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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 098 クズ医者


 次はマリディアーン、最初は新人戦だ


 今回は全く新人を出していないので治療に専念することになるのだが治療所にまたもあの人が来ていた



「マツオ、戦地での語らいが楽しみで仕様がないよ〜」



 オココの仕合が終わった頃に肩を叩かれ振り向いたところに赤茶のヒゲモジャさんことガレノスが居た


 流石に尻を向けたままというのは申し訳ないのでしっかりと体を向けて挨拶した



「闘技会終了からお世話になります、よろしくお願いします」


「堅苦しいのはいい、君はグラエキア(現ギリシャ)の言葉は分かるかな?」


「全く分かりません、ローマの文字がやっとです」


「異国から来られたんだ、それはそうだろう

 まずはそこから勉強することになりそうだね」


「ローマよりそちらの方が医術は発達しているのですか?」


「そうとも言えるしそうでもないところもある

 ただし大きな基盤としてはグラエキアの方が研究されていたと言えるだろう

 マツオの国で行われていた治療との差を教えて貰いたいんだが先ずはこちらのことも知ってもらわないといけないからね」


「大変そうですけど頑張ります」


「あとで文字と読み方を書いたものを持たせますよ」


「ありがとうございます」



 このときはローマの言葉とそんなに変わらないだろうと安直な考えで居たが記号のような文字と単語の聞き取り辛さでウンザリすることになるとは夢にも思っていなかった



「あと手紙の返信はギリギリ間に合ったよ、でも手の施しようがないということは皆も分かっていたがなんとか食慈で数ヶ月くらいは延びたと思えばマツオと出会えて良かったと思うよ、これからも宜しく頼むよ」


「力足らずですみませんでした」


「良いんだ、今日も見させてもらうからね」


「はい」



 今回も参加しているファミリアが多くメディケもとても多い、連続して雪崩込んできてもどうにか出来そうな程だ



「2人来ます、2人共全身に打撲あります

 1人は刺突で右腋窩を乳頭の高さで負傷、一部神経損傷と骨折、最悪血気胸を疑われます

 もう1人は盾で顎を突き上げられています、口腔内裂傷、下顎骨骨折、歯根破折の可能性があります」



 ガレノスの話の終わりでマシュアルが伝えてきた



「彼は?」


「弟子のマシュアルです、1年間の出張中に怪我の治療が可能なように仕込んであります

 薬は私はここの植生が分からず教えられないのでソテリオウスのところで学ぶように手筈を整えてあります」


「ほう、観察眼も素晴らしいしリスク対応が出来る報告だね

 ここのメディケはどう対応するかね?」


「どうでしょうね〜」


「個人的には裂傷の患者は出血も少ないので軽症だと思います

 顎をやられた方は気を失ったので出血からの気道確保が大変になると考えます」


「ほほ、こりゃぁいい

 いい弟子を持ったね」


「そうですね、自慢の弟子ですよ

 どちらも見せてもらえるように聞いてこないとね」


「はい!聞いてきます」



 今回は左右の登場口でファミリアが分かれているので真ん中に衝立があるが有って無いような物だ

 マシュアルは準備をし始めたメディケに確認を取りに行って戻ってきた



「顎を叩かれた方のメディケは1人なので助けが必要だそうです」


「ではガレノスさん行きますか?」


「そうだね」


「手伝います」


「ありがとう…ございます?え?ええええ?」



 ガレノスを見てメディケは驚きつつも慄いていた


 緊張して固まっている間に顎下をパンパンに腫らした赤茶の長髪のレティアリウスが担ぎ込まれた

 呼吸はしているが意識はない、胸に耳を当てるが水が入ったような音は聞こえない

 顎下に10センチ程のパックリ横割れの裂創、唇を下げると下の前歯がズレているし噛み合わせもズレており開口し辛い



「見立ては?」



 後ろからガレノスが聞いてきた



「下顎骨骨折、歯根破折、内出血が溜まってきています

 窒息しないように外に出したいですね、腫れの位置からしても下の右奥歯の粘膜を切開して細い銅管を刺します

 後は下顎を整復して顎下縫い合わせて横向き待機ですね」


「間違いないね、やってください」



 固まっていたメディケさんもいつの間にか回復して患者を見ている



「このまま整復じゃダメですか?」


「窒息の危険性はどうしますか?」


「その時はその時です」



 使い捨てという風にも受け取れてしまうがそれはそれで仕方ない



「では対処方法を決めておきましょう、もし窒息した場合どうしますか?」


「そのままです」



 まさかの返答で少し思考が止まってしまった



「何故?」


「死んだらその分の返金が有るんですよ」


「お金が貰えれば助かる人を殺していいんですか?」


「そういうことじゃない」


「そうですか、じゃあ治しましょう、マシュアル道具を」


「はい!」


「見ておけよ」



 腐ったメディケを睨むように挑発した


 患者を一旦左向きにして右奥歯を見やすい位置に持ってくると口の中を確認するとかなり血が溜まってきているようにみえるが中々に見え辛い



「カンテラもくれ」



 カンテラはディニトリアスに構造を教えて作って貰った特注品だ

 オリーブオイルから飛び出した麻紐に火を付けると光が集中して口の中が見える、ディニトリアスが叩いて形を作ったこともあり無影灯のような光の集まり方をする、とてもキレイだ



「メス」



 右奥歯の歯茎を切開し細い銅管を突っ込んで反対向きに顔を回すとポタポタと血が流れてくる

 細い銅板を叩いて上の歯のアーチに合わせて曲げ、奥歯に引っ掛けるように固定したら歯間に糸を入れて歯の矯正のようにしっかりと固定させる

 下の歯もマシュアルに顎を支えさせて徒手矯正させた後で銅板を曲げて糸で歯に固定、最後に銅板同士に糸を掛け左右2箇所ずつ糸でキッチリ引っ張り合わせて固定した

 ちょっと歯根は折れている物や曲がっていた歯もついでに矯正するように糸を掛けて良い形に固定してある


 意外とスムーズに出来たのであっという間に終わってしまった


 あとは顎の下の裂傷を洗ってから髪の毛で縫い合わせて終了だ



「歯茎に刺した銅管は明日の昼頃に抜けばいい

 口の中はうがいさせて清潔に保て

 30日間口の中の固定は外すな、飲み物は飲めるから栄養のある物を擦って飲ませろ、顎が折れてるから咀嚼は出来ない

 固定を外して20日は固いものは食わせるな、柔らかく煮込んだものだけ食わせろ

 その後は固いものを慣らさせろ、今までの乱れた歯列は矯正したから半年後は今より力が出るようになっているかもしれないな

 あと、銅板と銅管の代金は貰うぞ」


「はい」



 メディケには一切の手を出させずやってしまった、命を軽んじる医療者には腹が立ったことがきっかけだが金を出す主催者もどうかと思う



「マシュアル手を洗うぞ、カンテラは消しておこう」


「はい」



 イライラしながら手を洗っているとガレノスが来た



「銅板で歯を固定するやり方は初めて見ました

 中々に面白い事を考えますね」


「国ではもっと歯の形に合わせやすいものがありますけど銅板でも十分でした

 顎の形を治すよりも噛み合わせを治した方が力は出しやすいですからね」


「なるほど〜

 ちょっと考えておきます」



 なにやらブツブツと呟きながら地面を見たり天を仰いだりとせわしなく考え事をしているガレノスは前を見ておらず盛大に転んだことでイライラが吹き飛んだ


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