「決戦Ⅰ」
ボス戦開始ですよ〜
6
エイリアン戦闘部隊との死闘は苛烈を極めた。地球外の技術で作られたビーム兵器による一撃は廃病院の外壁を容易く溶断し、勢いを衰えさせることなくボブッティブたちに迫り来る。
ニンジャのサイバサですら、その凄まじき攻撃を凌ぎきることは叶わず、ボブッティブたちは次第に回避行動でいっぱいいっぱいとなっていた。
「チクショウ! どうすりゃいいんだよクソッタレ!」
「落ち着けボブッティブ! 今はなんとか耐えるしかない!!」
「けどよジョナサン……!」
手持ちの武器で初撃以外決定打を与えられずにいるボブッティブとジョナサンは焦燥感にかられていた。
助けに来たというのに何もできなくなった、その無力感が腹立たしいのだ。
「いいえ、二人はとても勇敢に戦ってくれているわ。初撃を迷いなくヒットさせたことがその証拠よ」
二人を励ましながら、ブレイドはボブッティブたちの中で一番前に立った。
「危ねえよブレイド! そんなとこに突っ立ってたらよォ!」
ボブッティブは叫んだが、ブレイドは首を横に振るのみだった。
「大丈夫よ。……私も、踏ん切りがついたから」
そう言ってブレイドは、エクスカタナで己の心臓を貫いた。
敵味方問わず、その壮絶な光景に言葉を失った。
「な、何やってんだーーーーッ!!!」
ボブッティブだけが、なんとか叫んだ。
「……ゴフッ……ハァ、ハァ……実はね、これ、二回目なの……」
鮮血を流しながらブレイドは息絶え絶えに言った。
「どういうことだよブレイドォ!」
「……ちょっと余裕ないから、そこのニンジャに聞いてくれる……?」
ブレイドはチラリとサイバサの方を見た。
何かを理解したサイバサは、口を開いた。
「……これは、エクスカタナの担い手が使うという秘技……〈擬似転生〉……。選定の刀として長い年月大地に刺さっていたことでエクスカタナに蓄積されていた星のパワーを起因とした圧倒的な生命力……それを自刃と同時に体内に放出し——魂の状態をリセットする絶技だ」
何のことやらさっぱりなボブッティブとジョナサンだったが、擬似転生という名称から、何となく何が起こっているのかは察することができていた。
「……ふむ。リセットした魂に、肉体に残った記憶を瞬時にインストールして、即座にこれまでの人生経験を履修する……というものでしたか?」
シンジが補足説明を行った。
「貴方もご存知なのですか」
ジョナサンが訊いた。
「ええ、そういった分野も研究したことがありましてね」
何食わぬ顔でシンジは答えた。
「そして、この状況に適したメンタル傾向になるまで、何度も魂をリセットし続けているんだ……ブレイドは今もな」
今もなお、それを行っていると、サイバサは付け加えた。
「それが二回目だって……? なんて覚悟なんだ、ブレイドさん……」
ジョナサンが思わず呟いた。ボブッティブはただ唾を飲み込むしかなかった。
「シルカボケけけけけーーーーーッ」
しかし、エイリアン戦闘部隊は、そんなことお構いなしとばかりに襲いかかってくる。だが、心配することはなかった。あらゆる攻撃は今、超再生を繰り返しているブレイドには効かないのだ。擬似転生の最中、ブレイドは無敵なのである。
その事実に気づいたエイリアンたちは態勢を立て直すために一瞬攻撃の手を緩めた。
——その瞬間を見逃すボブッティブたちではなかった。
「食らえオラーーーーッ!!」
ボブッティブが大口径拳銃から弾丸を放ち、
「吹き飛べ……ッ!!」
ジョナサンが散弾を炸裂させ、
「斬————!」
サイバサが間合いを瞬時に詰めてニンジャソードで斬り伏せた。
「ギャアアアアアア」
エイリアン戦闘部隊は、そのほとんどが戦闘不能に陥った。廃病院屋上は今、エイリアンの体内から噴き出たオイルまみれとなった。
「おいクソエイリアン! さっさと出てきやがれってんだ!!」
ボブッティブは怒りを発散すべくUFOに向かって痛烈な叫びを放った。
それに応えるかのように、数秒の沈黙を置いてから、UFOから何者かが降りてきた。
それはこれまで戦ってきたエイリアンたちとは違っていた。それは確かに地球人とは異なる姿であるため、ボブッティブたちから見れば異形の存在ではあった。だが同時に、それは機械ではなく、どこまでも生身の生物であった。
身体中から触手の様なものが何本も生えている、筋骨隆々な直立二足歩行のそれは、静かに口を開いた。
「私はただ……帰ってきただけなのだ」
その意味を理解するより先に、それは撃ち抜かれ、そのまま倒れた。それが銃で撃たれたのだとボブッティブたちが気づいたのは、銃声に反応して瞬時に背後を見た瞬間であった。
「何、やってんだお前……!」
ボブッティブは怒りに肩を震わせながらその人物を睨みつけた。
ボブッティブの前にサイバサが立った。
「そうだ。『なぜ戻ってきた?』と、俺が訪ねた相手は君だったのだ」
サイバサはその人物に向けてニンジャソードを向けた。
その人物は——
「やれやれ。我ながら慌てましたよ。……よもや、ここで育てていた彼らの末裔が、『未来』からやって来るだなんてね」
——シンジ博士は、どこまでも純粋無垢な笑みを浮かべながら答えた。
今度こそラスボス戦ですよ〜