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「決戦Ⅱ」

ラスボス戦その1

 

 第七話「決戦Ⅱ」


 7

 エイリアンは未来から来た……シンジ博士はそう言った。

 それだけではなく、『ここで育てていた』とさえ言った。……これはつまり、シンジ博士がこの件に関わっていることを意味していることに他ならない。


「シンジ博士……テメエ、そりゃあどういうこった……!?」

「どういうことも何も……そういうことですよ、ボブッティブさん」

 怒れるボブッティブに対して、シンジ博士は極めて冷静に返答した。


「……ここはそもそも病院などではない」

 サイバサが口を開けた。

「病院に偽装した……研究所だったのだ。それも、生物兵器のな」

「な、何だと……!?」


「そんなことが、行われていたのか……この町で……」

 ジョナサンはショックを隠しきれない様子で言った。

「如何にも。人目につきづらい郊外の森でしたから、中々に捗りましたよ、ええ」


「政府は内密に、シンジ博士へこのプロジェクトの中止を通達していた。彼の行動から倫理観が剥げ落ちてきていたのでね。……だが彼は止めていなかった。そのため、こうして私が派遣されたわけだ」

「ですが、そこにサイバサさんはおろか、私ですら予想外の事態が起こったのです。……それが、このエイリアン騒動です」


 少しため息を吐きながら、シンジ博士は続けた。

「エイリアン……その正体は、どのタイミングでかは分かりかねますが……私がここで行っていた生体実験、その被験体が脱走し、そして未来まで生き永らえたことにより誕生した末裔だったのです。最後にUFOから出てきた彼は、ここでの被験体、その面影がありますからね」


「……するってーと、あのUFOはタイムマシンだったってことかよ!」

「ああ、どうもその可能性が高いようだ」

「ええ、私としても驚きです」

「何が驚きですだボケ! テメエだけは許さねえぞ、シンジ博士!!」


「ええ、許さなくて結構。前借りとはいえ、私の実験、その成果が今目の前にあるのですから。その喜びに勝る感情など一つしかありませんよ」

 誇らしげに、シンジ博士は意味深長なことを言った。……そう、その喜びに勝る感情が彼にはあると言うのだ。


「待ってくれ。……それ以上の感情とは一体何なんだ」

「良い質問ですねジョナサンさん。……ええ、自分でもこれ以上の喜びがあるとは思ってもみませんでした」

 一呼吸おいてからシンジ博士は言い放った。


「快感ですよ、快感。——自分が作り上げた作品を破壊することはね……!!!」


 狂喜に顔を歪ませながら、シンジ博士は心底楽しげに嗤った。


「……ッ、好き勝手言いやがって、テメエ……!」

「い、異常だ……」

「いずれにせよ、シンジ博士はその趣向を人間に向けてしまった。その時点で対処せねばならない」


「ハッ、遅いですよ、もう遅いのです! ……既に私は、この時代にて、最高傑作を作り上げているのだから……!!!!!」


 瞬間、シンジの背後から巨大な影が出現する。それは先ほどエレベーターで通過していった東棟から溢れ出た。

 それは液体のように流動する肉体を持った、巨大な人形だった。


「これこそが我が最高傑作、全てを飲み込む究極の生物——スレイブ・ゴレム……!」


 咆哮を上げるスレイブ・ゴレム。巨大なそれは、崩壊する東棟すら体内に吸収し始めていた。

「チ、まずいな。今すぐ西棟に飛び移るぞ」

 サイバサは、瞬時に策を練った。


「つってもよォサイバサさん! 渡り廊下的な通路はもう壊れそうだぜ!!」

「それでも走るしかない。壊れるより先に突き抜けるぞ」

「ぎゃあああーーーーッやるしかねえってのかよォォーーーーッ」


 やるしかなさそうなので走り出すボブッティブとジョナサン。

 だがブレイドは未だ〈疑似転生〉を続行していた。

「ヤベエ! 逃げろブレイドさん! そこは危ねえ!」

 ボブッティブは叫ぶが、ブレイドは気づいていない。


「大丈夫だ。あの状態ならば死ぬことはない。今はこちらの脱出が先決だ」

「チクショウ、無事でいてくれよブレイドさん!」

 ボブッティブは無理やり納得して走り始めた。


 そして、ブレイドに変化が訪れたのは、ボブッティブたちが西棟に移動しきってからだった。

「オイ、あれってまさか……」

 スレイブ・ゴレムが今にも東棟を完全に飲み込もうとしているこの瞬間に、ブレイドは疑似転生を完了させた。……逆に言えばそれは、超再生状態が解除されたということでもある。


「では、まずはあなたからです」

 スレイブ・ゴレムの肩に乗ったシンジ博士の一声がそのままオーダーとなり、スレイブ・ゴレムはその巨大な右腕をブレイドに突き出した。


「ブレイドさああああああああああん!!!!!!」

 ボブッティブは叫んだ。力の限り叫んだ。だが届かない。声だけ届いても最早どうにもならない。転生したてのブレイドは既に、スレイブ・ゴレムの体内に吸収されてしまったのだ。


「そ……そんな、ウソだろ……ウソだと言ってくれよ、ブレイドさんよォ……」

 ボブッティブの声は虚しく響いた。


「残念ですが、ブレイドさんはここの被験体たち同様、このスレイブ・ゴレムの一部となりました。悲劇です、実に悲劇です。ですが私にとってはこれ以上ない喜劇です。素晴らしい最高傑作です」


 穏やかな笑みを浮かべながらシンジ博士は語る。

 ——その足元に、鋭き刃が迫っていることに気づかずに。


「————!?」


 斬、と。シンジ博士の右腕はいともたやすく斬り落とされた。右腕でスレイブ・ゴレムに体重を乗せていたシンジ博士はそのまま姿勢を崩し落下を始めた。


「馬鹿な……ッ! スレイブ・ゴレムは生命を取り込むことに特化した究極の生物兵器! そういった概念だと言うのに、どうしてお前は無事でいた!!?」

 シンジ博士の驚愕に満ちた問いに、ブレイドは今までとは違う口調で答えた。


「……知れたこと。〈オレ〉はその概念を斬っただけだ。斬れると思ったから斬った。ただそれだけのことだ」

「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な、馬鹿な……ッ!!!」


 憎しみめいた表情を見せて、シンジ博士は地面まで落ちていった。

「そのまま堕ちろ、どこまでもな」

 冷酷にブレイドは告げた。


 だが。


「そうは……行くか……ッ! ——スレイブ・ゴレムゥ! 俺をコアにしろ! 俺に主導権を譲れェェーーーーーーッ!!!」


 僅かにシンジ博士の執念が上回った。


 刹那、スレイブ・ゴレムはシンジ博士を取り込んだ。だがそれはただの吸収ではなく、肉体の主導権をシンジ博士に移譲するというものだった。


 今まさに、シンジ博士は、自分自身が最高傑作となったのだ。


「はははははは! 素晴らしい! これでいい、これで! 今まさに! 私が! 頂点なのだ……!」


 狂喜の表情が、スレイブ・ゴレムに浮かび上がった。

 ついに、本当の最終決戦が始まろうとしていた。

多分次回で最終話ですよ。

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