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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪人

作者: タライ

俺は人間だ。

 地球を侵略してきた宇宙人こと、【モンストロ】。

 人間を殺し、食べて、そして捕虜にしては研究をする。そして、俺は……モンストロの捕虜にされた。

 連れ去られる際に親は殺されて、一緒に連れ去られた弟は俺と同じように体をいじくりまわされたが、俺と違い耐えきることができずに、およそ人間とは思えない容姿となって、死んだ。

 俺の心は……まだ人間だ。

 目の前で倒れているモンストロの首を引きちぎると、研究所のそこいらに赤い血が飛び散る。

 俺の心は…………まだ、人間だ。

 逃げ惑うモンストロに怒りのままに、攻撃を繰り出す。

すりつぶし……引きちぎる。

 俺の心はまだ……………………。

「お前ら! 全員!! ぶち殺してやる!! 家族を返せええええ!」

 目にモンストロの返り血が入ったことで、視界が赤く染まる……そして、自分の手を見る。

 それはおよそ人間の手ではなくなっていて、黒く尖っていた。

 俺は……怪人、人間の心とモンストロの体を持つ……怪人だ。

 



 西暦、四五六〇年。

 【モンストロ】の研究所から逃げ出して、一〇年……。

 誰かが言った、いつかこの戦いは終わるのだろうと。だけど……それは人間側が勝ち取る物ではなく、きっとモンストロの勝利に終わるだろうと。

 特殊機動部隊F、通称F部、それは人間が【モンストロ】を殲滅させるために組織した、怪人のスリーマンセルで組まれた部隊だ。

俺達は今、旧日本列島その首都、旧東京に訪れていた。

 ヘルメットの右耳部分に触れると一瞬だけノイズが走る。

『こちらF1、F2、F3、報告を頼む。どうぞ』

 通信がつながった際のノイズが更に二つ。

『こちらF2、こっちにはモンストロの影は見えないわ~どうぞ~』

『こちらF3、ペケニョ級とノルマル級を仕留めました、しかし奥のほうにグランデ級が一匹見える。どうぞ』

『こちらF1、F3、正確な場所を伝えてくれ、すぐに行く、どうぞ』

『こちらF3、分かった、仮想GPSで信号を送る。どうぞ』

『こちらF2、私もそこに行かなきゃいけませんか? どうぞ』

『こちらF1、当たり前だ、バカ者どうぞ』

『こちらF2~、え~……めんどくさいです。どうぞ~』

『こちらF3、おいバカ女、今度またその貧相な脳みそと同じ事を言ったら、お前の目ん玉日引っこ抜くぞ、どうぞ』

『こちらF2! 誰がバカ女ですって! ちょっと頑固眼鏡そこで待ってなさい! 今すぐにその眼鏡を割りに行ってあげるから! どうぞ!』

『こちらF1、F2、F3無線はお前らの稚拙な会話を本部の方々に披露するための物じゃないぞ、どうぞ』

 月にいる特殊機動部隊、その本部の者達も聞いている通信で、痴話げんかを始めるバカな部下二人を注意してから通信を終了する。

さっそく送られてきたF3の居場所を確認する。

(場所は旧渋谷駅のスクランブル交差点付近か……)

 身体(アー)能力(マー)強化()スーツの上昇強度をレベル三に設定する。

 身体能力強化スーツ……、これは特殊機動部隊Fの者達のみに支給される装備であり、ヘルメット以外の部分が繋がった装備となっている。

この装備の事を一言で表すなら、全身タイツのような代物だ、ただし……この装備は怪人である俺ら専用に作られた特殊な装備だ。

 耐久面はトラック同士の衝突の中心にいても傷一つ追わない設計で、耐久面は完全にクリアしており、マイナス五十度から千二百度までと、耐熱耐寒も完璧だ。

更には伸縮自在でどんな動きをとっても違和感を感じる事がなく。そしてこの装備の何よりの見どころは、上昇強度の機能だろう。

 この装備が怪人専用である理由は、この機能が組み込まれている事が大半の理由だ、その機能とは、怪人の中にある【モンストロ】の血、俺はこれを怪物(かいぶつ)(けつ)と呼んでる。その怪物血を加速させることで身体能力を底上げする、これが普通の人間なら欠陥が引きちぎれて出欠多量で死に至るだろうが……俺や部下達の体はもう普通の人間ではない。

 血流の加速によって、文字通り身体能力のすべてが底上げされる。だが……この身体能力の底上げにはもちろんデメリットもある。それは……怪物化だ。

 先ほど言ったが、怪人の体には怪物血が入っている……そして俺の体は年々、【モンストロ】のようになっていく……原因は明らか、怪物血だ。まだ人間の形を残している部位は、徐々に黒く、そして醜くなっていく。浸蝕が広がって、最後にどうなるかは……俺でも分からない。

 もしかしたら、心は人間のまま体は【モンストロ】になるのかもしれない。

 もしかしたら……心すらも人間でなくなって、ただの【モンストロ】になってしまうのかもれない。だけど……そんなことを気にしていては、【モンストロ】は殺せない。

 俺は家族を殺した【モンストロ】が憎くて仕方ない、だからこそこうして今も地球に来ては【モンストロ】を駆除している。そして……今回のグランデ級も……。

「今行くぞ……待っていろ。グランデ級」

 自分の現在地点を確認するために今度はヘルメットの左耳部分に触れる。

 現在地点は……、旧大宮か。

「走って一〇分だな……レベル三で一〇分間か……、また怪物化が進むな」

 憂鬱な気持ちになりながらも、足に力を入れて……踏み込む。

 地面を蹴って、一歩を踏み出す、また一歩を踏みだして、一歩一歩一歩、と走る。

「こりゃ……四分もいらないかもな」

 旧大宮を抜けて、旧赤羽、旧池袋、旧湘南新宿ラインの線路を走っていく、視界の端に見える崩壊した街並み……。

 旧新宿…そして、旧渋谷。

「良し、着いたな」

 身体能力強化スーツの上昇強度を解除しながら、辺りを見回して、ヘルメットを外したい気持ちになまされるが、今はまだ任務中だ我慢しよう。

 まったく、身体能力強化スーツのヘルメットは便利ではあるが……苦手だ、ただでさえテンパだというのに、ヘルメットを着けていると蒸れて仕方ない。

 旧渋谷駅から出てスクランブル交差点の付近まで行く。

 すると駅の入り口を出た背後から声がかかる。

「F1、ここです」

「F3、敵は?」

「はい、今も監視を続けてますが、いまだ動く気配がないです」

「そうか……なら、F2が着き次第、奇襲をかけて殺そう」

 ヘルメットをかぶりなおして、太ももの部位に設置された銃脚ホルスターに手を伸ばして、高熱圧(レーザー)(ガン)を取り出す。

 今更だが、俺達F部隊は、本名を隠すためにコードネームで呼び合っている。


 十分ほど時間が経つが……いまだF2の姿が見えない。

遅い! 遅すぎる!

俺がそろそろ、F2に通信しようと思ったその時、付近のビルが崩壊する音が聞こえた。

「モンストロか!」

 俺はすぐに、高熱圧銃を構えて、撃つ。

「F2~ただいま着きました~ってうわっあっぶな! 何すんじゃボケェ!」

「なんだF2か、遅かったじゃないか、何してたんだ?」

「何してたんだ? じゃないでしょ! 謝って! この私に危うく高熱圧銃を当てそうになったことを謝って!」

「あぁ、すまないと思ってる、んで何してたら十分もかかるか説明してもらるか?」

「簡素……あまりにも簡素、ひどいですよぉ、いくらF部隊の隊長だからって」

「隊長かどうかなんて関係ない、いいから説明しろ」

「いやぁ、私は旧中目黒にいたのですが、迷子になっちゃって~、それと筋肉痛になるのが嫌だったので、身体能力強化スーツの上昇強度をレベル一にしてきたんですよ」

「お前、それじゃ昔の車と同じくらいの速度でしか走れないだろ」

「いやぁ、女の子なので、筋肉が付き過ぎると嫌なんですよ」

 後頭部で手を交差させて軽い足取りで向かってくるF2にF3が近づいていく。

「このバカッ! お前の遅れは作戦の遅れなんだぞ!」

 F3がF2をおもいきり殴る。もちろんF2が黙っているはずもなく。

「何すんのよ!」

「規律を守りたがらないバカを叱ったんだよ!」

「迷子になってたんたんだから仕方ないじゃない!!」

「ヘルメットのパネルに地図があるだろうが!」

「モンストロが辺り一帯を壊したりするせいで、地図なんて役に立たないわよ!」

 隊長の俺を間に挟んで喧嘩を始めた馬鹿どもに、俺の拳が鉄槌を下す。

 お互い殴られた箇所押さえながら、二人して俺のほうを見てくる。

「「何するんですか!」」

「敵が目の前にいるのに、喧嘩を始めたバカ者どもを止めてあげたんだ。集中しろ」

 俺が部下二人にそう言いうと、二人とも俺の後方を指さして。俺も後ろを振り向く。

「F2」

「はい……」

「お前は、今日夕飯抜きな」

「すみません」

 おそらく先ほど、F2が大きな物音を出しながら登場したせいで……、奥のほうにいたグランデ級の【モンストロ】がこちらに四足で駆けてきていた。しかし、向かってくる【モンストロ】のサイズに違和感を覚える。

「おい、あれ本当にグランデ級か?」

【モンストロ】は周りの景色を踏み倒しながらこちらに向かってくる……。そう、“踏み倒しながら”だ。

 グランデ級はせいぜい三〇メートルほどの大きさの物しかいないのに、倒れた高層ビルを物ともせずにこちらに向かってくる。

「ねぇ、頑固眼鏡、あんたちゃんと見たの?」

「頑固眼鏡って呼ぶな、見たよ。ちゃんと見た」

F2とF3は、怪人としてはまだ新米。怪人になると、身体的能力が大幅に上がる。

 視力も上がり、反射神経も上がる。そしてもともと視力が悪かったF3は物の見方が他の者よりも多少なりとも違ったのだろう……そのわずかなずれが、とんでもない判断ミスを犯した。

「F2、F3……覚悟を決めろ、俺達はこれからヒガンテスコ級と対敵する」

 俺は憎き【モンストロ】を睨み上げ、武器を手に立ち向かった。


【モンストロ】には階級がある。

小型・ペケニョ級、中型・ノルマル級、大型・グランデ級、超大型・ヒガンテスコ級、更に上にもう一つ上の階級、特殊型・ロコス級、小型、中型、大型、超大型が知識を持たない怪物だとしたら、その【モンストロ】の長と呼ぶべき者は何匹かいる特殊型、特殊型は他の【モンストロ】と違いタイプがある、戦闘タイプ、知力タイプ、統率タイプ。そして一番厄介なのは、統率タイプだ。


 武器を手に取り、ヒガンテスコ級と対峙する、その大きさはまさに山……、絶望的なまでのその巨大な敵に俺達は迷うことなく戦いを挑む。

 全員が上昇限度を最大のレベル五まで上げて、まず最初に回避する。

 ヘルメットの右耳部分に触れて、通信を行う。

『こちらF1、F2! F3! あのデカブツの背中に生えた森が見えるかっ? どうぞ』

『こちらF2、はい! 見えますとても綺麗な桜です! どうぞ』

『こちらF3、このバカ女! 今はそんな余計なものを見なくてもいい! どうぞ!』

『こちらF2、なんですって! この視界零眼鏡! どうぞ!!』

『こちらF2、誰の視界が零だと! どうぞ!!!』

『こちらF1、そこまでだ! このバカ者どもが! いいかヒガンテスコ級は図体のわりに基本的な動きは遅い、だけど他の【モンストロ】と比べて体を再生させる速度が速い————』

 俺は、ビルの瓦礫に隠れて移動しながら、部下達に速攻で考えた作戦を伝える。

『————そして、あのデカブツの再生能力を底上げしているのは、背中に生えた森だ! 光合成をすることによって、そのエネルギーをそのまま再生のエネルギーに変換している。だからまずはあの森を焼き尽くせ!』

『『了解!!』』

 俺は、高熱圧銃を取り出して、地面を蹴ってジャンプしながら、ヒガンテスコ級の背中に綺麗に咲いた桜に向かって、引き金を引く。


『グヌオオオオオオオ』


 部下達も同じように森に高熱圧銃を直撃させることに成功して、あっという間に山火事になる。神経そのものが背中に生えた木々一本一本とつながっているであろうヒガンテスコ級は、苦しみの雄たけびを上げながら、辺り一帯を暴れて壊す。

 もちろん、そんなあてずっぽな攻撃に、当たる程やわな訓練をしているF部隊ではない、攻撃を軽くいなして、避けて、隙があればまだ燃え広がってない箇所に高熱圧銃を撃ち込む。

 背中の火事が完全に広がって、数分……、ヒガンテスコ級が倒れて動かなくなる。

『とどめをさせ! 頭を一斉に撃て!』

 俺がひと際強く地面を蹴って、空中へと跳ぶ、するとF2とF3も同様に跳ぶのが見える。そして、三人が三人とも……ヒガンテスコの頭にめがけて高熱圧銃の引き金を引く。


【グオオオオオオ】


 ヒガンテスコ級がひと際大きな雄たけびを上げたと思ったら、それ以降……動かなくなる。

『こちらF1、本部への報告、たったいまヒガンテスコ級の討伐に成功しました、今日の討伐ノルマも達成しております、帰還の許可を、どうぞ』

『こちら本部、不知火だ。F部隊の帰還を許可する。よくやったな。通信を終了する』

 本部への報告と、帰還の許可をもらい、後は……そう帰るだけだ。

 その後、F2、F3と合流する。

「いやぁ~、ヒガンテスコ級、意外とあっけなかったですね」

 F2が、背伸びをしながら言う。

「確かにもう後は帰るだけ、はぁどうなるかと思いましたよ……」

 F3が、安堵の息を漏らしながらそう言う。

「よし、んじゃ転移装置のある旧銀座に行くか」

 二人が、俺の提案に同時に返事をして、俺が一歩足を前に進めた瞬間、目の前の瓦礫に何かが当たって破裂する。

 当たった物をを見ると……F3の上半身だった。

「F3!!」

「ごふ……、F1、に……げ…‥‥」

 それ以上F3が声を出すことはなく、死んだ。

「いやぁあああ、放してええええ」

 俺はF2の声に反応してすぐに後ろを見る。

 F2は、ヘルメットを外されており、その顔が悲痛に歪んでいるのが分かる。

 F2の髪の毛を掴むのは、全身が黒く、手足が尖っており、背中に羽根が生えている【モンストロ】だ。そして……この【モンストロ】を俺は知っている。

「お前は…‥‥、あの研究所にいた。統率タイプのロコス級」

「やぁやぁ、久しぶりだね、えーっと、F1だっけ? やっと君と話せるよ。十年前はまだこの国の言語を覚えている最中だったからね~」

「俺の部下を離せ」

 俺は、ロコス級を睨み、高熱圧銃を構える。

「ん? この出来損ないをかい? 冗談もきついよ」

 ロコス級はF2の腕を掴むと、そのまま力を入れる。

「いだい! やだやだ、あー! 助けてぇ! F1!」

「今助けてやる!」

 俺は、すぐに駆け出して、高熱圧銃でロコス級の肩を撃ち抜く……が、ロコス級の肩にできた穴が瞬時に直る。

「効かないね、じゃあ、バイバイして」

「やめろぉおお」

「いやああああっ……ぐふっ……」

 F2は、ロコス級に首を引きちぎられる……まさに十年前、俺がこのロコス級の仲間を殺したときと同じように……。

「あ……あぁ……あっぁあああああ」

「じゃあ、僕はもういくね、またね僕の最高傑作君」

「待ちやがれ! お前をここで殺しぐっ」

 俺が、逃げようとするロコス級に高熱圧銃の銃口を向けた瞬間に、右腕と左足を掴まれる。そのまま、力を入れられて、骨の折れる音が脳内にまで響く

「ぐぁあああ」

「ほい」

 そして、近くの瓦礫に思い切り投げつけられる。またも骨の折れる痛みがする。こんどはあばらだ……。消えゆく意識の中で、見えたのは、部下二人の死骸と……にやけ面で灰色の空へと消えていく、ロコス級の姿だった。


 しばらくして、意識が戻る……、右腕と左足、あばらの痛みが完全になくなっていて、怪人特有の自然治癒の速度に感謝する。白い天井が見えて、ベットから起き上がる。体中に付けられた点滴などを外していると……。

「目が覚めたか」

 すぐ隣から声がした、声のしたほうを振り向くと、そこには研究着に身を包んだ銀髪眼鏡の青年、不知火がいた。

 不知火は、この月に建てられた本部の最高責任者の一人であり、指折りの研究者でもある。

 【モンストロ】に捕虜として捕まっていた人間で無事逃げ延びたのは、俺だけだったようで、不知火は俺の血を研究して、様々な武器や防具を制作した。

 身体能力強化スーツもその一つだ。

 そんな不知火が、怪訝そうな表情を向けてきて。

「もう、体は大丈夫そうだな」

「あぁ、骨折してたみたいだけど、もう全部治ったようだ」

「怪人……だからか」

「あぁ」

 俺は自分の体を黒い部分がより広くなった怪人の手で触る。

「不知火……俺は後、何回戦えるんだろうな?」

 俺の質問に、顔をうつむかせて、黙ってしまう不知火。

「不知火……、俺の身体能力強化スーツはどこにある?」

俺が、不知火にそう言うと、不知火は目を反らす。

「それを聞いて、どうするつもりだ?」

「ロコス級を殺しに行く」

「やめとけ……、お前の体はもう……」

 不知火が、心配そうに俺の体を見てくる。

 右手、左のわき腹から右の胸、そして折れていた左腕部分と右足の部分が、黒く醜い容姿に変わっていた。

「それでも……」

 俺は下を向いて、ベットのシーツを握る。

「部下の仇討ちとかでも考えてるのか?」

 俺は不知火の言葉に黙り込む。

「今までにも、何人も死んだ……あの二人だけが特別という訳ではない……お前だってそれは分かってるだろ?」

 不知火の言う通りだ……俺の血をもとに、何人もの人口怪人を生み出して戦ってきたが……今までに1月も持ったやつはいなかった。

 だけど……そんなことは分かっている。

 分かっているが……俺は……どうしてもあいつが許せない。

 俺は不知火の目を真っ直ぐと見据えて……。

「違う……モンストロは滅ぼすべきだ」

 きっと俺は今、悲痛な顔になってるのだろう。そんな俺の顔を見た不知火が何か覚悟を決めた顔をすると。

「どうせ、止めても行くんだろ?」

「あぁ」

 俺が、不知火の問いに答えると、不知火は一枚の紙を俺に渡してくる。

「身体能力強化スーツの場所だ、あとひと月分のレーションや水、野戦糧食も用意している、なるべく早く‥‥…帰って来いよ」

「ありがとう、不知火」

 俺は、ベットから立ち上がって、黒い範囲がより増えた体で走り出した。

 

 

 旧東京についてから、一月が経とうという日に、俺は旧六本木に研究所らしき施設があるのが見えた。

 俺は、上昇強度をレベル五まで上げて、高熱圧銃を持ってその研究所へと殴り込みに入る。

 見張りの【モンストロ】や護衛の【モンストロ】そのすべてを蹴散らして……、しばらく暴れていたら。

 やつが現れた……。

「やぁやぁ困るね~、そんなことされると……」

「やっと出てきたか、お前を殺してやる!」

「この前それが無理だと証明されたばかりじゃないか、ほらお前達やれ」

 ロコス級が手を叩くのと同時に、更に【モンストロ】が増える。

 俺は、かかってくる【モンストロ】すべてを殺していく、そして上昇強度レベル五を長時間使っていたせいかそれとも……すでにかなり浸蝕が進んでいたせいか……。

 身体能力強化スーツを破って、俺の手足が……ロコス級の【モンストロ】のように黒くなり始めた。

「うおおおおおおお」

 殺す……殺す……殺す……殺す…………食べる。

 何かを殴って、血が流れる、今度は何かを踏みつぶして、その頭蓋が弾ける……ソして俺の背中カら、羽根ガ生えて、赤く染まっタ視線の先に見えル、ロコス級ヲ……コロシに行ク。

 ロコス級ハ……トテモ、ウレシソウ…‥ナンデ?

 ワカラナイ……デモ、カンケイナイ、コイツヲコロス……コロス?

 チガウ、コロス、チガウ、タベル……ソウ、タベル、タダシイ。

「あっはははは! そう! それでいい! それでいいんだ! 君は最高傑作だ! そのうち君にも知恵が着くそしたら、その時が! 我らの……ごふっ……進化の、と……き」

 タベタ……コイツ、タベタ……ナンデ?

 ワカラナイ……デモ、コイツ……ナンカ……オイシカッタ。

 アレ? オレハ……ダレ? ナニ? ニンゲン……? チガウ……、オレハ。



 怪物(モンストロ)

 



「バカ野郎……」

 F部隊の制服に身を包んだ不知火が、目頭を押さえている。

 F部隊の支援役の者達が、皆口を押えて、画面に映る映像を見ている。

 そこに映されているのは、ロコス級とほとんど姿が似通った、F1……(さね)見一(みいち)がロコス級を食い殺している瞬間だった。


 F1が消えてから、一ヵ月が経った。

 不知火は、

 F2藤宮二(ふじみやふた)()、F3三上(みかみ)(すぐる)……。

「お前……帰ってくるたんびに言ってたよな、自分はいつまで戦えるんだろうって……」

 F1が、いつも悩ましい顔でそうつぶやいていた事を思い出す、不知火。

「……【モンストロ】を滅ぼすって言う、お前の意思は、俺が受け継いでやるよ、お前のおかげで、人間でも【モンストロ】に立ち向かえる手段ができたんだ、お前はまさに俺達にとっての最高のプレゼントだった。だから俺がお前を……」

 不知火がF1の墓を撫でる。その手は……先が黒く染まっていた。



終わり。


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