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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 103 緊張の対面


 大きな扉の前で再度衛兵に武器を携帯していないことを体を触られて確認された

 衛兵さんが声を中にかけると扉が開かれるとその先は大きな石作りの部屋に磨き抜かれたピカピカのテーブルが豪華は食事を囲む皇帝とガレノス、その側近達と思われる高貴な方々がいた



「マツオを連れて参りました」


「御苦労だった、下がって良い」


「はい」



 衛兵さんは帰っていった、ちょっと心細い



「マツオ、入れ」


「はい」



 一歩足を踏み入れると扉が閉まってしまった

 逃げられない状況に無駄に緊張する



「異国の出だそうだな、突っ立ってても仕様が無いだろう?」


「すみません」



 その場に正座をして頭を下げた、高貴な身分の方を見下ろしてしまった!クビを切られても申し開きができない…やってしまった〜



「何をしている?ガレノスの横に椅子があるだろう?座っていいぞ」


「へぇ?は、はい!失礼します」



 カッチンコッチンに緊張しながらガレノスの横に行くとガレノスは椅子に軽く手を添えてどうぞと合図をしてくれた

 後ろに立つ人が椅子を引いてくれたので椅子の前に行くと椅子を戻されゆっくりと腰掛けた


 椅子は背もたれまで柔らかく絹では無いが上質な手触りの布で張りがあるのに柔らかく包み込むような感じだった


「(日本でもこんな椅子座ったことないぞ)」


 無駄なドギマギだ



 座ると同時にパンとオリーブオイル、塩、肉のワイン煮込みと緑の野菜のサラダ、ナッツ類、ワインが出てきた



「…(うまそー)」


「どうした?食べないのか?」


「いえ、無作法ですみません」


「これから戦場に行くのだ、作法など考えても無駄だ」


「はい、ありがとうございます、頂きます」



 皇帝陛下がこちらに合わせた発言をした際に小さく舌打ちが聞こえた気がしたが気にしない、気にしたら負けだ


 フォークでワイン煮込みの肉を食べようとした時に匂いに違和感を感じて止まってしまった



「どうした、食べないのか?」


「いえ、食べようと思うのですが思っていた匂いと違うので戸惑いました」


「もっと具体的に言え」


「はい、とても言い辛いですが鼻が麻痺しました

 こうモヤッとするような何か、私の食べられない物が入っているようです」


「正解だ、アコニートゥム(トリカブト系)の毒だ

 食べても手足が痺れる程度の量しか仕込んでない、よく気が付いた合格だ」



 殺す気か!初対面ではないが毒仕込むな



「はい、でもワイン煮込みは勿体無いですね」


「フフッ、フハーッハッハッハー!

 おいガレノス、マツオは市民の中でも下の方ではないか?貴族の身分では無いだろうよ」


「そのようですね」


「マツオが毒に気付くかどうかと祖国で貴族だったか民だったかで賭けをしていたのだ

 結果としては引き分けだったがな」


「庶民です、毒とは知りませんでした

 こちらの植物にはまだしっかりと知識が無いのですみません」


「いや、それは良い

 食える食えないが分かることが大事だ

 ガレノスよ、良いメディケを見つけたな」


「はい、知識も技術もかなりのものです

 私の知らないことを知っているようですし私も勉強させてもらいますよ」



 コンモドゥスとガレノスが話している間にワイン煮込みとワインが交換された、どうやらワインにも仕込まれていたらしい



「さて、マツオ、どこかでアレラーテでのことだが声をかけておいて迎えを寄越さなかったのは申し訳なかった

 ただそのおかげで避難した民が生きるに苦しまずに済んだ、改めて礼を言う」


「いえ、皇帝陛下として当然のお仕事です

 対応速度の速さに称賛こそあれど他意は有りません」


「そう言ってもらえると良い事を良く出来たとそんな気がするな」



 銀のグラスに入ったワインを回しながらいい笑顔で微笑むコンモドゥス、相変わらずの筋肉と濃い顔でヒゲモジャだ

 食事を再開しよう、もう一度新しいフォークを持ってワイン煮込みの肉を持ち上げ匂いを嗅ぐ、匂いだけでも旨いわ〜

 なんとなく気になって一度肉を置きフォークの先で皮膚にソース部分を乗せて感覚を確認、舌の上にも乗せて暫く待ち口に入れて顎に付けて異変がないことを確認し飲み込む



「(うん、問題ない)」


「今は何をした?」



 皇帝陛下に見られてた〜、ガレノスにも他の人にも見られてた〜、恥ずかしい



「すみません、もしかして2回目があるかもしれないと思い毒の確認をしてしまいました」


「それは分かるが、今の行為の内容を教えろ

 給仕、さっきのアコニートゥムの入ったシチューを持ってこい」



 コンモドゥスのところにすぐに皿が運ばれてきた



「いいぞ」


「はい、先ずは匂いを嗅ぎました

 刺激の強い物や甘くないもので甘い匂いがするときは要注意です

 湯気の中に少し溶け入ってしまう物も有ります」


「うむ、これは確かに鼻の奥が軽く痺れる感じがするな

 ただ冷えたら分からんかもしれん、続けろ」


「次に腕の柔らかい内側に何ヶ所か乗せました

 侵襲があるものや痺れる物は危険です、しかしレモンも同じく痛みが出ることがありますので確実全てが駄目ということでは有りません」


「そうだな、アコニートゥムは皮膚でも感じられるな置いた範囲よりも少し広く痺れる感じだ」



 皇帝自分の腕に乗せて確認している、凄いな、この人

 あとから聞いたことだが神学校を優秀な成績で卒業し前皇帝であるマルクス・アウレリウス自ら帝王学を含む知識を叩き込まれた学者気質だそうで文官としても優秀なのだそうだ

 文武両道を地で行く人だ



「最後に舌に乗せて数分待ちます、飲み込まないことが絶対です

 舌が痺れる、痛む、渋い等が出た場合は食べられません

 それでもまだ怪しいと思ったときには口の中に舌で塗って異変を感じないことを確認します

 少しでも違和感があれば水で数回うがいをして出します、少し飲んでしまっていたら焼け残った炭の黒い部分削って飲んで吐きだします

 かなりの確率で動けなくなるということは避けられるでしょう」


「うむ、舌に乗せて痺れるな

 極少量だがやってみればすぐに分かるものだ

 これはいい勉強になったな」


「いえ、あとは美味しく頂きます」


「良い、まずは食べよ」



 このとき教えた内容が最後の日に役立てられたが力及ばずだったことを後になって悔むことになるのだがそれはまたずっと後の話だ



「(うめええええ)」



 パン止まらねえ、オリーブオイルも旨し!煮込み旨し!何よりこのワイン旨い!なにこれ!

 あっという間に完食したよ



「さて、マツオよ

 メディケでありながらグラディアトルもドクトレもやっていたそうだな?」


「はい」


「どのくらいやれるのだ?得物は何を使う?」


「どのくらいと言われてもマリディアーンを卒業したばかりです、アレラーテの2日目で10人相手に教え子と2人で全滅させたくらいでしょうか

 得物は刀か槍です」


「刀とは何です?」



 近衛兵なのだろうか食事時にも鎧を外していないコンモドゥスの隣に座る黒髪のオジサンが聞いてきた



「去年の8月頃に献上しました、ファルクスと刃が逆になっている剣です」


「ああ、あれはマツオからだったのか!縁があるな!あの剣を以て初めて撫で切るという感覚を得たが中々に気持ちのいいものだ」


「使っていただけただけで幸いです、作った鍛冶師も満足でしょう」


「ただな、あれはまだまだ違うのだろう?」


「良くおわかりで!祖国の出来と比べれば雲泥の差ですが十分に使えるモノでしたよ」


「何れ新しい物を打ってもらうこととする

 さてそろそろマツオはお開きにしよう、明後日から戦地に帯同する皆の者覚えておくように」


「こちらこそよろしくお願いします」



 頭を下げて立ち上がり執事さんらしき人に付いて部屋を出て衛兵さんに連れられて寄宿舎に帰ると緊張かから解放されて泥のように眠りについた



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― 新着の感想 ―
[一言] 次話から従軍編かー ただ剣闘士成分がどうなるのか期待です 予想がまったくわからない展開はわくわくします。
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