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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 102 人間卒業


 ルクマーンの扱いはセクトール(追撃闘士)となる

 相手は大盾ではないタイプの剣闘士が選ばれるのが通例だが稀に挑みたい相手や因縁のある相手が居る場合はその限りではない


 相手はちょうど一年前に闘った相手らしい、そのときはルクマーンと拮抗していたそうでお互い傷を負って引き分けだったらしい


 相手は元々トゥラケスだったが筋力を付けて少し大きい盾に変えたらセクトールの扱いに変わったんだそうだ



 覗き穴からは体格も同じくらいで2メートル近い、大きさはルクマーンが少し絞られたこともあるが相手の方が一回り体が大きく見える


 最初のクラブと木槍のウォーミングアップもかなり激しく打ち合っていたがルクマーンは盾の使い方と足のステップというか切り返しの動きを自ら封じながら打ち合い拮抗しているように見せているようだった



 試し切りに出てきた相手の槍は中々に良い長槍で板を貫通するにもそれほど抵抗が無いように見えた、対してルクマーンのクラブは鋲の打たれた鬼の金棒のようなクラブで強く叩いたからか板は砕け散った


 リーチの差もあるが相手の盾を如何に攻略するのか観客は考えていることだろう、しかしそんなことを考える余地もなく圧倒する可能性もあるような気がする



「マツオ、ルクマーン手抜いてる?」


「たぶんね」



 ルクマーンは相手の槍の応酬を最低限の動きでキッチリ盾で受け流しながら無効化しており全く槍が体に触れることはない、逆に相手は突き出した槍を持つ右手を何度かルクマーンに叩かれており少なくないダメージを受けている


 相手の繰り出した顔を狙う渾身の突きを盾の上辺で軽く上へ流して兜の丸みを滑らせて後ろへ通し盾と盾を合わせるように一歩の突進で動きを止めルクマーンの剛腕がコンパクトに振るうクラブで頭を叩いた


 脳震盪だろうか一瞬力が抜けたのをルクマーンは逃さず盾を合わせたまま押し倒し槍を持つ右手を足で押さえてクラブを顔に向けて終了だ



 もっと早く終わらせることができたかも知れないが、差を見せつけることが目的だったかもしれない



 皇帝陛下の前で跪き何か言葉を貰ったのだろう、ゆっくりと立ち上がりシュロの枝を貰って闘技場を降りた




「最後はマリーカだな」


「全く見たこと無いんです」


「俺もだ」


「強いんですか?」


「生まれながらに戦士の教育を受けて敵を求めて海を渡ってアフリカヌスからここまで来たらしいぞ」


「はあぁ〜、奇特な人もいるもんですね」


「オニシフォロスも似たようなもんらしいぞ

 何度かルディスも貰ってるらしいしな」


「へぇ〜」



 マシュアルは興味が無いらしい

 マリーカの話をマクシミヌスから聞くとマリーカは死なない限り首だけでも喉に噛み付いて道連れにしようとするんじゃないかという印象で負けそうな感じがしないのは何故だろうか



 今日素晴らしいことにマリディアーンが終わってから怪我人は運ばれてきていない、全て死ぬか降参で終えているので中々に休息時間が長い

 何ならコンクリートベッドに寝ているメディケが増えているくらいでもう誰も運ばれてこないと思っているのだろうか




 そこから数仕合行われて遂にマリーカが登場した

 因みに誰もベッドには運ばれてきていない



「赤いな」


「赤いですね」



 1.5メートルほどの赤い槍(棒)の柄に鉄球のような物がついている

 盾は縦長の楕円形でこれも赤い、少し面長の仮面は目から赤い血を流しているような模様が描かれている

 あとは腰巻きの布があるだけで腕にも足にも何もつけていない



 相手はムルミッロ(魚兜闘士)、木剣を持っているが風格漂う強者だ


 最初のウォーミングアップでマリーカは全く打ち込むことはなくただただ全てを躱して終えた



 試し切りに運ばれてきた石突に鉄球の付いた1.5メートル程の赤い槍を試し切りの人がどう使うのか分からなかったらしく木の板を叩いて終わり観客からは失笑を買った

 相手の武器はスパタ(長剣)だった、軽く振り抜くだけで木の板が切られるほどの切れ味だ

 お互いが武器を受け取ると審判が「始め!」と声を掛けた

 

 審判の声に合わせてマリーカは左足で地面に線を引き、そこから大股で5歩下がった



「キーィッダ ンゼ ゥデ ゥロ モンドッ」



 マリーカの国の言葉で「その線を超えたら殺す」と一言告げ、直立の姿勢を取る



 よく分からないムルミッロはチャンスと思ったのだろう、一気に近付いていく、しかし線を越えたところでマリーカが盾を斜めに突き出し槍を縦にして構えたため急激に足を止めた



 大盾を持ってしても危ないと思ったのだろう


 盾に隠れるようにしっかりと構えてマリーカの槍を持つ右側へゆっくりと回り始めた


 マリーカもそれに合わせて正面を変えるように回り軽く内から外に横に槍を振った


 ほんのさっきまで槍の下1/3くらいの位置で持っていた槍は鉄球の付け根に持ち替えられており、軽く掬い上げるような突きで相手の兜は宙を舞った


 兜に視界を消されたムルミッロは一瞬で盾の裏に沈み込むように隠れようとした、だが時遅し鼻の上から槍が迫っており手遅れだった


 そのまま槍は鼻から喉奥、脊髄まで貫通して頭の後ろから槍先が抜け出てきた、ムルミッロは体を痙攣させながら沈み込み槍が抜け崩れて死んだ



 すぐに槍を振り血を払ったマリーカは入念に心臓を突き刺して止めを確認、相手の腰巻きで血を拭って舞を踊りながら闘技場を出ていこうとして衛兵に止められ上から渡された月桂冠を被って消えていった



「初めて見たけどマリーカ強すぎないか?」


「あれはなんというか人間辞めてますね」



 それから2戦見たが結局誰も運ばれてこずお開きとなった


 マシュアルと2人で控室に行くと誰も怪我をしておらず緊張感ももう消えていた



「マツオとマシュアルが来たから帰るぞ〜!」



 マクシミヌスが号令をかけたが既にマリーカは居ない、なんて自由な男だろうか


 皆が荷物を纏めてディニトリアスが武器と防具の保管場所へ運び込んで、さあ帰ろうという時に衛兵からお呼びが掛かった



「ハルゲニスファミリアのメディケのマツオはまだいるか?」


「はい、何でしょう?」


「コンモドゥス帝がお呼びだ

 他の者は帰って構わん、用が済み次第マツオは近衛兵が送っていくとのことだ」


「はい、マクシミヌス行ってきます

 多分これからの話だと思います」


「そうだろうな、行って来い」


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