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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 105 ハーランドの弱点


 ハーランドは真鍮色で卵型の兜をベースに短めに切り揃えた茶色のモヒカンの付いたモノで右腕のマニカは黄銅の鱗の並んだもの、オクレアも黄銅で統一されている

 少し湾曲した長方形で黄銅を打ち付けた大盾、斧は最初は木製だが本番からディニトリアス製の少し柄の長い鋼の斧に変わる


 ハーランドはセクトールに分類される、相手はマリディアーンからの上がりたてのトゥラケスだ


 身長はそれほど高くない、180センチ超のハーランドと比べるとハーランドの顎に頭がくるくらいに小さいし体も細めだ

 四角い盾にシーカというオーソドックスなタイプでお下りなのか傷の多い革製のマニカとオクレア、兜も装飾の少ない面頬も付いてないひっくり返したお椀に鎖帷子が下がっている古い物だ

 見た目からは強そうには見えないため登場したときには観客から嘲笑が当てられた

 ちょっとイラッとした感じは見せたものの見えた顔は東アジア系で出身は中国かタイかのようだ

 土の闘技場を滑るように歩き中心軸は全くブレがない、明らかに何かしらの武術を学んでいる動きだった


 対するハーランドも気付いたのだろう木の斧の握りを確認するように手を動かしていた、強く握るのではなく握るか握らないかが一番瞬発力が出るからだ



「始め!」



 審判の一声で始まった途端だ、5歩以上空いていた距離は一瞬で縮まりハーランドの盾が鳴った



「あれは大変だな〜大丈夫かなハーランド」


「速いですね、全然見えませんでしたよ」


「力みもないからな、しなるような動きだが防御する方には中々に衝撃が来るんだ」


「マツオみたいですね」


「俺の武術よりも速度と瞬発力に重点が置かれてるし繋ぎが滑らかな分動き出しが見つけづらい、技と力のハーランドとの相性は悪いな」


「大丈夫何ですか?」


「一応その対処法はいくつか教えてあるから選択を誤らなきゃ大丈夫だ」


「どうしたら良いんですか?」


「動かないこと…かな」



 あとはスキがどの瞬間に出ているかを見つけられるかどうかかな


 トゥラケスの攻撃は剣の先端数センチを的確に当ててくる、切ることを前提に動かす剣先の速度は目で捉えるのは難しい

 ハーランドは低く構えて盾で攻撃を受け止めあるいは兜の丸い部分で受け流したりしながらなんとか斧で攻撃を返すも届かなかったり手を攻撃されることもあった

 木剣のうちに相手の動きに慣れなければいけないことをハーランドも理解しておりなんとかタイミングをずらしながら盾を前に出したり斧で攻撃をしかけるなど頑張ってはいたが決定打のタイミングを掴めないまま試し切りの時間に入った


 ハーランドの斧は長く薪割り槌と呼ばれる全長80センチ近い物になっていた

 試し切りする人はうまく扱えず木の棒すら折れなかった、というより使い方がなっていない斜めに入れなきゃ切れないのに棒を真横から叩いて食い込んで終わりという下手クソさだった

 相手の武器は直刀と呼ばれる反りのない刀で先端の3センチだけ両刃になっている物だ、刃長は60センチを超える太刀だが細く薄いため片手で取り回せる

 使い方が分からないのだろう、試し切りの人は軽く板を突いただけで『スッ』と貫通してしまった


「あら〜不味いね

 兜貫通するんじゃないかな」


「怖いこと言わないでくださいよ」


「いやホントに兜で受け流したら頭も切れるかもよ」


「うええ、でもイフラースとかマツオの刀での練習が生きそうですね」


「速度的には足りないけどな」


「うへぇ〜」



 マシュアルを苦い顔にさせてしまったが本当のことだ

 中国の剣術は飛んだり跳ねたり回ったりしながら体の最大リーチを超えつつ、遠心力も体を動かす足の力も全て剣先数センチに乗るような斬撃や刺突を放つように作られている常に軸はあるが剣が相手に向かい始めた時から当たって切り返しが入る瞬間まで技として続くのだ

 つまり剣が動き始めたら止めることは難しいしこちらが先に動いても剣速で負けているので動き出しを防御に回させ動きを止めることは不可能ということだ



「始め!」



 審判が声を出すと10メートル近い距離はあっという間に詰められ大盾でなんとか初撃を防いだが上辺残り数センチというギリギリの位置だった


 反撃の斧は出せず次が来る、木剣の時と同じように2メートルくらいの距離を全身を使って伸びてくる攻撃は防御も難しい

 全身を使ってはいるが腕の最長のリーチ(肩から指までピーンの長さ)は使わずどこかで少し緩めた95パーセントくらいで動いているので剣の軌道に柔軟性を産んでいる、傍から見ていると大盾の上から首を狙うように調整しているように見えて仕方ない


 3撃目で大盾の銅板を貼っている基盤の木材が少し削られたのに全く金属音が響かなかった、銅板を避けて剣が内側に侵入し始めたのだ


 角度と斬撃が変化して突きに変われば恐らく顔を貫けるだろう、ハーランドは無意識に大盾を数ミリ上げた



「危ない!」



 マシュアルは危険さに気が付いた

 4撃目は顔に向けられていた剣先が盾の数センチ手前でハーランドの左足先に変化した

 


「チャンス!」



 マシュアルは「え?」という顔をしていたがハーランドは分かっていた

 半歩踏み出し盾で持ち手辺りを、オクレアで剣先を止めて斧を振りつつ肉迫する

 流石に対処はされる、盾を足場に後ろに飛ぶように下がった



「やった!」


「え?あ!」



 ハーランドは斧を振り下ろす勢いで投げていた

 トゥラケスは斧を躱せる足の位置ではあるが更に勢いを増してハーランドは迫っている

 そこを後ろの左足の爪先を引いて右へ無理矢理動いて盾で斧を受け止め伸び上がるような突きを出してきた

 ハーランドはギリギリのところで体をのけ反り右手を地面についたことで倒れ込まなかったが兜を貫かれ額を切られた、お返しに大盾を振り上げて相手の右腕に一撃を入れたが剣ごと持ち上げられ兜は脱げてしまった


 立ち上がったハーランドの右手には握り拳のみ、兜もなく額からは血が左目を覆うように流れ落ちる


 また2メートル近く距離を取られたがハーランドは次の一手で決めなければあとが続かない


 拳を強く握り大盾に隠れるように体を屈めて突進、足を動かし始めた時に既に剣はすぐ左まで迫っている握った拳を遠い距離から振り出し開くと土が相手の顔に散りほんの僅かな時間だが目を閉じさせることに成功した


 倒れたときに土と砂を握っていたのだ


 ハーランド大盾を離し剣をマニカで受け止め再度握られた右の拳で顎を下から突き上げた


『ゴギッ!』


 とイイ音が響いて中国人(漢人?)は10センチ程宙に浮き上がり着地できずに倒れた



「痛い〜」



 隣のマシュアルが顎を抑えてヒイヒイ言っているが笑顔だ



「それまで!」



 審判の声でハーランドは右手を突上げ点を仰ぎ見てそのまま後ろに倒れた、出血が多すぎたか?


 すぐに二人共が運ばれてきた、トゥラケスの方はすぐに意識を取り戻したし外傷は顎の下が挫滅していただけだったがハーランドは大変そうだ


 骨にこそ達してないが左眉の真ん中くらいから頭頂に向かって15センチの剣傷、前頭筋の端を切り込んでいるが太い動脈は傷付けていないし出血はもう殆ど無い


 興奮していて出血していただけ?


 じゃあなぜ失神するように倒れたんだ?



「マツオどうしたの?」


「なんでハーランドが失神したのか分からないんだ」


「マツオ知らないんですか?」


「何を?」


「ハーランドは自分の血を見るのが苦手なんですよ」


「は?」


「だから多分傷をキレイにしておけば大丈夫ですよ」


「そんなんなのに切り込み隊長してたのかよ、凄えな」



 ハーランドは髪が薄いため絹糸で皮膚を縫合して終わりだ

 10分と経たずに目を覚ましたハーランドは恥ずかしそうに礼を言って戻っていった


 ちょっと今後が心配になるが体質なら仕方ないな



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