話し合いの結果、明くる早朝からディニトリアスのところに通うことになり刀を作れることになった
しかし証文は更新され、金貨は40枚分まで膨れ上がってしまったのは痛かったな




