上巻
薄暗い室内でゴリゴリと不気味な音が響いている。臨時休業中の魔法堂の奥。向かい合わせの扉にそれぞれ「取込中」と書かれた札がかかっているが、その部屋の持ち主の一人。見習い魔女の片割れは、何やらぶつぶつ呟きながら、机の上で一心にすり鉢を動かしていた。
「竜のしっぽの鱗を六枚」
丁寧に数えてすり鉢に入れた竜の鱗は、先程から時間をかけていただけあって、さらさらと粉砂糖のような細かさを刻んでいる。
「で、次はなんだっけ」
汗をぬぐいながら走り書きのレシピに目を通すと、そこには汚い文字でこう書かれていた。
・竜のしっぽの鱗 6枚
・夢喰い獏の涎 3滴
・新月に咲く徒花の蜜 瓶に9杯
・星を閉じ込めた窓ガラスの破片 大小10枚
・一角獣の角 少々
よし、と。気合を入れて、見習い魔女は星を閉じ込めた窓ガラスの破片を十枚取り出すと、先程竜の鱗を砕いたすり鉢に投入する。すり鉢をゴリゴリかき混ぜるたびにキラキラと星屑が散って、ガラスの破片は不思議な色に砕けていった。
「本当にキレイ」
魅入ってしまうのは当然。薄暗い部屋の中で、そのすり鉢からこぼれだす光の渦は、それを見つめる見習い魔女の瞳さえキラキラと宝石のような輝きを映している。
「ああ、いけないいけない。こうして見惚れていたらガラスに吸い込まれてしまうわ」
一人前の魔女になるために、高額な材料もあれば危険な材料もある。この薬はそれに加えて入手困難な代物も手に入れなければならなかった。
「新月に咲く徒花の蜜は、と」
見習い魔女は鱗とガラスが綺麗に入り混じったすり鉢を脇にやって、目の前にドロリと赤黒い液体が詰まった大きな瓶を持ってくる。その名の通り、新月に咲く魔界の植物から採取された蜜は、高額であると同時に闇市でしか売っていない珍しい代物。それを九杯分、慎重にはかりながら見習い魔女は大鍋の中にドプリと注いだ。