コメントに一喜一憂
コメントに一喜一憂
やた! コメントがついた!
長らくブログを続けていたが、生まれて初めてコメントがついた。
わたしは狂喜乱舞して、ぬいぐるみのジジを抱きしめ、部屋の中をダンスした。
スマホが部屋の足の上に転がって、がしゃりと音を立てて割れた。
わーっ!
すぐに返答を書かないと、読者は逃げてしまう。ブログを付けているのはわたしだけではないのだ。読者に愛想を尽かされたら、読んではくれなくなる。
わたしは、スマホを拾い上げて、すぐさまショップへ向かった。
ところが。
道は、混んでいるどころではなかった。
ちょうど、地域のゆるキャラ選出イベントがあって、その行列を見るための群衆が、わたしの行きつけのショップの前を、大挙して押し寄せている。
車はとろとろ走り、たびたび止まった。
ゆるキャラ演出のためなのか、パレードが出てきて、どんひゃらどんひゃら、ぷかぷかどんどん、騒がしいことこのうえない。わたしはイライラしながら、その行列を見送り、車を有料駐車場に駐めると、さっそくスマホをショップに出した。
「お気の毒です。手遅れでした」
まるで、末期ガン患者が臨終を迎えた医者のような口調で、店舗の人は言った。
スマホは、見るも無惨な姿になり果てて、起動すらできないようであった。
「中身、移動できないんですか」
ポケモンGOとか、Lineのデータとか、いろいろ入ってるんだけどなあ。
すがる思いで聞いてみても、
「ショップが違うので、なんとも」
とあいまいな返事。
そうしているうちにも、町はどんひゃらどんひゃら、ぴーひゃらら。
わたしはだんだん、イライラしてきた。
「じゃあ、どうすればいいんですか!」
「この際、スマホの乗り換えをなさっては? オトクな料金プランもありますし」
料金プランをいくら見わたしても、どれも必要不可欠なものばかりが並んでいる。
電話だってしたい。インターネットはもちろんだし、Lineも当然だ。
ちょっと壊れただけで、維持費8000円の出費は痛い。
無料だけど、なんでこんなに、機械がもろいのかなあ。
そりゃ、たしかにわたしはひとよりも筋肉はついていると思うけど。
結局、売りつけられてしまったじゃんか。
なんてことを考えつつ、有料駐車場に戻ってみると、そこにたむろしているゆるキャラたち。
行列が終わったので、休憩に入ったらしい。ちょうど近くに設営所もあった。
わたしは、ゆるキャラたちの間を抜けるようにして歩いた。
すると、そのなかの一人の声が、耳に入った。
「すごく気の合うブロガーがいてさ。コメントを付けたんだけど、返答がないんだよ。どうしちゃったのかなぁ」
見ると、頭だけ着ぐるみをはずしたイケメンが、悩ましい表情で同僚に打ち明けている。
「どんなブロガーなんだ? 写真だしてるのか?」
「いや……。ただ、美しい詩をつくってる。あんな繊細な感覚を持つひとに、悪い人なんていないよ」
「そーかー?」
イケメンは、その美しい詩をくちずさんでてみせる。
ああ、そんなにも空がひろい。
闇が拓けていく。
月がきらめいて、銀の糸になる。
その内容を聞いて、わたしは背筋がゾクッときた。
それは、わたしの書いた詩だった。
「コメントの返事が、かえってこないってことは、迷惑だったのかな」
イケメンは、ため息を吐いた。
わたしは、新しくなったスマホをポケットにつっこんで、イケメンに近づいた。
胸はどきどきしている。
生まれて初めて、評価してくれたひと。
自分の詩を、認めてくれたひと! それが目の前にいる!
恥ずかしい。
Web詩人として、このまま隠れていた方がいいのでは?
いいおとなが、あんなリリカルな詩を書くなんて、みっともなくないか?
理性は止めるが、感情は暴走した。
つかつか、詰め寄ると、イケメンに、殴りつけるように叫んだ。
「あの……。その詩は、わたしが書いたんです!」
「えっ」
イケメンは、わたしを振り返って、みるみる顔を引きつらせた。
「あ、そ、そうなんですか」
同僚が、くくくっと笑いをこらえている。
悪役レスラーがWeb詩人で、なにがわるい。