兵士の誓い
ナオはすかさず私をかばおうと両手を広げ、ロシア人と私の間に割って入った。
「あんたなんかにリンを渡さない。リンを狙うなら、私を連れて行って。」
「ああ、お前も悪くはねえ。いい女だ」
ナオの髪を指でなぞり、胸に軽く触れた。
「そうだな、2人まとめても悪くない。」
「いいぜ女。その度胸気に入った。」
「だがー」
ホルスターから拳銃を取り出し、近くの生徒へ向けた。
「言ったよな。俺らに従え。反抗すれば一人ずつ殺すって」
一発の凶弾は発射され、その生徒は床に崩れ落ちる。
「約束は守らないとな」
ナオは歯ぎしりは立て、悔しさで涙もでなかった
「さあ、行こうか。時間は早ければ早いほど良い。」
「どこへ連れていくの。」
ふん、軽く笑ったこのロシア人は続けて言う。
「お前の親父の遺産だよ」
「私の父親…?」
「話はあとだ。おい、お前らこの小娘二人を車に乗せろ。」
「ハッ!」
「わっ、なに」
目の前が突如真っ暗になった。
「目隠しさ。」
「居場所を突き止められてもかなわないのでな。」
ナオと私は目隠しをさせられた。手を武装集団の男に引っ張られながら廊下を歩く。
暗闇の中で、様々な教室から聞こえてくる悲鳴を聞いて歩いた。
痛い、痛い、痛い。
ひいいいいいい
この学校に流れている空気は絶望そのものだった。
学校が占拠されてから何時間立っているのだろうか。
1・2時間は立っているのに。
一向に警察が来る気配がない。
パトカーのサイレンはおろか、一人の警察官も駆けつけていないのだろう。
誰一人、武装集団は危機感を感じていなかった。
廊下の窓から差し込む太陽の光が今では痛く感じるほどに気分は最悪なものであった。
その太陽光は一瞬感じられなくなった。影ができたのだろう。
でもおかしい。この学校の廊下にカーテンなどついていない。
では木々だろうか。この学校の廊下側に木があるが、三階にいる私たちに影を与えるほど大きくはない。
無論、この影は生きている。
「なにっ!」
私たちの手を放し、迫りくるそれに、兵士たちは応戦しようとしていた。
だがそのスピードの差はそれの方が上回っていたのだろう。
二発の銃声と共にガラスが割れて、兵士も打ち抜いていた。
真っ暗で状況がつかめないでいた私たちは動揺を隠せないでいた。
それは、私たちの手を締め付けている縄を解き、目隠しを外す。
そこにいたのは一人の少年だった。
俺は必死だった。ずっとずっと遠くにいる父の背中を追いかけていた。
父、織原兼成は偉大な人だ。
俺の父であることが誇らしいと感じられるほどの偉大な父だ。
父は今となっては旧名となった自衛隊の隊員で、特殊作戦群に所属していた。
父がどのような仕事をしていたのかは、全く知らされていない。
一度、
父に聞いたことがある。
「お父さん、お父さんってどんな任務をこなしているの?銃をバンバン撃ったりするの?」
13年前の話だ。
俺が五歳のころ、他の子のお父さんたちの様に毎日会えるわけではなかった。それをふと知った時寂しく感じて、家に3週間ぶりに父が帰ってきたときの夜思い切って何をしているのかを聞いた。
父は少し遠い目をしていた。
俺を見ているが見ていない。俺の先を案じているようだった。
「トオル、いいかい。」
「俺がやっている仕事は、この国にとって大変な事態になった時に最後の手段として使われるところで働いているんだ。」
「簡単に教えられるような仕事内容ではないんだよ。」
「一つ言うとすれば、そうだなー」
「人を守る、かっちょいい仕事だよ」
当時五歳だった俺は、戦隊モノにあこがれていた。
つまり正義の味方になりたかった。
悪を挫き、正を成す。人の役に立つそんな仕事に強いあこがれを感じていた。
そのあこがれたヒーローを、父が務めている。
それを知った途端に、いつしか父を目指すことを生きる目的としていた。
父のようになりたいと思った俺は、父に
「え?俺のようになりたい?」
「そう!お父さんのようになりたい!お父さんみたいに強くなって、人の役に立ちたい!」
「別に、お父さんの仕事を継がなくたって、いろんな方法で人を守ることができるんだぞ?」
「嫌!俺はお父さんを目指すって決めたんだ!」
五歳児からの熱いまなざし、熱い気持ちを向けられた父は、少しにやけていた。
「それじゃあ、これからきつい訓練が始まるが、ついてこれるか。」
「うん!」
俺は父とマンツーマンで五歳から、いわゆる戦闘訓練を開始した。
五歳から、小学校六年生までは、人を生かすうえで大切な、止血方法、人を最低限で運搬する方法、担架の作り方などの応急手当の方法。
天候の見方、雲の形から推測する天気予報や、コンパスの見方、テントの張り方、火の起こし方などのアウトドア。
母と三人で楽しみながらに学んでいた。
いつカッコいい戦闘の技術を教えてくれるのだろうと、紋々としていた時もあった。
が、いつの間にかそれも忘れて、父と母と三人であっちこっちを旅し、自然と戯れ、一緒に過ごしていた日々を謳歌していた。
中学生になった時、戦争が始まった。
父はある日、俺を車に乗せて、山奥へと連れて行った。
いつものように笑いながらためになる知識を教えていた父であったが、この日は目の色が変わっていた。
「トオル、お前は一人の軍人になる覚悟はあるか。」
「父さん?状況がつかめないよ、どうしたの急に。」
「お前は、もう忘れたのか。」
「五歳の時俺に、こう言ったな、俺になりたいんだと」
「そ、それは小さい時の話で、俺ほら、戦隊モノあこがれてたじゃんあのとき!」
バチン!鋭い平手内が飛ぶ。
「なにすんのさ!別に悪いことなんてしていないだろう!」
「戦争がはじまったんだ」
「は?それとこれとなんの関係が。」
「お前が戦える軍人にならなければ、母を守れないだろう。」
「いやいや、確かに家族を守れるほど強くなって損はないけど、父さんがいるし」
父は胸倉をつかみ、今までに聞いたことのない怒声を発した。
「それでも、俺の息子か!見損なったぞ!」
「だから!そんなことを言われる理由がわかんねえし、父さんこそ一人勝手にキレて頭いってんじゃねえのか」
言ってはいけない。これだけは言っちゃいけないそう思いつつも発してしまった。
「そうか、あの時の宣言はうそだったんだな」
「なら好きにすればいい。だが最後に言っておく」
「俺は日本防衛陸軍特殊作戦群所属である。そして昨日。他の隊員の班に作戦命令が下った。この意味がわかるか。」
わかる。俺は必死に自衛隊について書かれた本を小さい時に読み漁っていた。
特殊作戦群、それは対ゲリラ戦や、人質を救出とした作戦。
正規軍が苦手とする作戦を主に担当する。となれば、特殊作戦群が実践投入されるということは、ついに我が国で、ゲリラ攻撃が始まるということだ。
戦争が目の前に迫っていた。
連日の戦果報告をニュースで聞いていたが、どうやら怪しくなってきたようではあった。
でもそれは遠い国での出来事のように感じ、楽観していた自分がそこにはいた。
「戦争がすぐ目の前まで来ている…」
「そうだ。奴らの戦法非常に極悪だ。」
「民間人になりすまし、街中で攻撃を仕掛けるケースも少なくない。」
「ゲリラというものはそういうものだ。コンクリートジャングルのこの日本で、最適な攻略法とも言えるだろう。」
「話をもどそう」
「現状を把握してくれたか。これから、多くの敵がこの首都東京を目指してやってくる。すでに多くの敵が潜伏しているんだ。」
「その情報を基に俺たちの部隊は殲滅へと向かうがこれが成功するかはわからない。」
「万が一、俺が死んでしまった場合、母さんを守れるのは、お前しかいないんだ。」
「ともに家族を守るために戦ってくれるか。」
馬鹿だった。俺はなにを目指していたのか。
父さんは英雄だ。
こんな父さんを俺は目指したのだ。言う言葉は決まっている。
「もちろん、俺は父さんを超える。父さんを超えて多くの人救ってやる。」
父さんは、俺の頭にベレー帽を被せて、大きく息を吸って宣言をする。
「織原トオル、お前を兵士とする。」
「はい!」
この日から、俺は兵士になった。
特殊作戦群って調べたらとんでもなくすごい訓練してるんですねびっくり。