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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 106 髭を剃ったイフラース


 ハーランドの壮絶な闘いと治療のあと数仕合進んでイフラースの出番が来た



 イフラースは最近髭を剃った、顔の下半分をヒゲが覆っていたがカッコいいだけで人気が出るならとキレイに剃ったのだ


 元々アラブ系の浅黒い肌色で少し縮れた髭を生やしていたが、全員で砂を掘って風呂に入ったときに顔を洗って少し長めの髪を後ろへ纏めたときの顔が中々に男前だったこともあり全員一致で剃ることを決定したのだ

 髪こそまだ長いままだが髭をキレイにそった顔はまるで何処かの貴公子かと見間違う程の優男だった

 鼻が高く、目は窪んでいるが垂れ目でぱっちり目、唇は下が厚く顎はシュッとしている



 カヒームとはまた違うが登場しただけで黄色い声援が響いた

 手を振りながら歩く腕にはカエトラ(楕円の小盾)とファルカタの形の木剣を持っている、オクレアは膝まで長さのある物でマニカはまあ普通だ


 反対側からは赤黒いツルッとした肌で鼻髭が特徴的なターバンの男が出てきた

 楕円の大盾と?型の細く長い剣(木剣)を持ち布を巻いただけのマニカとオクレアをつけただけの軽装の敵だ


 身長は二人共170前後で細み、セクトール?の方がどちらかというと細い印象だ



「アクスム王国の戦士か、ショーテルが似合うものだ」



 後ろからガレノスが教えてくれた



「どこら辺の国ですか?」


「アエギプトゥスの南にある国でここ200年くらいで徐々に周りの小国というか民族国家を取り入れて拡大してきている海軍もある新興勢力だ」


「へぇ〜」


「そっちのメディケも大いに気になるところだな」


「そうですか」


「こっちに運ばれて来たら徹底的に調べたいねえ」



 相変わらず医療技術と知識に貪欲な変人だ



 相対している2人は激しく打ち合っているが普通より速いくらいだが珍しい武器を持つ2人をみて観客は大盛りあがりだ


 試し切りに出てきたファルカタは研がれて光を鏡のように反射するほどで木の板を楽々両断した

 ?型のショーテルは80センチ近い長さで両刃のようだ、こちらも木の板を紙のように斜めに切り裂いた



「始め!」



 ゆっくりと距離を詰めてお互いの距離に入ると盾を前に構えた、アクスムの戦士は少し前のめりでイフラースはほとんど重心を中心からずらしていない


 イフラースは剣を手に軽く握り相手の動きを見てショーテルの横薙ぎの一撃を盾で押さえたが、ショーテルの窪みで押しえたためショーテルが引く動きを始めた瞬間に違和感を感じ『ギャリン!』と音を鳴らしてファルカタで打ち払った



「普通なら剣で打ち払うなんて滅多にしないのにどうしたんですかね?」


「マシュアルよく考えろ、あんな窪みで押さえたとして勢いよく引かれたら剣の先端はどう動く?」


「え?あ!腕が切られますね」


「だろう?もしかしたら既に切れてるかもしれないぞ」



 マツオとマシュアルには今見えていないが予想通りにイフラースの左の上腕は既に切られていた



 イフラースは何度か木剣での攻撃で試していた

 窪みで押さえるのは悪手、相手の鍔に近い方で押さえても引くときに窪みにハマるからと剣先を盾で押さえていたがいざ真剣になると盾を貫通する可能性も考えてしまっていた

 どうやっても小盾で押さえるのは難しいんじゃないかと思いながらも何度となく盾で防御しては剣で弾くことを繰り返していく、左上腕に切り傷が増えていくが手が動かなくなるほどではないし弾くタイミングによっては大きな隙を作れる

 縦に振り下ろされたときはただ避けるだけ、切り上げは怖いが打ち払えばそれほどでもない

 乱戦でこそ真価を発揮しそうな剣だなとちょっと油断があった


 袈裟に切り下ろされてきた剣を盾で受けようとしたときクルッと刃が返ったのだ、剣先をこちらに向けていたものが反りのある方を向けられ「まずい!」と思い体を捻って剣で叩き落としてしまった



『ギャチンッ!』

『バギィッ!』

「うっ!」


 相手にガラ空きの右側面を向けた格好になっているのを見過ごされるわけもなく大盾の角で背中を強かに打ち据えられ転がりながらも威力は減衰させた、背骨は無事だが肋骨は折れたかもしれない


 息をするだけでも痛いがすぐに立ち上がり構えた

 ショーテルを叩いたときに変な音がしたが自分のファルカタは少し刃こぼれこそあれど刀身はなんともない、恐らく相手の剣の何処かにヒビか切れ目が入っている筈だ


 仕合は防戦一方、盾でやられて動きはイマイチになったがあと数度の打ち合いで勝機は転がり込む


 しっかりと相手の動きを見る、全体を見て動きを想像し予測するのだ「マツオはそういうの得意だったな」とチラッと横切ったが集中は切らさない

 自然とファルカタは手首で回され始めた、剣速を上げて盾に当たる前に斬るのだ


 もう一度袈裟に振り下ろされたショーテルにファルカタの切り上げを合わせる


『キィンッ!』


 と音を鳴らしてショーテルは曲がり始めの鍔に近い部分で切断され刃は何処かへ飛び腕は空を切る、イフラースの剣は止まらず左上への切り上げから右へ切り払いを打つ

 しなった竹が勢いよく戻るようにファルカタは少し高い位置で神速に振り抜かれ相手の首を撫でた


 一瞬遅れて口と首から血を噴き出してうつ伏せに倒れた



「「「うおおおおおおおおおおお!」」」



 黄色い声援も混じって入るが野太い大歓声がかき消している

 両手を上げて声援に答えるイフラースの左腕の肩周囲は痛々しい状態なっているのが遠目にも確認できた


 シュロの枝を受け取って治療所に来たイフラースの腕は刺し傷と引っ掻き傷で腫れ上がっており塩入りの微温湯で洗い流すと出血自体は少ないが傷は深く筋肉まで至っていた、高濃度のアルコールと塩水でできる範囲しっかりと洗い流した



「イフラース、膿んでしまうかもしれない

 縫うことも出来なくは無いが薬を塗り込んで毎日キレイにしていくしかないと思う」


「それでいい」


「分かった」



 日本なら抗菌薬を使った点滴を入れられたかもしれないが今は無い

 軟膏をこれでもかと塗ったくりいつぞや作った油紙を貼り包帯で固定した、あとは腐らないことを祈るだけだ


 顔はモテ顔だが戦い方は男ウケしたらしい

 カヒームみたいに勝ち方もスマートでなければ女子人気は得られないのだろうか…モテるって難しい



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― 新着の感想 ―
[一言] 相手の武器を折った勢いのままの首斬りだから、観客からみたらかなり派手な結末だったんやろな。
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