拾参
セイの一人称僕っての時々忘れます。
セイは語った。
「まず、君に過去を見せたのは僕だ。」
「それは大体予想はついていた。」
「こうなる事は分かっていたけど、こうするしか無かったんだ...悪いと思ってる」
申し訳なさそうにその目はこちらを見ている。
「どうやったんだ?」
「握手したときあっただろ?その時、力を使わせてもらったんだ。」
「じゃああのとき力を使いすぎたって言ったのは」
「まぁ、この事だね。気付かれる訳には行かなかったからね」
心から反省している様子に見える。
セイはその調子で続ける。
「僕はもうひとつ君に嘘をついた。」
「まだあるのか。」
百舌は別に彼女のしたことを咎める気はない。
彼がそういう性格であることも要因だが、
彼女のやったことは、全て百舌の為になっている。
むしろ感謝したいくらいだ。
「僕が君であると。僕はそう言ったね。」
「言ってたな」
「あれは半分嘘で、半分本当だ。」
「どういう意味だ?」
彼女は一瞬彼に躊躇い、そして決心したように。
「僕は...あいつと...アオサギと同類だ。」
「...?」
その名前は百舌にとっては一種のトラウマに近い。
恨んではない。その言葉は事実でも、心にはトラウマになるには十分過ぎた。
「僕らが何か、君には分からないよね。分からないものは恐れるし、それがあんなことをされた対象ならそうなるのもしょうがない。」
「そうなる?」
百舌は不思議に思い、そして気付く。
百舌の全身が震えている。
自覚はないが、確かに震えていた。
セイは続ける。
「僕の正体は、感情。」
「感情?」
「君の強すぎる感情が、意思を持ち、そして肉体を持ち、自我を持った姿。だから私は君であるとも言えるし、君でないとも言える。」
「感情が肉体を持つ...?そんな馬鹿げたこと。」
百舌は口に出す。
だが、セイは起こる様子もなく、
「実際に起きてるんだからしょうがないだろ?」
そう小さな声で呟く。
「...仮にそれが本当だとして、どうしてセイは肉体を失っていたんだ?」
「僕が君の前に現れる前に、君が書き換えられて僕と言う感情が弱まったせい。」
「俺のその感情の強さに依存してるってことか?」
ならば、この2年間姿を表せなかったのは当然だろう。
「まぁ、そういうことだね。」
「君の感情はさっき気づいてるだろう?」
これには心当たりがある。
さっき口にした感情
「...愛か?」
「正確には博愛だよ。」
「博愛...」
確かめるように百舌は言う
「僕の能力の片鱗は見せてたはずだよ。」
セイはいつの間にか反省していたときとは裏腹に楽しそうにしている。
「いつ?」
「僕と話していると、僕の言うことを聞いてしまいそうになっただろ?」
思い出す。
話せば話すほど、セイのペースに飲み込まれ
彼女が正しいと思った。
彼女は嘘をつかない。
彼女は信頼できる。
そう思っていたことを思い出す。
「あれが能力...?」
「そうだよ。すごいでしょ?」
セイは不敵に笑った。
読んでいただき感謝です。