第三話 -消せない過去-
今月は5の倍数の日にこの作品を更新します。
「【死者蘇生】…………」
「君に必要な力じゃないのかい?」
「…………」
3年前の記憶が蘇る。
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あれは6年前の暑い夏のことだった。
ジリジリと照りつける太陽。ユラユラと揺れる陽炎。
まさに「炎天下」と呼ぶことの出来る日。
俺はファナリアとカイト、そしてユナと裏山の近くを流れる川で遊んでいた。裏山には4人で作った秘密基地があり、いつも学校が終わると集まって遊ぶのだ。その日は夏休み。一日中遊ぶことが出来る!とはしゃいでいた。
特にファナリアはいわゆる「お嬢様」なので、外出を許してもらえて幸せそうだった。
ユナ。ユナ・ディエトロ・トレスはカイトの一つ下の妹で、俺のことも「お兄ちゃん」と呼んで懐いてくれていた。
「暑いなぁ…………。あ、そうだ!ファナリア、大きな氷を作ってよ!!」
俺がファナリアに言う。
「そうね。……見ていなさい!」
ファナリアは川の水を使って大きな氷を作った。
「ふふん、どう?」
「さすがファナリア!涼しい!」
「そ、それほどでもないわよ……」
ファナリアは赤くなって照れていた。そんなことにも気づかずに俺は氷で涼んでいたのだが。
夕方。
「もうそろそろ帰ろうぜ」
カイトがそう言い、皆で帰ることにした。
「えぇー、もっとバースお兄ちゃん達と遊びたい!」
ユナが不満そうな声をもらすが、これ以上遅くなると親の機嫌が悪くなる。夕飯のおかずのためにも早く帰らなければならない。
「また明日も遊ぼうね」
俺はユナにそう言うと、
「分かった!」
と言ってくれた。
「俺の言うことは聞かないのにバースのいうことは聞くのかよ!」
カイトが笑いながらそう言うと、
「だって、バースお兄ちゃんご大好きだもん!」
とユナは言った。
「ありがとな」
俺がユナの頭を撫でると、なぜかファナリアは少し不機嫌になった。
小さな林を抜け、十字路を右に曲がるとすぐに俺の家がある。その向かい側にカイトとユナの家があり、道路を進んでT字路を左に曲がるとファナリアの家がある。
俺たちは林の中を少し早足で歩いていた。
日が長くなったと言えど、太陽はその姿の半分を地平線の下に隠し、あたりは薄暗くなっている。
特に林の中は電灯もなく、木々の影が長く伸びるので暗かった。
ガサガサッと茂みが揺れる。
最初は風だと思った。だけど、違う。
風とは無関係に茂みが揺れている。
俺達は思わず立ち止まった。
そこから現れたのは狼型の――――魔獸。
魔獸は人の【魂】を喰らって成長する半生命体だ。【魂】を失うと転生が出来なくなってしまうため、魔獸が本当の「死」をもたらすモノとして恐れられている。
もちろん、防衛軍があるのでそんな簡単に町に入れるはずが無いのだが…………。
「グルァァァァァアアァッッ!!」
狼の魔獸はこちらに突進してきた。
「きゃあぁぁぁぁあぁっっ!?」
そこで初めて襲われることを認識したユナが悲鳴をあげた。
狙いは――俺。
「うおぉぉおぉおっっ!!」
必死で横に跳んだ。
脇腹を何かが猛スピードで通り過ぎていく。
狼型の魔獸はそのまま木に激突した。
凄まじい破砕音とともに木が根元からへし折られる。
やばい、あれをくらったら……。
ここにいる全員が顔を青ざめさせた。
だが、魔獸は待ってくれない。
木に激突した怒りをこちらへむけ、再び俺に襲いかかってくる。
マズい、避けられない。
俺は横に跳んだせいで地面を転がっている。ここから安全圏に逃げることなんて――。
しかし、魔獸は後ろに跳んだ。
なぜなら、そこに氷の刃が突き刺さったからだ。
「ま、間に合いましたわ……」
ファナリアが手を突きだして氷の刃を創りだしていた。
しかし、戦況は好転しない。
魔獸が速すぎて当たらないのだ。
「くっ……」
だんだん距離を詰めてくる魔獸。
そして。
「危ない!!」
魔獸はファナリアに跳びかかった。
俺はファナリアを突き飛ばす。
「グルァァァァァアアッッ!」
衝撃。
俺は魔獸に押し倒されていた。
魔獸は牙をむき噛みつこうとする。
そこに、声が響き渡った。
いや、響き渡ってしまったのだ。
「【交換転移】!!」
ユナの声だった。
奇妙な浮遊感。
俺とユナの位置が入れ替わる。
水っぽい音がした。
血が、舞った。
一人の、命が、小さくなって――――
――――そして、消えた。
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「……」
あの後、満足したのか魔獸は走り去った。
俺達は大人たちが探しに来るまで動けずにいたのだ。
皆、自分のせいだと自身を責めた。
俺達に見えない、治らない傷を作ってしまったのだ。
「で、どうする?断ることもできるよ?」
そんなことはできない。
俺は、次の言葉を口にした。
「……やる。ユナが生き返るなら、なんだってやってやるよ」
『君に面白い【運命】がありますように』
ここに来る前に聞こえた声が脳裏に浮かぶ。
この瞬間、俺の【運命】の歪みは確定されてしまったのだった。