「廃病院に行こう」
お久しぶりです。リハビリがてら書いてみました。面白い作品だと思うので、楽しんで読んでみてくださいね。
ヤババシティ~ボブッティブVSメカに強いエイリアン~
1
ノックの音がした。
「おいおいウソだろ。なんだってこんな時に」
自宅でグッドなビデオを見ていたボブッティブは突然の来訪者に心底落胆した。
今日は朝から晩まで好きなだけグッドなビデオを見よう……そう決心してとても意義に満ちた朝――そう、気だるさからは程遠い、最高の――を楽しんでいたボブッティブは突如として鬱屈した、それこそ下水道のネズミを見た時の様な気分になった。
ノックはなおも続く。インターホンは壊れているのだ。
「ちくしょう! わかったよ! 出ればいいんだなクソッタレ!」
テーブルに置かれたコーンフレーク――これから食べようと出してきていた――の入った箱を自慢の右腕で払い飛ばして、ボブッティブは荒い足取りで玄関へ向かった。
ボブッティブが扉を開けると友人――というよりも悪友の――ジョナサンが立っていた。
恵まれた体躯をしており、その上チャーミングなところもあるためガールフレンドも多い。
ボブッティブはチャーミングさではジョナサンに勝てないでいるので、いい加減ジョナサンに頼み込んででもステキなガールフレンドを紹介してもらうべきかもしれないと考えていた。
「よぅボブッティブ! 朝からげんなりしてどうした? 昨夜はお楽しみだったのか?」
「悪いな、今お楽しみ中だよ」
ボブッティブは扉を閉めようとした。
しかし、それをジョナサンが阻止した。
「待てって、なあ、悪かったって。今度女の子紹介するからさ、な? いいだろ?」
ジョナサンは謝罪を述べながら家に入って来た。外にはオープンカーが見えた。
「おいジョナサン。あの車お前のか?」
「ああそうだぜ。今日は天気もいいからお前とどっかでかけようと思ってな」
門の外のオープンカーを指さしながらジョナサンは言った。
「バイクに一途なお前がオープンカーとは――いやいやそれよりも、そういうのは女の子と行けばどうだ?」
ボブッティブは本心からそう言った。
「いやいやボブッティブ、これはまあ色々事情があるんだよ」
ジョナサンは、ボブッティブが乗り気ではないことを察してわけを話すことにした。
「はぁ? 度胸試しの下準備だぁ?」
ジョナサンからの提案に、ボブッティブはおったまげた。なんなら度胸試しはもうやらなくてもいいほどである。
「なっ? 女の子を呼んでキャッキャウフフって感じの楽しいイベントにしたいんだよー、頼むぜボブッティブ~」
「誰がやるかバカ」
「もちろんお前も誘うにきまってるじゃないか~」
「しっかたねーなー」
即答であった。
……ジョナサン曰く、ここ〈ヤババシティ〉の郊外にある小さな森――その奥地に廃病院がひっそりとそびえ立っているそうで、今回はそこを肝試しに使えるかどうか下見に行くとのことだった。
本来ならばそんなこと面倒くさ過ぎて『そんなことする暇があるのならコーラとスナック菓子を買ってきて夢のデブ生活、その第一歩を踏み出すぜ』とさえ思いがちなボブッティブだったが、自分も肝試しに誘ってもらえると判明したため俄然やる気が湧いてきていた。
「そうと決まれば善は急げだ。ジョナサン……最高の肝試しを演出しよう――ゼ!」
ボブッティブは右手で『いいね』を表現しながら言った。
「おうおうその意気だぜボブッティブ。いいねいいね、ノッてくれて俺は嬉しいよ」
「いいってことよ。お前こそ、可愛い娘招待してくれよ!」
「ああ、既に肝試しのことは話してっから期待してくれよ!」
ボブッティブはハイテンションで会話を続けていた。
――まさか、その廃病院にあんなものがいるなどとは思いもせずに。
第一話「廃病院に行こう」
車を走らせること約一時間。ボブッティブとジョナサン、二人は郊外の森を抜けて廃病院に到着した。
――そして。
「全然ひっそりしていねえ……!」
思っていたよりも廃病院が大きかったので(土地も広大だった)ボブッティブは思わず大声を出した。
ボブッティブが驚いたのも無理はない。ひっそりとそびえ立っていると言われていた廃病院はその実、割と『ででーん』といった効果音が似合う程にはどでかくそびえ立っていた。結構大きな建物なのでひっそりという表現がふさわしく感じられなかったのだ。大体30メートルほどのツインタワータイプの病院で、よくもまあ郊外の市街地から見えなかったものだ――とボブッティブは独白した。
「……実はなボブッティブ」
ジョナサンが神妙な顔つきで口を開いた。
「なんだよ改まって。ビビらせんなって……」
冷や汗を流しながらボブッティブは言葉を返した。
ジョナサンは少しだけ俯きつつ、続けた。
「この病院な、一週間前ぐらいから急に見えなくなったらしいんだよ」
「見えなくなったって……町からってことかよ?」
「ああ」とだけ答えて、ジョナサンは
「死ねぃ、ボブッティブ……ッ!!」
突如ボブッティブに飛びかかった!
「どわぁぁぁーーーっ!!」
ボブッティブは突然の襲撃に動転するも、ジョナサンの動きが予想以上に直線的だったため上手く受け流すことに成功した。右から左へエネルギーを上手く流動させたのだ。
「グオオオオオオ」
そのままジョナサンは自身のオープンカーに激突した。頭から激突したので暫くは動けない筈だ。ボブッティブはそう思った。
――だがそれは、相手が人間だったらの話である。
「なッ……」
ボブッティブはあまりの事態に後ずさりした。反射的な動きだった。残念ながら背後は森ではなく廃病院だった。さっきまで晴天だった空は、いつの間にか曇天へと変貌していた。コンクリートの湿ったようなにおいがする。じき雨が降るのだろう。
話を戻し、そして率直に状況を述べると――砕けたのはジョナサンの頭蓋ではなくオープンカーのドアだった。……理由は不明だが、ジョナサンの体は人のそれではなくなっていたのだ。
「ケケケケケ」
ジョナサンが起き上がる。首はあらぬ方向へと曲がっていたが、ジョナサンはそれを即座に『人として』正常な角度へと戻した。
――そしてジョナサンはボブッティブの方へ向き直った。
「やってくれるじゃないかボブッティブゥ……」
どこか人間離れしたクネクネとした動きで迫りくるジョナサン。それに対する本能的嫌悪感からボブッティブは語気を荒げた。
「なッ、何者だテメー!」
叫びつつ、まるで機械のようだ――と眼前のジョナサンを見ながらボブッティブは思考した。そうやって比較的現実味のあるイメージ付けをしなければ精神がもたないと自己判断したからだ。
「言ってどうなる聞いてどうなる。ボブッティブ、お前はここで死に、そして我らの仲間となるのだ!」
ジョナサン――いや、ジョナサンだったモノが口を欠けた月の様に歪ませる。その姿が、ボブッティブはたまらなく嫌だった。
「ウソつくんじゃねェ! ジョナサンがこんなことで死ぬタマかよォ!」
故にボブッティブはジョナサンだったモノの言を否定した。お前はそもそもジョナサンではない、と。俺の知るジョナサンはこんなことに巻き込まれて死んだりしない、と。
その言葉が届いたのか、ジョナサンだったモノの動きが一瞬だけ止まった。されどそれはただの一瞬。ボブッティブの寿命が一瞬延びただけのことだった。
――そう、このまま助けが入らなかったら、というIFの話ならば、だが。
「ギャアアアアアア」
「え?」
ボブッティブは突然の絶叫に呆然とした。叫んだのが自分ではなかったからだ。
そう、叫んだのは目の前にいるジョナサンだったモノだった。そして、ジョナサンだったモノは体を散弾で何か所も貫かれていた。貫いた射手は――
「無事か、ボブッティブ!」
「ジョナサン!!」
バイクに乗りさっそうと現れたジョナサン(真)だった。
「悪いがボブッティブ――手伝ってくれ!」
どちらにせよジョナサンは無茶ぶりをする。その点は少なくとも真偽での差異はなかった。
「いいけどよ、何を手伝ったらいいんだよ!?」
「エイリアン退治だ!!!」
「すげえ! 本気で言ってやがる!!」
「キエエエエエエエ!」
ボブッティブの背後から偽ジョナサンが再度襲撃を掛けてくる。
「ボブッティブ、これを使え!」
「任せろーーー!」
刹那、弾丸が偽ジョナサンの胸を砕いた!
ボブッティブはジョナサンから受け取った大口径自動拳銃を瞬時に起動し、即座にトリガーを引いたのだ。
「ギャアアアアアアア」
そして偽ジョナサンは絶叫と共に背中から倒れた。全身から噴き出していたのは血ではなくオイルだった。
「そいつは俺をコピーした殺戮マシーンだ。記憶までコピーしやがって、クソッたれが!」
沈黙し、動かなくなった偽ジョナサンを念入りにショットガンで蜂の巣にしながらジョナサンは悪態をついた。
「なあおい、これは一体何が起こってるんだ? さっきはノリで応戦しちまったけどよ、これって実際トンデモねえ事態なんじゃねえのか?」
「当たり前だろ。何せエイリアンの侵略が始まろうとしているんだからな」
「うげ、マジの話だったのかよ……」
ボブッティブは思わず絶句した。
「とにかく、まだヤツらはさっき俺たちが倒した〈俺のコピー〉しか作れていないっぽいから、今の内にさっさとぶっ倒すぞ」
ジョナサンは真顔で、いたって真面目にそう言った。
「本気か? そもそも疑問なんだけど、お前コピー取られたってことはエイリアンに捕まったってことなのか?」
「その通り。俺は三日前にこの辺までジョギングしに来ていたらとっつかまっちまったんだ」
「よく無事だったなジョナサンおめー!」
「それに関しては、俺を助けてくれてオマケに自衛用の武器までくれた人がいたんだよ」
ジョナサンはそう言うと目を少しだけ伏せて続けた。
「その人は政府直属の特殊部隊に所属する方でな、今も単身であの廃病院にいるんだ。……その人は名前も告げずに、ただ俺に一言『逃げろ』って言ったんだ。――でも俺は助けてえ、助けてえんだ! あの政府直属の特殊部隊に所属する人をよォ! 助けてえんだ!」
ジョナサンはボブッティブに掴みかかってまで思いを吐露した。友人の真摯な態度に、ボブッティブは心を打たれた。
「いいぜ。俺は俺で間接的にその、政府直属の特殊部隊に所属する人に助けてもらったワケだ。ジョナサン、俺も力を貸すぜ!」
「ありがとう、感謝するぜボブッティブ!」
二人は熱く手を握り合い、誓い合った。政府直属の特殊部隊に所属する人を助け出し――そして、さっさともっと呼びやすい名前を教えてもらおう、と。
書いていてめちゃくちゃ楽しいですね!