町の電気屋さん、町の休憩所
「いよいよオープンかい!!」
「ねえねえ、うちのエアコンつけかえてよ!」
「悪いんだけどこたつ直してくれんかね。」
「初日から大人気だねえ、こりゃあ忙しいぞ!!!」
「柏君、忙しいと思うなら丸岡さんとの対局は中断してこっち手伝ってくれよ!!!」
人が真新しいカウンターで受付表書くのに一生懸命になってる横で、のどかに将棋を指す兄ちゃんとじいちゃんの姿が!!!
「あはは、ごめんごめん!あと六手で王手だからちょっと待ってね!!」
「おい!!わしはまだひっくり返す気満々なんだけど?!」
少々ドタバタしたものの、俺はようやく、町の電気屋さんをオープンすることができたのである。
「ごめーん、お兄ちゃん、いるー?電気切れちゃった、直しに来てー!!!」
「いまーす!!準備するからちょっと待ってー!!」
町の電気屋さんは、近隣住民に愛されるお店になった。
ほんのちょっとした困りごとにもすぐに駆け付ける、近所の便利屋さん的位置にすっぽりと入り込むことができたのだ。
例えば、天井のライトが点滅するようになったから変えるとか。
例えば、いきなりトースターが動かなくなったから直してほしいとか。
例えば、お風呂のお湯が沸かなくなったから何とかしてだとか。
例えば、テレビが付かなくなったからどうにかしてだとか。
コンセントが抜けてたり、電池が反対に入っていたり。
本格的にぶっ壊れていたり、直すことができたり、直せず買い替えることになったり。
自転車でちょっと行ってサクッと直せるものはお金を取らずに笑顔だけもらって帰ることにした。
俺が事業主なんだ、俺のやりたいように金は取るってね。別にもらわなくたっていいんだ。
俺はこういう仕事がしたかったんだってね。
もちろん、作業代金がかかるものはちゃんと説明をして、それなりに支払いをお願いするけどさ。
わりと、新しい洗濯機とか乾燥機とかエアコンとか、買ってくれる人もいてさ。
たまに、業者から手伝いの依頼が入って一日仕事になるような日もあったりしてさ。
なんというか、実にこう、のんびりしつつもたまに忙しく、いい感じに、時間が流れていく日々が、続いたんだな。
なんというか、実にこう、のんびりしつつもたまに忙しく、いい感じに、時間が流れていく日々が、続いているんだな。
なんというか、実にこう、のんびりしつつもたまに忙しく、いい感じに、時間が流れていく日々が、続いていくに違いないんだな。
いつの間にか、時間ってのは、過ぎていたんだな。
町の住人が減って、増えて。
町の住人が減って、増えて。
町の住人が減って、増えて、増えて。
町の住人が減って、増えて、増えて、増えて。
町の住人が減って、増えて、増えて、増えて、増えて。
そんなこんなを繰り返して。
少しづつ、町が若返ってきて。
気が付けば、ひっそりとしていた裏通りが、やけにモダンなストリートになっていたりしてさ。
気が付けば、ひっそりとしていた裏通りが、やけに観光客があふれるようになっていたりしてさ。
何度か、テレビ取材されてさ。
近所のクレープ屋も、貸本屋も、着物レンタル屋も、書きもの工房も、画廊も、豆腐屋も、おにぎり屋も、八百屋も、焼き芋屋も、居酒屋も、総菜屋も、手もみ処も、もちろん町の集会所も、俺の電気屋も、全部全部取材されては話題を呼び、どんどん注目を集めるようになってさ。
「今度神社で夏まつりやろうと思うんだ。つぎの町内会会議で発表するつもりでさあ、まあ、初の試みなんだけど、電飾頼んでもいい?」
「ああそうなんだ、いいねぇ、はりきってやらせてもらうよ……王手!!!」
「うわ!!ま、まったあああ!!!」
「はい、ダメダメ!参りましたと、言え!!!」
頭を抱える、柏君。
……いやあ、ずいぶん、気の抜けた姿をさらすようになってきた。人というものは、ずいぶん、慣れ親しむと、……はは、おもしろいもんだ。初めて会った頃はずいぶん畏まっていたのに、今ではこんなにも気を許して、……無様な姿を俺の前で披露している。
「うう、参りました……。」
「ハハハ!!これで俺の254勝266敗だな!!!」
あと12回勝てば、俺はこの町内で最強の将棋指しになれる!うおお、俺は将棋王になるんだ!!!
「あっ!!パパやっぱりここにいた!!!もう、間瀬さんちに行く時間だよ!!道具持ってきたから早く行ってあげて!!!」
町の休憩所に、甲高い声が響き渡った。掘りごたつのおばさまがたが一斉に声のする方を向く。俺と柏君も、土間のテーブルの上の将棋版から目を声のする方向に向け……うわ!
「ちょ!!ママ重いもん持つな!!怖い!!電話しろって言ってるのに!!」
「わあ!!ゆきちゃん何重いもん持ってんの!!!もう産み月なんでしょ?!宮下君ヒドイ!!!妊婦さん働かせるなんて!!!」
「大丈夫よ!!!むしろ動けって言われてるし!!!」
俺も、いつの間にか……二児の、父親だ。まあ、二人目は、まだ出てきてないけどさ。
「わかった、わかった!今すぐ行ってくるから、ちょっと掘りごたつで休んでから帰んなさい、良いね?!」
やけに元気はつらつな俺の嫁はだな、一人目の時も出産前日まで配達をしてて実に俺を慌てさせてだな!
「はいはい。行ってらっしゃい!」
「ゆきちゃーん、お稲荷さんあるけど、食べる?」
「その顔はたぶん明日生まれるね、うん、安産だから安心しなさい!」
「ええー、ホントー?!じゃあおなかいっぱい食べちゃお!!!」
「ちょ!体重増えたって先週怒られたばっかだろ!やめとけ!」
「明日産んだら三キロ減るからだいじょーぶだよ!」
「お茶入れるから、上がって上がって!!!宮下君は早く仕事行きなさい!!ちゃんと見とくから!」
「うぐぐ、なんかあったら電話してくれよ?!行って来ます!!」
「「「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」」」
この町の住人が一人増えるのは、もう間もなくだ。
新しく町の住民になる子供を、この町のみんなはきっと笑顔で迎え入れてくれるに違いない。今もこの町のどこかの家に上がり込んでおやつをもらっているであろう、うちの坊主と同じように……温かく見守ってくれるに違いないのだ。
町の休憩所の玄関をくぐる俺の耳に、楽しそうな声が聞こえてくる。
「ねーねー、もう名前決めた?」
「うふふ、ないしょ!!」
「ちょっとー、せめて男か女かだけでも!」
「いやあ、その顔つきは、女の子だね!」
「今んとこ男の子優勢なんだけどなあ。」
「僕は女の子にふた握りほど。」
……まーた人んちの子どもで賭け事してるな!!!
一言モノ申したいが、大切なお客さんを待たせてしまっては店の沽券にかかわる!間瀬さんちに行った後、全員に説教だな!!!一刻も早く作業を終わらせて、みっちり指導だ!
俺は、騒がしい町の休憩所をあとにし、仕事道具を抱えて愛用の自転車に飛び乗り!
町の電気屋の到着を心待ちにしているお客様の元へと、急いだのであった。




