飛行船①
本日二度目の更新です。
ふらふらと、夢遊病者のような足取りで歩いていた。
自分の意志で体を動かしているわけではない。
ただ、勝手に動くのだ。
自らの意志とは関係なしに体が勝手に動く。
だが意識だけはそこにあって――やめてくれ、とただ叫んだ。
体は止まらない。
『誰か』に操られるままに歩を進めていく。
歩く先には人影があった。
力なく横たわる少女の姿があった。
そして、自らの手には剣が握られていた。
誰かに操られるままに歩いて、彼女に近付いて、剣を振り上げる。
やめてくれ。やめてくれ。やめてくれ。
逆らえない。
血と肉と絶叫が散らばった。
剣は振り下ろされる。
何度も、何度も。
悲鳴が止まるまで。
シグの手には、そのときの感触が今も染みついている。
× × ×
「……グ、シグ。大丈夫かい? うなされていたようだけど」
目を覚ますと、顔が触れそうなほど近くにクゥの顔があった。
シグはぼんやりとした頭でそれを眺め、だんだん意識が戻ってくるとクゥを押しのけた。近すぎる。
貴族の寝室のような部屋だった。
広くはないが高価そうな調度品が並んでいる。足元の絨毯は踏めば沈むほど柔らかい。
そんな部屋の窓際のテーブルで、どうやらシグは座ったまま寝ていたらしい。
目元を押さえてシグは呟いた。
「……くそ、久しぶりに嫌な夢見た」
クゥは気遣うようにそんなシグを見ている。
「ほんとうに大丈夫かい? 水、飲んだほうがいいよ」
「ああ……」
テーブルに載る水差しからグラスに水を注ぎ一気に呷る。
香りのついた冷たい水が喉を下っていき、ようやくシグは少し落ち着いた。
「それにしても、心配したよ。シグの寝顔を観察してたらいきなり苦しそうにしたから」
「人の寝顔を見てんじゃねえよ」
「だってぼくシグのこと大好きだし。……それにこの部屋、他に見るものないしね」
「……まあ、退屈だってのには同意だ」
この部屋にあるのはベッド二つとテーブル、椅子。以上。
景色を見られる窓はあるが、現在窓の外は灰色で埋め尽くされている。見ていて楽しいものではない。
だからこそ、シグはうたた寝などをしていたわけで。
対面に座るクゥも、ブーツを脱ぎ捨てた素足をぶらぶらさせて暇そうだ。
しかし、とうとうそんな退屈が終わりを迎える。
窓の外から強烈な光が差した。
「……あ」
クゥが窓の外を見て目を見張る。
そこに映っていたのは――さっきまでの灰色が嘘のような、青い空。
おお、とシグも感嘆したように呟く。
「雲を抜けたのか」
「そうみたいだね。ということはもう外に出てもいいのかな」
久しぶりに空が見えて嬉しいらしい。クゥが弾んだ声でこんな提案をした。
「シグ、甲板に行ってみよう!」
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