拾玖
19です。
「はぁっはぁっ...」
百舌は辺りを見渡す。
知ってる場所だ。
(ここは...古本屋の前...っ)
直感的にまずいと思い歩き出す。
走る体力はすでに残っていない。
「色々起きすぎだろ...」
そう文句を漏らしながらも歩き続ける。
足にふと痛みがする。
強い痛み。
地面に腰をおろす。
もう歩けない。
「セイは...どこなんだ?」
あの時、姿を表すことができないと言っていた。
何かが起きてるのか。
いや、既に起きてるのか。
非現実への賽は投げられている。二年前に。
「戻って来ない方がよかったのかな...」
「僕は言ったはずだよ。何があっても弱音を吐くなってね。」
懐かしい響きがする。
「セイ...?」
「約束くらいは守ってほしかったね。言霊だと言ったろう?」
「何で今まで姿を表さなかったんだ?」
少し憤りを含んだ声。
セイを信頼している証拠だろうか。
「その理由は説明してるだろう。言霊だと。」
「言霊...?」
「百舌、僕は君の感情を媒体にしてるんだ。と言うことは君の感情の強さが私の強さと言うこともできる。だから弱音を口に出せば意思も弱くなる。そういうことだよ。」
「弱音は今まで出さなかったじゃないか。今の今まで」
「百舌、鳩とアオサギを愛せてないだろ?」
「は?」
「言ったろう?僕の能力は博愛だと。愛のないところに愛は訪れないよ。お陰で肉体を維持するのがやっとだ。」
「愛せるわけ...ないだろ?恨んでない?あぁ、そのつもりだった。だが、俺は人間だ。聖人でもなければキリストでもない。いざ対峙すると...無理だ。」
溜め込んでいた弱音が零れる。
隣人を愛せよなんて戯れ言だ。
あんなやつらを愛すなんて無理だ。
「君はどうしたいんだ?」
どうしたい?当たり前だろ。
そんなふざけたことを聞かないでほしい
「元の生活に戻りたいに決まってんだろ。何でこんなことをしなきゃいけないんだ。俺は何もしてないだろ?」
「あぁ。確かに君は何もしてない。何かをする力がない。だから、力がほしい。君はそう望んだんだろう?」
「望んでない。」
そんなことを望んだ記憶はない。
セイは何を言っている。
「いや、君は僕に力を願った。だから僕は君を媒体にしたんだ。」
「分からない。なんなんだよ。何でこんな目に。」
セイに会って緊張がほぐれたのか弱音が、思いが止まらない。
セイに敵意がない。
それだけで安心するには十分だった。
「分からないだろ?だが、君が行動しない限り君の平穏は訪れない。誰かが何とかするなんて考えは捨てて欲しい。」
「お前は俺にどうして欲しいんだ。」
「君の幸せをつかんで欲しい。前も似たようなこと言わなかったかい?」
「そのために感情を...愛を持てと?」
「元はといえば、君が鳩に見初められたのが原因なんだし、愛の責任は愛でとらなきゃ」
「意味が分からないな。」
体が少しずつ落ち着くのを感じる。
パニック状態が解けてくる。
セイが口を開く。
「ところで、君はその感情といつ遭遇したんだ?」
「その感情?」
読んで頂き感謝です。