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少年義勇兵と女子高生  作者: 龍騎兵
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悪夢の扉のノック

「ねえ、お父さん今日は早く帰ってくるの?」

「ん~わかんねえな」

朝ご飯の味噌汁をずずずっと吸いながら父は言った。

私はお父さんと二人暮らし、東京の世田谷区に住んでてて、一軒家に住んでる。よく高校では友達にお金持ちと言われるけど割と普通。

でも二人で死ぬには少し大きすぎる家だと思う。

これがお金持ちだと思われるのか。

「じゃあ、また家で!」

父と下北沢駅でお別れし、私は自転車で20分漕ぎ登校する。

あの二年前の事件以降私は、精神的ショックを受けてしまい、一時的に二年前の記憶と両親との記憶、友達との記憶を失っていた。

それを受けて、心配した父は少し過保護気味になり、小さい子のように接してくる。

少しうざいと思った時もあるが、愛はしっかり感じている。

記憶の方は、今はかなり回復し、当時のことを思い出すことも可能になったが、細部までははっきりと覚えておらず、あいまいなままだ。

二年前のあの事件、私は友達リカを目の前で失ったショックで気を失ってしまい倒れていたらしい。ニュースではあの事件は、日本人の単独犯による犯行として捜査が進められていると報道されていた。

二年たった今も犯人は捕まっていないという。

死者は893人。日本での事件史上最悪の死者を記録していた。

893人。その中にリカが含まれていると思うとこんなに簡単に数字にまとめられることが悲しくなる。

表参道は壊滅的にダメージを受け、被害総額は2兆円にも及んでいた。

今もなお、表参道は復興支援活動が行われており、少しづつ新しい街として再スタートを切ろうとしていた。

以上がニュースで報道されていた内容であった。

私はいくつかの点に違和感を覚えるもそれを補える確かな記憶がなかった。記憶を失っていたからだ。

私を武装集団から守ってくれたあのスナイパーは誰だったんだろう。と入院中に考えていた。あと、私が倒れる直前、


あの時、だれかと会ったような…


そんな曖昧過ぎるぼやけた記憶が脳裏にちらついていた。


家から下北沢まで10分、下北沢から20分漕いだところに、ここ

「都立世田谷自由高校」がある。

私はここの生徒で今年で二年生。

第三次世界大戦と呼ばれる戦争が始まってから、高校の登校日数が減って寂しいが、割と楽しくやっている。

今は週に三回学校へ行き、授業を受けて帰りに、居酒屋でバイトして、というそれなりに多忙な日々を過ごしている。

父には、バイトをやっていることは内緒にしている。まあバレていそうだけどね。

「よう、おはよう!」

駐輪場に自転車を止め、かごに入れていたカバンを手に取ったとき、親友が話しかけてきてくれた。彼女の名前は明坂あけさかナオ。すらっとした姿に、首元までの黒髪が風に揺れている。ナオは高校に入って初めてできた親友で、この高校で唯一の心の拠り所なのだ。

少しさばさばしていて、決断力の高い彼女の性格は、優柔不断な私にとって勇気をくれる存在である。

「なあ、数Bの沢木の課題やった?」

「やったよ?まさか、ナオ~やってないの?」

「や…やったんだけどよ、わかんねえとこ多すぎてあきらめちまった。」

「だめじゃん」

うるせえと笑いながら怒られてしまった。がこれが私たちの関係。

ナオはつっこみ、私がボケ。時には立場を逆転するときもあったりとくだらない会話をして毎日を過ごしている。

ナオは運動神経はいいのに数学と社会、英語はからっきしだめ。私も人のこと言えないけどやるべきことはすべてこなすぐらいは頑張っている。


朝の退屈なホームルームと一時間目の現代文の授業も終わり、次は問題の数Bの授業がやってきた。担当の沢木はとても嫌な奴で、必ず出される課題には高校生の知識で応用しようとしても解けない問題を20問中5問入れてくる。

さらに課題をやってない者は即刻追加の課題3枚を追加に加えて、やってない問題の答え合わせの時間にあえて名指しして答えさせようとするなど、本当にひねくれている奴だ。

この日も当然のごとく4名、課題をやっていない者達がいた。後藤君と兼城君と羽馬さんそしてーー

「じゃあこの問題を~」

「おお、明坂~お前やってこなかったのか」

「いや、これはわからなくて、手が出せなかっただけで、決してさぼったわけでは…」

「そうか、じゃあ明坂お前がこの問題を解け」

「はあ、うっざ」

とても小さな声で言ったつもりだったのだろうが、全員に聞こえていた。

「聞こえてるぞ明坂。書け」

これは一種の拷問だ。先生から生徒に対する体罰が厳しくなった今、先生は唯一のはけ口としてこの公開処刑を思いついた。

解けない問題を解かせる。無理難題を押し付けられるのと道理であり、ただ気まずい空気だけが流れるのである。

先生は毎回のように課題を忘れてくる者達に憤りを感じ、毎週この場の雰囲気は刻一刻と悪くなっていた。だが今回の沢木は妙に落ち着きがない。時計を気にしているようだった。きっといつになったら解答を書き終わるのだろうかと困り果てているのだろう。

ナオは必死に黒板の前で解答を考えているが、その沈黙が続くごとに、教室内の空気は重さが増していた。

だが、この地獄のような沈黙を割いたのは、予想外のものだった。


パンッ!


一発の銃声とともに悲鳴が高校を包み込んだ。

正門から聞こえたその銃声の主を一目見ようと生徒は全員廊下側の窓に駆け寄った。

興味本位で覗くべきではないと知っていながらも見てしまった。

そこにいたのは素早く構内へ入っていく全身黒の重装備で身を包んだ男たちであった。

悲鳴は正門から校舎内へと変わり、悲鳴と銃声は確かな現実へと変わっていった。

ガラスの向こう側の出来事ではなく、私たちのいる建物で起こっていることなんだとクラス全員恐らく感じ取っていた。

緊急放送が流れ、直ちに学校から逃げ出すようにと、

焦った声で叫ぶが数発の銃声とともにキーンというハウリングを起こし、放送をしていた先生が殺されたのだとその場にいた全員が察した。

「あーあ、聞こえるか、ガキども」

渋く、少し枯れた重い声は、殺意をスピーカーから垂れ流し一瞬でこの場にいる全員を凍らせた。

「俺たちは、日本政府に仇なす者だ。この学校は制圧した。俺らの指示に従え。さもなければ一人ずつ殺していく。」

スピーカーから聞こえてくるその声をクラスメイトは全員集中して聞いていた。

私はこの声を聴いたときすぐに鳥肌で埋め尽くされ、ゾッとした寒気がしていた。

「どこかで聞いた。同じように、脅迫されたことがある。」

小声でつぶやいていた。

トラウマの扉を向こう側から叩かれている音が聞こえていた。

ドン!ドン!ドン!扉をたたくたびにその隙間から、フラッシュバックするその記憶のかけらは私を襲い、焦げたにおい、炭、瓦礫、つらい記憶が呼び覚まされそうで怖くなっていた。

小さく震える私を見つけたナオは、黒板の前からすぐに駆け寄り、何も言葉を発さずにただ傍に居続けた。

少しでも書いたら更新していきます。

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