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敗残兵、剣闘士になる  作者: しろち
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敗残兵、剣闘士になる 097 最強


「民よ、剣闘士達よ

 今ローマは先帝の喪に服しているが、ゲルマンの侵略は苛烈さを増すばかりで止まることを知らぬ

 しかし戦線の兵士達は先帝である戦神の加護を得て勢いに乗っている

 今年中、いや半年で勝利を掴むことをここに約束しよう」


「「「うおおおおおおおおお!」」」


「剣闘士達よ、ローマの強さを示してみよ!」


「「「皇帝陛下バンザイ!命を賭して敬意を捧げます」」」



 閲覧席の中央で立つムキムキマッチョでヒゲモジャの皇帝コンモドゥスがそこに居た


 何故?ここに?



「楽しみにしているぞ」



 コンモドゥスはニヤッと笑ってドカッと椅子に腰掛けた


 メディオラヌムのアンフィテアトルム(円形闘技場)は闘技場は楕円形で長さ150メートル以上、横も120メートルを超えている

 壁は3メートルくらいで観客席は12か13段あり影が邪魔しないように大きな陽窓が周囲を囲っている、石積みの闘技場だが地下水が豊富らしく大きな地下はないが敷地はとても広い

 そして近くには戦車レースのキルクス場、テアトロという半円形ですり鉢状に観客席のあるオペラ劇場、公共の広い公園というかバザーの出るフォルム、大きな湯屋のテルマエ・エルクリー、商業の中心であるマガッジーノは倉庫兼宿舎兼市場であり今で言えば築地とか豊洲市場のようなものだろうか


 マツオが初めて訪れたローマ帝国屈指の大都会だ、完全に最初はお上りさんだったが恥ずかしいから教えない




 剣闘士達とその関係者達は一度会場から出ると直ぐに鹿数匹と10頭のハイエナ達が闘技場に放たれた


 今日のベスティアリウスはオココだ

 恐らく10頭のハイエナを走りながら射ることだろう、その勇姿を見るべくマシュアルとともにそそくさと治療所に歩を進める


 オココは弓矢だけでなく腰にやや幅広で少し長めの剣鉈を巻き付けさせてある

 弓は弦が切れたら棒としても使えるが動物相手には少し使いづらい、槍が持てれば良いが槍は弓を引くには邪魔になるし短槍では近距離対処が難しい

 グラディウスは斬るというより刺突の武器なので外したら終わり、刀では曲がってしまえば使い物にならない

 鉈なら鈍器としても使用できるが四角い鉈では引っかかってしまうので先の尖ったほぼ七首のような見た目の少し厚みをつけた剣鉈になった、見た目は完全に狩人だ


 動物相手には使っていないがグラディウスで低い位置と飛びかかりに対処する練習だけはみっちり積んであるのでなんとか無事に帰還出来る事を願っている



 治療所はアレラーテと同じくコンクリートベッドの並んでいるだけで垣根の少ない構造になっており額くらいの隙間から闘技場を覗けるようになっていた



「ハイエナ速いな」


「そうですね」



 たった1頭の冬眠明けの痩せ細った鹿は同じく飢えて痩せているハイエナに貪られあっという間に骨まで噛み砕かれ血溜まりだけを残してきえてしまった



 そこに1人、忍び足でオココが登場した

 いつもの弓に矢筒を背に携えて来たが矢の本数が心許なく見える



「マシュアル、オココの矢筒の中の本数見えるか?」


「えぇ、えーっと9本ですね、手に持ってるのと合わせて10本です」



 丁度皇帝陛下の真ん前、中央壁寄りに集っているハイエナに向かって進むオココは30メートルくらいまで近づいたところで弓を引いて1射目を放つ、同時に走りだし更に近づいて2射目を放つ

 遠めからなのでよく見えないが2本とも刺さっているように見える


 付かず離れずの距離を保ちながら囲まれないように走りながら器用に矢を放っていく

 5矢を放ち5本とも刺さっているようだが動けなくなったのは2頭だけでヨタヨタ走るのが2頭ともう1頭は普通に走れている


 なぜだかオココに焦りの色は見えない



「オココ凄いですね」


「そうだな、多分だけどオニシフォロスもカヒームを含めたとしてもオココがファミリアで最強だと思うぞ」


「え?そんなに?」


「ああ、タイミング外すのも上手いけど足の速さと安定した速射の技能も天下一品だ

 それに鉄の鎧を貫通させる強さもあるしな」


「えええ、凄い

どころじゃなかったですね」


「だろ〜、とりあえず見ててやろうぜ」



 喋っている間にも3矢放っていた、まだ矢の刺さっていないハイエナが3頭、矢が刺さったまま動いているのが3頭残ってしまっており残り2本では矢が足りない



「流石に危ないな」



 手に汗握りながら石壁に貼り付いて見ているのを後ろから見られたら少し恥ずかしい


 オココはそれでも冷静に1矢で1頭仕留め、残るは2頭と傷ありの3頭だ


 走りながら狙いを探り矢筒から最後の一矢を引き抜き放った


 1頭を貫通し抜けた矢尻がもう1頭を傷つけたがそこまでだ、矢が刺さっていないハイエナが1頭と矢が刺さったまま動けているのが4頭残っている状況だ


 オココはそれでも弓を持って走る


 途中で力尽きたハイエナの腹から小麦のように伸びている矢を左足で踏みながら右手で矢を抜き取り血のついたままの矢で後ろの手負いのハイエナを1匹撃退


 1頭だけしっかりとオココを付け狙って動けているが3頭はただ動けるだけ、先程矢が横っ腹に貫通したハイエナはかなり動きを制限をされている



「ガアアアアアアア!」



 オココは追ってくる1頭に威嚇の叫びを聞かせるとハイエナはビクッとして一瞬動きを止めた

 腰の剣鉈を引き抜き、走って近付いて上から首を勢いよく薙ぐと首が半分切断されてハイエナは倒れた


 残りの3匹の方へ駆けるとハイエナは逃げる、ただ矢が貫通して動きの鈍っているハイエナは早くは動けず剣鉈を叩きつけられて倒れると腹を裂かれ血濡れの矢を抜かれた


 オココは矢を振って血を落とすと矢を番えて放った

 少し距離があったが後ろからの矢を避けられず1頭が脱落、最後の1頭は走って近寄ったオココに鉈を投げつけられ深々と刺さって息絶えた


 ゆっくりと近付き剣鉈を引き抜き血振りをしつつハイエナの毛で綺麗に拭い落とし腰にしまうとオココは観客に手を振りながら皇帝の前に行った


 一言二言話したあとに月桂冠と巾着袋を下賜われてオココは控室に戻っていった



「オココ凄えな」


「そうですね、普通に剣持って戦えるんじゃないですか?」


「技術的には出来るんだろうけど見た目の細さ通り力負けするんだ」


「そうなんですね」



 オココがマリーカくらい筋肉モリモリだったらどれほどの戦士になっていたか想像もつかないが細いからこその強さもあるように思う

 なんにせよハルゲニスのファミリアで最強はオココに間違いないことは誰もが賛同するところである


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― 新着の感想 ―
[良い点] 百話おめでとうございます
[一言] 近接戦闘のみじゃなく手段を問わない殺し合いならば狩人の方が強いかもね。
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